scene.9
そう呟くと、謎の声の安心したような息づかいが聞こえた。
〝そうしてもらえると助かるよ。ワタシは君に直接手を貸してあげられないし、何度もこうして語りかけることができないからね〟
「へえ……そうなのか」
〝そう。今日は召喚直……だから波長が合っ――いるだけで……〟
「えっ、ちょっと!? なんか声遠くなってきたけど!?」
〝ああ――……間切れ……だ。最後……――。ハ……ズ・ドー――……は気をつ……てく……は――…………〟
「………………」
俺はしばらく、じっと耳を澄ませてみたけど、、もう頭の中で直接響くあの声は聞こえなくなってしまった。
はぁ……と息を吐きながら、浴室に戻った。
「……あっ」
キラキラ軍団のことについて何か知ってるか、訊くの忘れた……。
***************
「……これからどうなるんだろうな」
ブレスを持つ手を下ろして、俺は独りごちる。
たった一人で、魔王とやらがいる世界に飛ばされてしまった。
一応味方をしてくれるらしい謎の声も、もう全然聞こえない。
なにより、アークセイバーズの現場に無断で失踪してしまった形になったのが、とても心苦しい。
「……」
13年前、まだ俺が中学生で夢に向かって邁進していた頃。事務所も制作会社も現場もファンも大騒ぎになったことを思い出した。
「……今、向こうはそうなってる……、ってことだよな……」
もし戻れたとしても、あんな風に現場を混乱の渦に叩き込んでおいて、どの面下げて……ってなるんだろうな……。
「……はは、ははっ……、あ、はは……ははははは……!」
片手を目元にあてて、俺は嗤った。
仮に帰ることができたとしても、また仕事を与えてもらえるとは限らない。
スーツアクターも実力と信用がモノをいう職種だ、一度信用を失えば、実力があったとしても仕事を回してもらえないだろう。
「……帰れたとしても、帰れなかったとしても……」
俺の、憧れの人のようなスーツアクターになる、という夢は絶たれたも同然なのかもしれない。
俺は両手で顔を覆って項垂れた。
まったく知らない土地の異世界で、俺は生きていかなければならない。
それも、命の危険も有り得るような情勢で。
「……でも、やらなきゃならないんだよな……」
テーブルに置いておいたセイバーブレスをもう一度手に取って、ホルダーからミニ剣を外す。
ランプの光を鋭く反射する刀身は、明らかに元のメッキ製じゃなく、本物の鋼のようだった。
「……お前も、本物になっちまったのか?」
そう呟くと、白い光が切っ先に止まって、ふわりと膨らんだり縮んだりし始めた。
その様子がなんだか俺を励ましているような感じで、俺はつい笑ってしまう。
「……っふ、なんだ? 励ましてくれるのか?」
チカチカ、と白だけでなくいろんな色の光が集まってきて明滅し始める。剣も光をキラリと弾いた。まるで虹色に染まったようだ。
「……ありがとな」
剣を戻しつつ呟く。すると、光はまた部屋中に散っていった。
俺はその様を見ながら考える。
ハイパー戦隊という物語を作る役者から、この異世界を救うかもしれない勇者に仕立て上げられた俺同様に、変身アイテムのコイツも変わってしまった。
地球から一緒に来たのは、レッドセイバーの装備品一式であるスーツとブレス、変身解除に付随して付いてきた私服だけ。
俺は両手でブレスを握りこみ、額にあてた。
「……俺とおまえたちは一蓮托生だ、頼むぜ……」
そう、祈りを捧げるように呟く。
一瞬、キンという金打のような音が聞こえたような気がした。
変身アイテムくん\俺が変身者のメンタルを守護らなきゃ!/
謎の光くんちゃんたち\ボクたちをわすれてもらっちゃこまるな!/
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