scene.2
新章開始です。
「……うわあああぁっ!!」
妄想なのかリアルなのかよく分からない夢。その中で、虚ろな目をした自分自身に斬られるというとんでもない目覚め方をしてしまった。
「っ、うぐ……!」
ずきん、と肩から胸、腹にかけて、鋭い痛みが走る。
それで思い出した。
「……ああ、そうだった、俺……」
あの人に、負けたんだった。
過呼吸にも似た荒い息。それをなんとか整えつつ、のろのろと身を起こす。
目の覚めた部屋はどことなく古……レトロな印象を抱かせる壁の部屋だった。
一般庶民の俺にも馴染みのある硬さのベッドマットレスに、多分羽毛っぽい軽い掛け布団。
ベッドの側には簡易的なテーブルと机。
他には何もない。窓すらも。
「……まるで、軟禁部屋だな」
思わずぽつりと呟く。
なるべく傷に障らないように、傷口に巻かれた包帯に手を当てる。じくじくと熱い。体も重く熱っぽい。多分、まだ微熱の範疇ではあるけれど。
白マナが一つ、「大丈夫か?」と言わんばかりに目の前に漂ってきた。
「……大丈夫。死んでないよ、まだ」
人差し指をかざすと、それに白マナは留まった。
ていうか、窓がないのに妙に明るいと思ったら、白マナで埋め尽くされてるんだ、この部屋。
「……お前たち、俺の傷の治りを早くしようと集まってくれてるのか?」
指に留まっているひとつ以外にも、複数の白マナが頷くようにふよんと動く。
上半身は包帯だけで何も身につけていない。セイバーブレスも。だから、今は俺の周りにいるマナたちが、唯一の味方だ。
とたん、ぞわ、と身震いした。
(――……ほんとうの独りぼっち、か……)
ふー……、と細く息を吐く。
厳密にはマナたちがいるが、自分自身でしか俺をなんとかできないんだ。慎重に立ち回らないと。
ひとまず、ここがどこなのか把握するところから始めたい。
「あ、お兄さん目が覚めたのね!」
「うわっ!?」
いつの間にか部屋のドアが開いていて、そこから女の子が顔を出していた。
部屋の中に入ってきた彼女は、どこかで見た気がする。
……ん? この世界の町娘みたいなワンピースを着て、髪も一本お下げにして前にたらしてるけど、この子……。
「……新体操の子か? きみ……」
「そうよ!」
どうやら当たりだったらしい。
彼女は持ってきたお盆の上の水差しから中身をコップに注ぐ。それを俺に差し出してきた。
「安心して。ただの飲料水だから」
俺が何かを思うよりも早く、コップと水差しの中が白マナでみっちりと詰まった。
部屋中どころか、俺や彼女にくっついていた白マナ、廊下に漂っていたらしい白マナまで総出で、だ。
彼女はかなりびっくりしたようだった。元から大きい目をもっとまん丸にしていた。
「きゃっ、な、なにこれ!? 光のマナちゃんたち、どうしたの!?」
「……ああ」
どうやら、彼女は白マナが視えるらしいな。
腕を目一杯に伸ばしてコップを自分から遠ざけている彼女から、それを取った。
「待ってれば解散するよ。ほら」
白マナたちは前からの俺の頼みを、律儀に守ってくれているだけに過ぎない。
その証拠に、水の浄化を終えるとわらわらと散っていった。
部屋の中に漂い直したり、俺にくっつき直したり、彼女の側に漂っていったり、廊下に行ったり。自由気ままだ。
「……お兄さん、いっつもこんなふうなの?」
彼女は、俺をとんでもないモノを見るような目で見てきた。なんでだ。
「何が?」
俺は水を飲みながら相づちのように言う。うん、すっごいいいとこのミネラルウォーターみたいな味だ。
「光のマナちゃんたちのことよ」
「……黙秘権」
こちとら何も知らずに拉致されてるんだ。これぐらいの意趣返しはしてもいいだろう。
と、彼女は少しむくれたようだった。もう、と軽く両頬を膨らませている。
「もう! ちょっとぐらい教えてくれてもいいじゃない!」
「ここはどこなんだ? 君は誰だ?」
彼女の文句を敢えて無視して訊ねる。
すると、彼女についてきていたらしい二足歩行の白黒模様の猫――教えてもらった通りなら、きっと猫妖精のケット・シーだろう――が持っていた布を持ち上げて俺に渡してきた。
「マイスターやおじさまたちが、あなたから話を聞きたいらしいの。歩けるなら連れてこいって」
……なるほど。いきなりボス格の尋問ってわけか。
「……試してみる」
ちょっと熱っぽいが、ずっと白マナがくっついていることと、白マナたちが全開で浄化した水を飲んだことで、起きた直後よりは体調が回復した気がしていた。
結果、多少の時間、話をするぐらいなら大丈夫だろうと判断したんだ。
護が着せられているのは、魔王陣営の男性陣がパジャマがわりにしている生成りの簡素な服です。
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