extra.4
アトロク?視点です。
「こん……ど……さ……」
ぱたり、と青年の手が地面に落ちたのと同時に、男は深いため息をついた。
自分が斬り、地面に倒れ伏した。その彼から漏れ聞こえた、己の家名。
(――……久しぶりに聞いたな)
まさか、こんなところで日本風の呼ばれ方をするとは思わなかった。
だが、心を動かすことはしない。出来ない。
アトロクと呼ばれたスーツを纏う男は、同郷らしき青年の側に膝を突く。
すると、彼が装着しているブレスレットからペーパーナイフのようなモノが、まっすぐ眉間を貫かんと飛んできた。
それを右の人差し指と中指の間で挟んで止める。
「……マイスター・シゲユキ……」
さく、と草を踏みしめながら、彼に付き従う少女が近寄ってきた。
男――シゲユキは、黙って青年を仰臥させる。
意識を刈り取る闇属性の支援魔法を纏わせた、左肩からの袈裟斬り。
なるべく浅くなるように留めたつもりだったが、思ったよりそうではなかったらしい。
傷口からは血が流れ、うっすらと覚えのある騎士団の衣服を、じわりと赤に染めていく。
「……ヴィクリトア。止血だけしろ」
シゲユキは少女――ヴィクトリアにそう命じる。
彼女は何かを案じるような目で見上げてきたが、やがてゆっくりと青年の傷に手をかざした。
集中する彼女を邪魔しないように、しかし手早く、青年の左手首にあるブレスレットを外した。
瞬間、まるで罵倒するかのようにガチャガチャキンキンパラリラパラリラと、出せる音という音を大音量で出し始めたブレスレット。
青年にくっついていたマナたちまで便乗し、シゲユキの周りで魔力爆発を起こし始めた。それは彼の周りにいる闇のマナが全て吸収していたが。
「……チッ」
舌打ちの後に溜め息が出た。この健気な変身アイテムは、己と主が今どのような状況に置かれているのか分かっているのか。
そんな苛立ち混じりに、小さな剣をブレスレットに押し込めるようにセット、脅すように握力を籠めた。
ぎし、と軋んだブレスレットはそこで音を止める。マナも爆発を止めた。
「……お前たちの主の生殺与奪権を今握っているのは、こちらだということを忘れるな」
それにブレスレットは答えなかった。持ち主を人質に取られ、黙るしかなかったと言った方が正しい。
そのとき。
闇の魔法陣が地面に描かれ、そこから頭に角を持つ美丈夫、そして傷だらけの仲間たちが現れた。
「シゲ! 大丈夫か!」
「……マクシーニ」
最初に声をかけてきたのは、両側から仲間に支えられた男。
シゲユキはブレスレットを握りしめたまま近づく。
「……お前がそこまでの手傷を負うとはな。手強い相手がいたのか」
「あー……」
そう声をかけると、マクシーニは溜め息をついた。
「グラッドの野郎はそこまでじゃあなかったんだが……」
「アルディスとかいうのが、なあ……」
マクシーニの槍を代わりに持ち、血まみれの袖なし胴着の西洋人が、気まずそうに口を開く。
「ああ……。勇者とやらの前では清廉な騎士然としていた色男が、仲間が去った瞬間にとんでもない狂戦士に変貌したのは驚いた……」
そう言ったのは、砲身をひん曲げられ顔面に殴打痕をこさえた、顔面蒼白な迷彩服の西洋人。
「ふうん」
それにシゲユキは普通であることのような相づちを返す。すり寄ってきたブラックブル、ゴリランディア、シーカイザーを撫でつつ。
「鏡合わせの存在が出来た感想を聞かせろよ、マクシーニ」
堅い声音のくせに笑い事のような言い草で訊く。目を反らすマクシーニ。
「……ノーコメント」
その態度に、彼の態度がほんの一瞬だけ軟化する。
「……ふっ」
愉快そうな吐息を漏らすと、また元の堅い声に戻り、美丈夫に言う。
「全員揃った。やってくれ」
「ああ。お嬢さん、一度魔法を止めなさい」
「ええ」
美丈夫はヴィクトリアに声をかけてから、魔法陣が地面に描く。
全員が魔力の光で包まれ、それが消えたときには、彼らの姿はなかった。
次回よりまた新たな舞台に移ります。
視点は変わらず護が中心です。
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