scene.3
もらった布を広げてみると、紐で襟のスリットの幅を調整するタイプの簡素な服だった。
袖と頭を通してから、紐で襟を苦しくない程度に絞めて、簡単に蝶結びで留める。
上掛けを避けて足をベッドから出す。
いつの間にか上の服と揃いのズボンに履き替えさせられていたらしい。いつの間に……。
素材は、現代日本の綿100%Tシャツより、ちょっとごわつく感じだ。生成り色っていうのかな? 染色加工は多分してないんだろう。
ケット・シーがスリッパを足下に揃えてくれた。礼を言ってから履いて立つ。
……うん、胸部が痛くて微熱があるくらいで、他には支障はない。
「……ちょっと頭がフラフラするけど、歩くのは大丈夫、だと思う」
「そっか。じゃあゆっくり行きましょ」
そう言って、彼女は先導をしてくれた。
普段の俺よりもゆっくりしたペースで、時間をかけて辿り着いた部屋は小さめのリビングといった感じだった。
天井には恐らく魔法式のシャンデリア。火のついていない暖炉があり、その前には絨毯が敷かれている。その上には、アジア系らしい平民服の男性があぐらをかいて座っていた。
暖炉から少し離れた場所にローテーブルがあり、その周りを2人がけと1人がけのソファーが囲んでいる。
2人がけのソファーには、離宮を襲ってきた人たちが座っていた。
1台にはマクシーニ前団長。向かいのもう1台には某格闘キャラのコスプレ西洋人と多分「ガチ」ものの迷彩服西洋人の2人だ。西洋人コンビは、今はこの世界の庶民の平服を着ている。
「はい、ここに座ってね」
女の子が、1人がけのソファーを指し示した。
……その向かいの1人がけソファーには、アトロクの姿のままの、あの人。
俺は緊張しながら座る。すると、あの人が口火を切った。
「……まず、手荒な真似をしてすまなかったな。だが、ああでもしなければお前を確保できなかった」
「……手荒、ですか」
多分、ドルディラス離宮を襲ったこと、俺を斬りつけたこと、両方のことだろう。
「……どうして、俺を確保したかったんですか」
すると、アトロクの爪先がぴくり、と動く。
ややあってから返答があった。
「……お前が、異世界召喚されたからだ」
「……どうして俺が召喚されたと断言出来るんですか」
すると、マクシーニ前団長が口を挟んでくる。
「俺らにゃ、魔族の支援者がいるんだよ」
言い終わった瞬間、あの人の背後に黒マナが凝縮していった。
そこから影のように、長い黒髪と山羊みたいな丸く曲がった角の、やたらと美形なイケメンが現れる。
「それが私だ」
一見にこやかだが、その笑顔の裏には人間を心身共に食い物にできる胡散臭さが垣間見えた。
(……だけど、あのフードよりマシだな)
こっちのヒトの方が、フード野郎よりもまだ清廉さがある。
「人間共に気付かれずに紛れ込むなど、至極簡単なことだ。まあ、城の中には私ですら命が危うい手練れがいるようだったから、流石に忍び込むことはしなかったが」
「……なるほど。城勤めの人が城下町の飲み屋で飲んでるときに、彼らの話を盗み聞いてたんですか」
とすると、使用人さんたちのリテラシーは随分ガバガバだな。城の使用人教育はどうなってるんだ。
……人の振りして我が振り直せだけどな。俺だって、日本の居酒屋で同期たちと飲んでるときに外部に漏れたらヤバイ話をしてないなんて、立証出来ないんだし。
「そういうことだ」
黒髪人外イケメンが頷く。
そこでマクシーニ前団長が俺を睨んできた。
「小僧、ここからはこちらの質問に答えてもらう。嘘なんぞついたらどうなるか分かってるだろうな?」
すると、ことん、と小さなものがテーブルに置かれた。
俺はそれを視認した瞬間、ソファーから腰を浮かせてしまう。
「セ、セイバーブレス……!!」
「これはそういう名前なのね!」
……だから、なんで君はそうワクワクした顔をしてるのかなぁ。
「いいか、てめえが何か一つでも嘘をついてみろ。その瞬間このオモチャは――」
「は?」
瞬間的に、自分でもびっくりするぐらいのド低い声が出た。
こんな声が出たの、撮影中にレッドセイバーと気持ちがシンクロしてしまって、敵のガチ悪人役に演技を超えたガチギレ演技をぶちかましてしまって以来だ。ちなみに担当スーアクは何年も特撮現場に携わり続けたベテランだ。
カットがかかった瞬間、ベテランと監督には土下座した。笑い飛ばされつつ許してもらえたから良かったけど。
……放送を見たら、役者の子もノリノリで俺に寄せまくったアフレコしてて、びっくりしたやら恥ずかしいやら自分が情けないやらだったけど。
……それよりも、だ。
次回。オタク、キレる。
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