scene.9
……が、それがますます彼の逆鱗に触れたらしい。
「邪魔をするな小僧!」
「マモル殿が我々を騙す必要がどこにあるというのです!」
「貴様ら兄弟の影響があれば、謀ることなどいくらでも覚えようぞ!! 何せ、貴様はあの底意地悪いエイルズにつきまとっておったし、そこな兄はあの高潔なアルゲイン卿の息子とは思えぬ腹の黒さよ!! なれば、貴様らが囲って手放さぬこの小僧も、人を謀る手などいくらでも覚えようなァ!!」
……うわぁ。底意地悪いのはアンタじゃないのか。
ていうか、逆恨みもここまで来るといっそ哀れだよ。
確かにアルフィンさんの腹の底は俺には分からないけど、アルディスさんに接しているときは本当に弟の身を案じている兄にしか見えない。
アルディスさんはアルディスさんでおもしれー男属性だけど、俺に対しては誠実であるように常に自制……ゴホン努めている節は、其処此処で窺える。
ていうか、室内警備の第三団員の人も「うわぁ……」みたいな目になっちゃってるの、分からないのか?
「……あの」
かけた声に反応した一瞬の隙をつき俺は、合気道の四方投げの要領でグラッド第三団長をひっくり返した。
どぅん……という音が、絨毯に吸い込まれて静かに消えていく。
唐突に投げられて目を白黒させている人に、俺は敢えて感情を抑えて言った。
「俺が嘘を言っているという確証も取れませんよね? 当然だ、この世界の人たちは俺の母国語を単なる形としか認識出来ない。確証もとれない、証拠も出せない、そんな状況で一方的に他人を詰ることが騎士のやり方とは思えませんね」
「……き、きぃさまァ……ッ!!」
流石、騎士団の団長を任命されている人だ。すぐにガバリと起き上がり、俺に向かって拳を振るってきた。
が。
(――遅い)
俺はわざと、顔面にあたるすれすれでそれを受け止めてやった。
パァン! という拳と掌がぶつかり合う音は、アルディスさんとのものより大分軽い。
というかソニックブームが起きないなんて、この世界の騎士団長としては弱い部類なんじゃないのか。
「……!!」
「これでも、アルディスさんたち第一騎士団の人たちが俺に教えていたものは、ただの一般人だった俺をこうも変えてしまうくらいのものでして」
「ぐっ……、この……!!」
アルディスさんよりもタッパのある巨躯を見上げて、目を細める。
ぎぎぎ、と俺は握力をどんどん強めてやった。立派な造りのはずの小手がギシギシ言ってるが知ったことか。
ぐうぅ、とグラッド第三団長が唸った。見ると顔面脂汗だらけで顔色も悪い。
それを見て、頭がすぅっと冷えた。
(……やり過ぎた)
俺は手を離し、自分の襟元を直す。
「……ドーラッド王国の剣たる騎士団の一つを預かる方なら、もう少し言動に気をつけた方がよろしいかと思います」
「……フン!!」
右手を押さえながら、ドスドスと足音を立てて去っていくグラッドさんを見送る俺たち。
ふと、背後から俺の肩を誰かがポンと叩いた。
「……気になさる必要はございません。マモル殿は正論しか言っておりませんよ」
アルディスさんにそう言われ、俺は思わず苦笑した。
「……ついでに、嘘もついてないんですけどね」
言って、まだオリバーさんが具現化してくれているメッセージを見上げる。
この世界の住人は読めない日本語のメッセージを残した、勇者と勇者召喚に異を唱える存在。
前半は日本人、或いは日本語に精通した地球人である可能性がある。それは素直に心強い。この世界に連れてこられた地球人は、俺1人じゃないんだと思えるから。
が、問題は後半が両立しているということだ。
「……これを書いたのは、魔王陣営の誰か……」
「そう考えるのが妥当かと」
俺の呟きをアルディスさんが肯定する。
ていうか、いつまで俺の肩に手を置いとくつもりなんだろう。
そう思ったときだった。
ガガァン……!! という音とともに、離宮全体が激しく揺れた。まるで巨大地震のようだった。
俺は咄嗟にアルディスさんを強引に押さえつけながらしゃがみ、叫ぶ。
「全員しゃがんで!! 出来れば頭を守って!!」
まだ続く揺れに、全員が本能的に従ってくれた。
いつの間にかアルフィンさんが全員の頭上にバリアを張っていたらしい。ドーム型の半透明な光に、落ちてきた埃や飛んできた軽い小物がぶつかる。
揺れは、思ったよりも短い時間で収まった。
「……地震……じゃない……?」
「こ、この地方は、このような揺れは十数年に一度起こるか起こらないかでございます……」
俺の呟きにノーマンさんが、震える声で答える。
と、部屋の入り口の方で、ドサッという音が。
「マ、マードレイ団長殿……!!」
ま
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