scene.10
言い切ったとき、近藤さんの上半身が胸のあたりを中心にひくりと動いた。
これは、人間が息を飲んだときの体の動きだろう。
その証拠に、こっちにもぎちりと握りこむ音が聞こえてくるくらいに、彼は両手に力を篭めていた。
『……そんなワケがあるか。気付いたときには光のマナが見えなくなっていた。俺は光属性の適正を失ったと悪魔族どもからも言われたんだぞ』
『いーえ』
顔を背けたまま言う先輩に、俺とセイバータケルは首を振る。
『さっきロノウェがこう言っていましたよ。大海の中のたった一粒の砂のような、ごくごく僅かにだけれど、確かにあなたの中に光適正は残っているって』
俺の言葉に、近藤さんはこっちに向き直った。
『まさか……、そんなはずは……』
「マイスター! 少なくともロノウェは、冗談や軽口は叩いても、戦場でウソをついたりしたことはないわ! そうでしょ!?」
おっと、ここでヴィクトリアちゃんが参戦してきた。
さっきから俺達の会話に割り込みたくて仕方なさそうだったもんな。
乗り出し過ぎて落ちないでくれよ? 地面から10メートル以上あるんだから、今の左手の位置。
さて、ここからは、いかに俺達の思いが近藤さんに通じるかだ。
もうここは単純に、後輩スーツアクターとしてじゃなく、ただの1ファンとしての言葉で勝負させてもらおう。
『あなたの演じたアレストブルーは、幼い頃の俺の心を救ってくれました。今こそ俺は、その恩を返したいと思っています。あの瘴気ロボをなんとかできる可能性があるあなたのチカラを、目覚めさせるという形で!』
「私だってそうよ! この世界に一人で放り出されて、何も分からないまま操り人形にされるところだったって言われて、本当に怖かったし、助けてくれたことにもの凄く感謝してる! だから私は戦うの! マイスターや皆のために!!」
『あなたはこれまで、ヒーロー、ダーク戦士、悪役と、様々な役柄を演じてきました。でもあなたのキャリアの始まりにあるのは、ヒーローじゃないですか!』
『……! そ、れは……』
昭和ジョッキーテレビシリーズ最後の作品。
仮面ジョッキーノワールRV。その前作である仮面ジョッキーノワールの主役・仮面ジョッキーノワールが、近藤さんのテレビ作品デビュー作だ。
それが近藤さんの、ハイパーヒーロータイムスーツアクターのキャリアの始まりとなる。
加齢につれて激しいアクションをしないキャラクターを演じることも増えてきたが、動きのキレはまったく衰えることがなかった。
この世界に来てからは、ずっと戦いや訓練に明け暮れていただろうから、尚更だろう。
ああ、ダメだ。俺の中の幼稚園児が、もう一度近藤さんのヒーロー姿を見たいと強請っている。
なんせ、アレストブルーの次に推しになったのが、マギアセイジなんだよ!
『あなたのヒーロー魂は死んでなんかいない!』
そうだ。他人の前でどれだけ冷淡に振る舞っていても、近藤さんの人間味は死んでなんかいない。
じゃなきゃ、俺に室内での自由を与えやしなかっただろうし、食事だって熱が下がった後も粗末なものにしただろうし、定期的に水浴びなんてさせなかっただろうし。むしろ牢屋に監禁したはずだ。
そして、俺の見張りという名目でヴィクトリアちゃんを置いていったのだって、そのせいだろう。
『劇中でどれだけ叩きのめされても立ち上がってきたヒーローたち、信念に基づいて自分の道を歩んだダークヒーロー、自らの目的のために手段を選ばない悪役。あなたはまさに、自分の演じてきた役を、この世界で体現している! その証拠に、戦隊やジョッキーの巨大戦力のみんなを呼び出せているじゃないですか! だったら、また戻れるはずです! 光のチカラをもつヒーローに!』
『そうだミャそうだニャー!!』
『ギャオォォン!』
『親分、覚悟するときですぜぇ!!』
『キャシャァ!』
「私もマモルと同じ意見だわー!!」
うおっ!? 俺が言い切ったと同時に巨大戦力の皆とヴィクトリアちゃんが一緒になって声を上げ始めた!
急に大声上げるからメチャクチャ驚いたよ!
あ、鳴き声のないマシン型の皆さんは、動きとかヘッドライトと合わせてクラクションで主張してる。
……なんか後ろのほうに気配が複数あるな。ちらっと見てみるか……。
……あー、十数メートル先に、なんか見覚えのある鎧や魔法使いローブの一団も含めた団体がいる。いつ来たんだろう……。
……ていうかこれ、〝魔王〟の正体が人間だってバレない? 大丈夫か?
護の説得は続く…………
そして、次回から毎日投稿に戻ります。
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