extra.8-9
言ってから、面の中で苦笑する。
存外穏やかな声を出してしまったと、自分を嗤う。そんな資格もないだろう、とも。
苦笑いしつつも呆然としている石上の手に、気付け代わりにぐっと力を篭めてやる。すると彼は全身をぶるりと震わせた。
見たことがある。ステージイベントなどでファンと直接相対したとき、彼ら彼女らはまず大体がこのような反応だった。
『……はい!』
歓喜に溢れた声が返ってくる。
自分なんかに期待されて石上は嬉しいのか。そんな卑下にも似た思いが微かに頭の端を掠める。
だがそれ以上に、消え去ったとばかり思っていた力がまだ残っていたかもしれない。そう思わせてくれた石上護への感謝の気持ちのほうが大きかった。
近藤は手を解き、活性化していた魔力を鎮める。ぐぐぐ……と体が縮んでいく感覚に渋面が浮かぶ。
(……いつまでたっても、この感覚は慣れないな……)
知らぬうちに詰まっていた息を吐いたとき。
『ミャァッハァ~!』
「は?」
思わず困惑の声が漏れる。上を見ると。
「バッ……!!」
バカ娘、と思わず口に出かかった。
なんと、石上のロボの左手からヴィクトリアが飛び降りていたのだ。その頭には光る三角耳、臀部からはすらりとした光る尻尾。
彼はそれで察した。ヴィクトリアの体を使ってミャルがやらかしたのだと。
「あのバカ猫!!」
近藤は毒づきながらも、ティーターンのスーツを解かず落ちてきた2人を受け止める。
『おぉ~! ナイスタイミングだみゃ~』
「さっすがマイスターだわ!」
ヴィクトリアの口を借りるミャルと、パチパチと手を鳴らすヴィクトリア。喜んでいるらしい彼女たちを下ろした後、近藤は無言で闇属性の魔力を纏わせたデコピンを食らわせた。
「きゃんっ!」
『いだいニャッ!!』
結構痛かったらしい。少し仰け反ったヴィクトリアから猫魂ミャルがドゥルンッと出てきた。
近藤はその首根っこを掴み。
「あの高さからヴィクトリアを飛び降りさせるな! 危ないだろうが!」
モチーンと目一杯、ミャルの頬を両手で伸ばす。
ちなみにこれは、劇中でマギアセイジが変身前後問わずちょくちょくミャルにしていたお仕置きだ。そのため近藤も、かつてはしょっちゅう頬を伸ばしていた。光適正が失われるまでだが。
そのためだろう。ミャルは心底嬉しそうにニャハニャハと声を上げる。
それを見た近藤は、溜め息をついた。
「まったく……。何が嬉しいんだか」
「その猫にとっては、10年以上にわたり自分をまったく認識出来ていなかった主人が、仕置きという名目であろうが触れることが出来るようになったのだろう? ならば嬉しい以外の何者でもないだろうに」
「その通りだわ……! いたた」
いつの間にか3人の前にいたロノウェがバリアを展開しつつ、そう言う。おでこをさすりながら、ヴィクトリアがそれに賛同した。
そう思えば、ミャルには随分可哀想な思いをさせた。
が、それはそれ、これはこれだ。
パッと仕置きの手を離すと、誰かが背後に着地した音が聞こえた。その主はマクシーニとジャックらだった。
マクシーニは未だティーターン姿のままの近藤に頭をぐりぐり押しつけているミャルを見て、目を丸くした。
だが、疑問は後に回すことにしたようだ。
「今ドーラッドの方……少なくとも実働部隊の隊長格とは話をつけてきた」
彼は暴れ狂うアサルトイェーガーに視線をやる。
「あのクソ鉄巨人をなんとかするまでは、少なくともドーラッド軍は動かんと互いに誓約魔法も使った。とはいえ、ハイルズの命令がいつ下るか分からん。時間はあまりないな」
「……そうか」
近藤は前を向く。ティーターンのスーツを解いて、緊張に痛む心臓を宥めるように深呼吸。それから胸の高さで手をかざした。
「……フォスカンテラ」
マギアセイジの変身アイテム、彼の司る光の力を宿すカンテラが現れる。
近藤は息を飲んだ。内心では、自分に光の適正が戻っているのか疑問視していたからだ。それと同時に、殊更ヴィクトリアとミャルは喜びを露わにした。
『ミャッ!!』
「やったわねマスター!」
2人に抱きつかれ、カンテラを落とさないように抱え込む。と、体を支えるように肩に抱かれた。
マクシーニだった。彼の目には涙が浮かんでいる。
に、と彼は笑う。この数年見たことのない、心からの笑みだった。
「ぶちかましてやれよ、シゲユキ!」
彼は近藤の仲間の中で唯一、近藤が〝勇者〟と言われていた時代を知っている。そのため、彼が光の適正を少しでも取り戻したことに積もる思いがあるのだろう。
一歩離れていく仲間たちに頷き返し、近藤はカンテラを掲げた。
今なお、本当に上手くいくのかという疑念と緊張はある。だが、今はうまくいく気がしていた。
何故なら。
「……魔法は勇気、魔法は絆」
絆は足りている。あとは、自分が勇気を出すだけだ。
次回、光の賢者、覚醒します。
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