scene.2
正確には俺もないけど。
こんなことをエラそうに、未成年の女の子に訊ける立場じゃないのは重々承知している。
でも近藤さんの思考を推察するのに、この質問は必要だった。
少し怯えたような、戸惑ったような顔をしながら、彼女は質問に答えてくれた。
「……ないわ」
「そう。俺も人間を殺したことはない。でも食肉にできる魔獣は、騎士団指導のもとで離宮への道中狩らされた。命を奪う、という経験は体験済みってことになる」
「……そう……」
すっかり消沈してしまった。
でも、決して近藤さんたちがこの子をないがしろにしているというわけじゃない。と、俺は思うんだ。
「……ヴィクトリアちゃん。近藤さんはね、君に人殺しの業を背負ってほしくないんだよ、きっと」
「……え?」
顔を上げた彼女は少し涙ぐんでいた。
参ったな。こういうとき差し出せるものなんて、何も持ってないぞ。
「近藤さんは、何十人じゃきかないだろう人数の亜人種の人殺しをさせられた」
人数は俺の推測だけどな。
でも近藤さんの様子は、特大のトラウマを乱暴に心の内側に押し込めて動いているようにしか見えなかったんだ。
「マクシーニさんとジャックさんは元従軍兵として、敵の命を奪うのが当たり前の環境下にいた。だから慣れたくはないけど敵を殺すのに慣れている」
特にマクシーニさんは、無感情に敵を殺すことが出来そうだ。
グラッド第三団長さんをブッ刺した動きは、完全に無造作だったしな。
ジャックさんは、召喚出来る武装がこの世界からしたらオーパーツもいいとこだ。
この世界に、実弾銃やら各種手榴弾なんてあるわけないだろうしな。
「カーノンはプロの格闘選手だから痛いのには慣れっこ、相手や自分が怪我をするのも見知っている」
これは俺の実体験。
どのスポーツだって、怪我の確率は0じゃないんだ。
「フェリックスはゲーマーだけど、きっとこの陣営に入ってから相応の覚悟をして今の戦闘スタイルを選んだんだろう」
彼はプロゲーマーなんだし、自分の使用キャラのコスプレで実際に体を動かして戦う必要なんて、本来必要ないはずなんだ。
でもフェリックスはそうすることを選んだ。そこに至るまでに、彼なりの葛藤や決意があったに違いない。
「だから近藤さんとマクシーニさんは、この三人組は連れていった。でも君はまだ未成年の女の子だ。……敵の返り血を浴びさせるのは、君のご家族に申し訳が立たないって、そう思ったんじゃないかな」
多分、だけれどな。
「いくら同じヨーロッパ圏内で戦闘状態が続いている国があるとはいえ、君は戦争とは無縁に暮らしてきた女の子だ。そんな子に、人殺しの業なんて背負わせられない。例えこれが、戦後長く戦争状態に突入したことがない日本人の平和ボケした思考だとしてもね」
当たらずとも遠からずのはずだ。
本来、近藤さんはファンにはとても優しく接してくれて、同期の諸先輩方も人格者の1人と称するぐらいだ。
ヴィクトリアちゃんを殺しの現場から遠ざけるぐらいの憂慮は、するんじゃないかと俺は思う。
「……そう、ね」
ゴシゴシと自分の目元を拭いながら、ヴィクトリアちゃんは言う。
「そうよ。マイスター・シゲユキは基本的に優しい人だわ。自分の罪の意識と向き合いながら、戦っているもの」
……そうか。やっぱり近藤さんは、過去に苦しみながら〝魔王〟をしているのか……。
「だからこそ、私心配なのよ!」
バァン! とまた机の天板が叩かれた。
「みんな強いわ! それは分かってる! 私が足手まといになりかねないってことも!! でも、家族や友達、新体操の仲間と引き離されて、何もかも分からない状態だった私を連れ出してくれたマイスターたちは、私にとってこの世界での家族みたいなものなの!」
ぽろぽろと涙を流しながら、ヴィクトリアちゃんは悲痛に叫ぶ。
「お父さんやお兄ちゃんみたいな人たちがピンチになるかもしれないのに、私1人この大きなお城の中で待機してるなんて、耐えられない!」
わっ、と泣きだしてしまった彼女の背に手を伸ばしかけて、引っ込める。
俺は所詮、この城の中じゃ捕虜だ。
そんな俺が彼女を慰めるだなんて、烏滸がましいと思ったんだ。
そのとき。
「……ん?」
普段は俺の側に来ない黒マナが数体寄り集まりながら、ふよよと机の上空に留まった。
そして。
「え?」
発動した闇の魔力に、流石にヴィクトリアちゃんも気付いたらしい。
顔を覆っていた両手を外して、まじまじと見つめていた。
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