scene.7
「てめえもだぞ。なんでお前は平気なんだ」
マクシーニさんがまた、いつの間にか持っていたカップを持ちながら、俺に呆れた視線を送っていた。
俺は、いつの間にか目の前に置かれていたカップに目をやる。おもむろに持ち上げると、すぐにわっと白マナが集まってきた。
それに女の子がびくりと反応する。だが、ロノウェ以外の人は彼女の様子に軽く首を傾げたり視線を送るに留まった。
多分、彼らの中で白マナが見えているのは、女の子とロノウェと呼ばれた悪魔だけなんだろう。
「ねえお兄さん。その光のマナちゃんたちは本当になんなの?」
「ふふふ」
近藤さんの背後でロノウェが唐突に笑い始めた。
「娘御よ、光のマナはその人の子の願いに応じているのだよ」
「お兄さんのお願い?」
「そうだ。人の子、お前、光のマナに何を願った?」
「えー……?」
浄化が終わったのか、各々散っていく白マナを見ながら、俺はお茶に口をつける。
ん? なんか、日本の紅茶ともドーラッドの紅茶とも違う風味だな。でも美味い。
「最初にこの世界の……ドーラッドの食事に手をつけた時に、あまりに何らかの薬品を盛っていますって味しかしなかったので辟易していたら、白マナがわっと集まって、全部取り除いてくれたんですよ」
そう言うと、ドーラッド出身のマクシーニさんと、ドーラッドに呼び出された近藤さんが首を傾げた。
「……薬品を盛っていた? シゲ、そんな味したか?」
「いや……」
「……俺の考えなんですけどね」
カップを置いて、俺は続ける。
これはアルディスさん兄弟にすら漏らしたことのない、完全に俺の中で留めていた考えだ。
「もし、10年前以上からドーラッドの食事に何かしらの工作がされていて、マクシーニさんたちも気付かないように精神に細工されていたとしたら、というのはどうでしょうか」
それに、ロノウェが頷いた。
「あり得るだろうな。あの大陸のレイラインは穢れている。人間共には見えないほど、薄くではあるが」
「えっ」
レイラインってのは魔法師団塾で習ってるぞ。
簡単に言うとこの世界の大地に走っているマナの流れみたいなもので、動物で例えると血管とか神経とか、そういうものだ。
それが薄ーくでも穢れているってどういうことだ?
という俺の疑問を質問する間も無く、ロノウェはペラペラと喋り続ける。
「レイラインに瘴気を流し、それを以て大地を穢し、汚染済みの大地の恵みを食う者たちを穢す……。あり得ないことではない。迂遠なやり口だが、大勢の人間を瘴気に染めるのであれば、有効なやり方ではある。誰にも気付かれなければ、ではあるがな」
「……」
誰にも気付かれなければ、か。
「光のマナが人の子の食事を浄化しているとなると……」
ふと、ロノウェが俺に視線を向けていた。
「光のマナが浄化する前は薬品の味がすると言っていたな」
「え、はい……」
「これは私の推論だが」
そう前置きしたロノウェは、さらりとこう言ったのだ。
「穢れたレイラインの影響を受けた作物と水で出来た食事も、薄くではあるが瘴気で穢れていると言える。だが人の子、お前はそれを一口目で看破した。薬品の味という異変としてな。光のマナたちはお前の感覚を感じ取り、自主的にしろそうではないにしろ、お前の食事を浄化し続けている……ということだ」
「あぁ……」
なるほど。言い得て妙だし、後半は結構あってるかもしれない。
マナたちはなんかこう、マッ●ロクロ●ケ的な挙動と可愛さがあるからな。
あっ、そうだ。
「あの、白マナたちに頼んでるのは俺の食事のことだけじゃなくてですね」
「ほう?」
「白マナたちから見て、〝もうどうしようもない〟人たち以外の食事も同じように浄化してやってくれ……と」
俺の言葉に、ロノウェと近藤さん、マクシーニさんが目をみはった。
「……人の子、それは……」
「……シゲ」
「ああ……。もしかしたら、ドーラッドの連中だけでも、瘴気の洗脳が薄くなっている者がいるかもしれんな」
「……ふむ……」
それは有り得るかもしれない。
なにせ、俺の味方をしてくれている人たちは大体白マナによって食事が浄化され続けている。
俺が来てからだとしたら、もう1ヶ月は経ってるからな。仕事以外では俺にべったりしがちなアルディスさん、規格外の魔法師なアルフィンさん、治癒術師で光属性に強い適正のあるリシアーナさん、彼らに追随する能力の持ち主あたりは、もう浄化が終わっててもおかしくないのかもしれない。
「しかし穢れているといっても……許容範囲……」
ブツブツとロノウェさんが自分の世界に入ってしまった。
溜め息をついて、近藤さんが俺を厳めしい表情で俺を見つめてきた。
護もマナちゃんたちが某ス●ワタ●みたいと認めてしまいました(笑)
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