scene.4 ※
バキャンッ!!
〝うおっ〟
ちょっとびっくりしたような、慌てたような、そんな声が耳の端っこに引っかかったような気がした。
音の元を見ると、俺の握り拳の中で粉々になったティーカップと零れたお茶、そして破片が突き刺さった俺の手から流れる血。
痛いはずだが、まったく痛くない。脳みそが沸騰しそうな怒りで、それどころじゃない。
「……おい」
〝ひゃいッ!!〟
「……なんだ? あいつ」
俺が憧れ、近藤さんたちが受け継ぎ、昭和の偉人の皆様方が築き上げてきた戦隊、ひいては特撮の文化を、あいつはクソゴミ番組の一言で馬鹿にしたよな? なぁ?
〝ソ、ソウデスネ〟
「今まさに近藤さんたちを殺そうとしてないか? アイツ」
〝さ、さようでゴザイマス〟
「俺は今すぐ戻れないのか」
〝………………今のままじゃ、無理だね〟
「……」
〝……まだ、見てほしい光景が、知ってほしい事実がある〟
創造主は何故か俺ごときに怯えたようにぷるぷるしながら、またカーテンの映像を再生し始めた。
……ああ、もどかしい。イライラする。
アンガーコントロールのために食いしばった奥歯から、パキンという音がするくらいには。
***************
不意に、周辺の空気がほんの少しだけ浄化されたようだった。
アン? とヒトガタはそちらの方を見る。
瘴気を浄化しているのは、今にも倒れそうな銀髪の女性魔法師と、金髪の男性魔法師。
彼らを従えるように、金髪の騎士が向かっていた。水と風の魔力を暴虐的に垂れ流しながら。
「ある……ディ、す……?」
分身にはらわたを引きずり出させたはずの、茶髪の男が呻く。ヒトガタはそちらに視線をやり、それから魔力の源に向けた。
「……おい」
騎士が漏らした、地獄の釜のような重々しい声。キヒ、とヒトガタの口元がギチリといびつな弧に開く。
『キヒヒ、テメェモ俺ト同ジ穴ノムジナッテカァ~?』
「……マモル殿を弑したのは貴様だな」
『ン~?』
ヒトガタは飽きた玩具を放り投げるように、ぽいと男を地面に投げ捨てた。
ごきりと何かが折れたような音がしたが、ヒトガタの興味は既に金髪の男にしか向いていない。
うーん、と瞬き2、3回の間考えるように揺れていたが。
『……アァ!』
ぽん、と彼は左手の平を右の拳で軽く打った。
『マモルッテ、アレカァ! アノ赤イゴミ野郎!』
びきり、と騎士の周辺が文字通り凍った。
それに気付かず――或いは気にもせず――ヒトガタはべらべらと喋り続ける。
『アイツハゴミクソニフサワシイゴミクソ野郎ダヨナァ~! 世ノ中、友情! 努力! 勝利!! ナァ~ンテコト、アルワケネエノニヨォ~!! ギッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッ!!』
悪し様に嗤うヒトガタ。それを、騎士は凍てつく眼差しで眺めていた。
「言いたいことはそれだけか」
『ハ?』
ザンッ!! とヒトガタの首が刎ねられる。
騎士が自らの剣で起こした剣圧で斬ったのだ。だが。
『ハァ~……。イキナリナニスンダヨォ~』
ずろり……と断面から瘴気が伸び、首と胴を繋げていく。さながらその様はアメーバのようである。
切り口からもうもうと靄の瘴気が上る。女性魔法師は耐えきれず、とうとう崩れ落ちた。
『オ前サァ~、素直ニナレッテ~。オ前モコノ世ノ中、暴力シカナイッテコト、知ッテンダロ~?』
その言葉に、とうとう騎士の忍耐が死んだ。
「……貴ィ様ぁぁぁぁぁ!!」
憤怒の咆哮と共に、彼自身の魔力と適応マナが黒靄を吹き飛ばすように荒ぶる。
彼は自己強化魔法を無意識に重ねがけし、ヒトガタに向かって恐ろしい速度で飛びかかった。
ヒトガタは嗤う。下品な嗤い声だ。
『ギヒャヒャ! ソウ! 暴力ガコノ世ノ全部! 信頼? 友情? 愛!? ソンナモン、クソゴミ野郎ノクソミテエナ虚言ト妄想ナンダヨォ!』
ギュロォォォォォッ!! と、ヒトガタは両腕を冒涜的な触手に変え、男に襲いかかった。
「黙れェェェッ!!」
男は触手を2本まとめて横薙ぎに斬り払う。
「貴様は、私に!!」
斬られた触手が復活する間も与えず、根元近くで斬り落とす。
「友になってもいいと!!」
ヒトガタの左肩口から渾身の袈裟懸け斬り。
「言ってくれた!!」
光属性付与がかかっているはずの剣が、そこで瘴気の穢れに耐えきれず溶解し始める。
「マモル殿を!!」
躊躇いなく剣を捨て、左手の盾でヒトガタの頭を殴り潰す。
「殺した!!」
その勢いのまま、盾をまっすぐ振り落とし胴体を真っ二つに。
「貴様だけは許さん!!」
盾がジュウジュウと音を立てて溶解していくので、素早く外し捨てた。
「滅する!!」
バックステップで距離を取り、利き手の拳に風の魔力を練り集める。
「〝断空〟ゥゥゥゥゥッ!!!」
渾身の正拳突き。そこから繰り出される風のマナの力。男の憤怒のまま、異常な威力でヒトガタに襲いかかった。
アルディス、ブチギレるの巻
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