scene.5
「その名前は、ドーラッド側についている半分嘘です」
俺の言葉に、その場の空気が少し変わった。
何となく、「コイツやるな……!」という雰囲気に感じる。
「召還後、国王に名乗ってほしいと言われたんです。ですが馬鹿正直に名乗るのは、野生の勘でとてつもなくマズいと感じたので、咄嗟に母の旧姓を使いました。本名は石上護といいます」
これを名乗るのも、実に1ヶ月ぶりかぁ……。なんか感慨深いなぁ……。
と、マクシーニ前団長が何かブツブツ言っている。
「……嘘だろ……あのトラップを召喚直後で、しかも野生の勘で回避しただと……!?」
何のことだろう。確かに今考えたら、あの謁見自体が色々トラップめいていたような気もするけど。
「……いしがみ、か。何と書く」
「ストーンの石に、上方向の上で石上です」
「そうか……。スーツアクターとか言っていたが、所属事務所は?」
「日本アクショングループメントです」
答えると、あの人は崩れ落ちるように両手を顔で覆って背を丸く項垂れてしまった。
その様は、何かに深く打ちひしがされたようで、強い悔恨を感じさせる。
「……マイスター……」
「……」
女の子が立ち上がって背をさする。
その反対隣で、マクシーニ前団長が難しい顔をして唸っていた。
……この人……近藤さんからすれば、自分がかつて所属していた事務所の顔も知らない若い後輩が、自分と同じように異世界に召喚されてしまったことに、何か思うところがあったんだろう。
……やっぱり、顔が見たいな。
親によれば、幼少の頃の俺が唯一はっきり認識していたスーツアクターで、今なお俺の一番の憧れのスーツアクターなんだから。
「……近藤重幸さん」
びく、とアトロクのゴツい両肩が跳ねる。
「俺は、20年前あなたが変身後を演じたアレストブルーに助けられた一ファンだったんです」
……近藤さんは顔を上げない。でも俺はめげずに話し続ける。
「ミカゲというキャラクターの人格を作り上げたのは、変身前の俳優さんだけが作り上げたものじゃないはずです。変身後のあなたの力も合わさってこそだった。変身前と変身後、アレストブルーというキャラクターの強さ、信念、乗り越えた過去、それらはいじめられていた当時5歳の俺の心を助けてくれました。自分で乗り越える力、助けに周りを求める勇気、仲間と協調するべきときを見極める目、それらを養えと教えられました」
「……そんないいモノじゃない」
「それから俺は、アレストンジャーたちのような、子供たちに夢と勇気を与えられるようなヒーローになりたいという夢を持ちました。それと同時にチビで弱気だからナメられるんだと思い、剣道を始めました。ハイパーヒーロータイムを卒業してしまった周りの同級生に馬鹿にされても、道場でお前なら全国優勝を狙えるとしつこく絡まれても、俺は小さい頃の俺が救われたようなヒーローになりたいという夢を譲りませんでした」
のろりと近藤さんが顔を上げる。
「小学校高学年になってから、俺は特撮番組のヒーローは、変身前の俳優と変身後のスーツアクターという人が分担して演じているということを知りました。俺の憧れのアレストブルーを演じていたのが、古林さんという俳優さんとあなたが分担して演じていたということを知ったのもそのときです。それから俺の夢は「スーツアクターになって」という言葉付きになりました。もちろん、入りたい所属事務所は憧れのあなたがいたNAGです。どんな配役でもいいから、あなたと一緒の場面でアクションシーンを撮りたかった。いつしか持っていた二つ目の夢を打ち砕かれたのは、中1の頃でした」
「……突然、俺が失踪したからか」
「はい」
ここで女の子の表情が曇る。
この子、日本人じゃなさそうなのに、この件を元から知ってたのか?
「特撮界隈とそのファン界隈は、上へ下への大騒ぎでした。俺もその中の1人でした。その頃は特撮オタク活動を一時的にやめて剣道に打ち込むことで、なんとか気持ちを保っていた節があります」
「………………、お前、は……」
「はい」
「………………」
……近藤さんは苦しそうに、何かを迷っている。
が、決意したように口を開いた。
「……俺の、家族がどうなったか、……嫁と子供らがどうなったか……、知っているか……?」
その言葉に、その場にいた全員、興味なさそうに座禅を組んでいたはずのアジア系の人ですら、俺に視線を向けた。
「……失踪から7年後、奥様が両家ご両親の薦めで、失踪宣告を申し立てて受理されたそうです」
ヒュ、と近藤さんの喉から変な息が漏れた音がした。
「受理が終わったあと、奥様はまだ高校生だった次男さんと一緒にご実家に戻られたそうです」
俺はなにせ、NAGの養成所から数えて30年以上は下の年期だ。あまりに年代が離れていて、詳しいことは何も聞かされていない。
……でも、近藤さんと同期の現アクション監督から、飲みの席で以上の2点だけは教えてもらえた。
『お前があまりにもアイツのことをまだ覚えてくれているから』と涙の感謝をされながら。
「……俺が知っているのは、それだけです」
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