extra.8-2
悪魔族たちの魔法による壁のすり抜けなどを駆使し、近藤たち勇者召喚に関わりがある者たちにとっては見慣れた魔法陣が、石床に書かれた部屋に出る。
今はレイラインの魔力の吸い上げのみが行われている状態らしく、等間隔に設置されている魔法水晶がほのかに光る。
「……」
魔法陣を見て、悪魔族らが何やら考え込み始めた。
「どうした」
ロノウェは近藤一行の中では、魔法関連の作戦立案などを一手に引き受けている。
その彼を含む悪魔族が、魔法陣と水晶を見て渋い顔をしているということは。
「……このまま、単純に魔法陣を壊すわけにはいかん、か」
「ああ」
「どういうことだ、説明しやがれ」
マクシーニが苛立ったように説明を求める。
フン、とロノウェは鼻を鳴らした。
その顔には「見て分からないのか、これだから魔法素養のない人間は」と書かれている。
「この魔法陣には細工がされている。闇属性の適正のある者が見れば明らかだ」
「魔法陣を壊しちまったら、別の場所に飛ばされる細工がされてンだよ」
それを聞いて、ジャックが驚いて声を上げる。
「マジか! どこに繋がってるとか見れねえのか?」
「……分からん」
ロノウェは言うと、右手を軽く横薙ぎに振る。
瞬間、魔法陣と水晶はどす黒い煙にも似た瘴気に濃く覆われ、元の姿がまったく分からなくなってしまった。
ウソだろ、と言ったのはマクシーニかフェリックスか。
「我々ですら転送先の座標を特定出来ぬ程に、この魔法陣は穢れて……いや、待て……!」
その瞬間、ゴワリ、と魔法陣と水晶から強い波動が放たれた。
闇のマナとは圧倒的に違う。おどろおどろしい瘴気のそれが、近藤たちを呑み込もうとする。
「退避!!」
近藤の叫びに、悪魔族たちは総出で転移魔法を発動しようとした。が。
一歩遅く、瘴気の闇に一同は呑み込まれる。
ゾゴバァ……という恐ろしい感覚と共に一同が吐き出されたのは、城下町を出て数㎞ほどの草原地帯だった。日の出の方向がうっすら白み始めている。
一同を待ち受けていたのは、完全武装したドーラッド・イルネイヴァスの同盟軍。
近藤らを挟む布陣で、前方にドーラッド軍、後方にイルネイヴァス軍。歩兵、騎兵、弓兵、魔法兵。あらゆる種の武装兵が待ち構えていた。
「……罠、か……」
カーノンが朴訥と呟く。それに反応したのは悪魔族の男の1人だった。喚くように言う。
「いやいやいやいや! オレらのせいジャねーしィ! さっきまでは召喚陣もあんなンじゃなかったしさァ!」
「……今そのことを言い争っていても、仕方ないだろう」
近藤は言い、一瞬でアトロクの姿へと転じる。
マントを脱ぎ捨て、残虐剣ブラッドスレイブを虚空から召喚した。
「どのみち、イルネイヴァス軍が動いていることは分かっていたことだ。……こうも早く、戦力を整えてくるとは思っていなかったがな」
そのとき、前後の同盟軍陣から同時に行軍ラッパの音が鳴る。鬨の声が上がり、同盟軍が一団に向かって雪崩れ込んできた。
悪魔族たちは擬態を解き、本来の姿に戻る。そのうちの1人が舌なめずりしてこんなことを言ってきた。
「シゲユキぃ。連中、喰っちまっていいんだろう?」
そう問われた彼は一瞬だけマクシーニの方を見やる。
「ハッ、既に俺はドーラッドの人間じゃねえ。気にするこたぁねえぞ、シゲ」
視線を察したのだろうか、槍の保護布を取り払いながらマクシーニが言う。
「俺はもうお前のモノだ。俺に命令出来るのは、お前だけだ」
その言葉に、近藤はアトロクのマスクの下でひっそりと溜め息をつく。
時折、マクシーニの向けてくる感情が途轍もなく重いと。
自分はただのスーツアクターだったはずなのに、あの日からドーラッドの中でも五指の指に入ると言われた槍使いに、忠誠と親愛と執着の入り混じったものを向けられるようになった。
だが、今ではそれは信頼の証だと受け取ることにしている。
強い光を宿す深緑の目は、揺るいでいない。
その意思に応えるため、近藤は深呼吸ののち、姿勢を正す。
「……まずはこの局面を乗り切る。投降の意思ない者は斬れ」
〝魔王〟らしく、敵には悪辣に。それが人間種から〝悪〟とされた者の振る舞い。
近藤は王道に忠実に、〝魔王〟の皮を被る。
「前方は俺とマクシーニがあたる!」
「御意!!」
「後方はジャック、フェリックス、カーノンに任せる!」
「Aye,aye,sir!」
「おうよ!」
「心得た!」
「悪魔族たちは臨機応変にやれ!」
「……ふむ、では私はシゲユキのサポートをしようか」
「ヒャハハハハァ!! 狩りだ狩りだァ!!」
「あんまりはしゃぎすぎないでよ!」
それぞれの返答を返してきた仲間達に、近藤は声を張る。
戦場の始まりです。
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