scene.5
魔法師団内、アルフィンさんの執務室。
リシアーナさんの部屋は整然とした中に、花瓶に生けられた花や薬草のプランター、魔法に使う天然石が女性らしさを醸し出していたが、ここは……なんというか……。
「……紙部屋……」
俺の一人暮らしの部屋もぶっちゃけ綺麗とは言いがたい有様だったが、ここはその上をいく。
床から天井までみっしりと本やら資料やらが積み上がり、ドアから応接ソファーと執務机までの導線部分にしか床が見えない。
応接セットや机にも、書類やら魔法道具らしきものが雑然と積まれている。
「ワァ……」
思わず声に出てしまった。アルディスさんの溜め息が聞こえる。
「……すみません……。兄は魔法の才能と実務能力以外の全てを忘れて産まれてきてしまったような有様でして……」
「おや! それは聞き捨てならないねェ!」
執務机のあたりで書類をガサゴソしていたアルフィンさんが、にゅっと姿勢を伸ばした。
「人生何ごとも遊びがなきゃ楽しくないだろう! というわけで私のこの部屋も遊びの一環だよ!」
「何が遊びの一環ですか、単なるものぐさでしょう」
剣技の如き鋭いツッコミも、彼は気にしていないようだ。応接机の上の書類を雑に端に寄せ、俺たち二人に座るように促す。
「まあまあ、いいじゃないか。それよりも本題はこちらだよ」
と言って、隣り合って座った俺たちに向けて何枚かの書類を見せてきた。
「……ふむ……、陛下への報告書簡の写しですか」
「そう」
俺も大分すらすらこの世界の文字が読めるようになったので、書類を持つアルディスさんの手元を覗き込む。
基本的なことは、これまでに説明してもらったことと変わらない。……が。
ドーラッド王国を含めたこの大陸内の国で散発的に起こっていた、犯人不明のテロじみた攻撃。
それが1ヶ月くらい前からドーラッド王国に集中し始めた。王族に深い関わりのある地で次々に警備兵や代官、高級貴族が殺され、そして先日、とうとう王弟一家に害が及んだ。
王弟のハロルド様と王弟妃ミーシャ様は、お子さんを庇って死亡。まだ幼い兄と妹の二人の子供は、数少ない護衛と共に行方不明……。
「酷いものだな……」
無意識に呟く。まだまだ親の庇護が必要な年頃の子供が、こんな目に遭うなんて。
「……でも、なんで俺はこの事態を知らなかったんですか?」
そう、まるで意図的に隠されていたような感じすらある。
「1ヶ月前といえば、俺がこの国に呼び出された頃合いじゃないですか。そうしたら、俺だって分かるくらいに城の中がバタつい、て……」
……待てよ? もしかして。
「……本当に、わざと俺に察知させないようにしていたんですか?」
よくよく考えれば、俺がこの1ヶ月間よく接していた人物たちといえば、第一騎士団の面々と魔法師団の一部だ。
他の人もすれ違えば挨拶はしてくれるが、向こうの方が望んで付き合いを深めようというような意図が見えなかったので、俺もそのままにしておいた。
「……第一騎士団に俺の訓練を任せ、魔法師団の一部団員で俺の魔力の面倒を見る……。その狭い人間関係の中に俺を留めておいて、他で起こっていることから俺を切り離しておく……。まるで、俺が何も知らずにいたバカみたいじゃないですか」
こちとら、この国基準だと屈指の童顔であっても、中身は既にスーアク歴7年のれっきとした社会人だ。
それなのにこの扱いは、子供に対するそれだとしか思えない。
アルフィンさんが頭を下げてきた。
「申し訳ありません、マモル様。……ですが全てはあなたさまに、魔王に相対出来る力を滞りなく修めていただくため。そうするようにと、陛下が城内すべての者へそう命じられたのです」
「……だから、俺はこの段になるまで何も知らなかった」
「はい」
「……それなら、その言葉は王様から聞きたかったですね」
俺なりの皮肉をこめた物言いは伝わっただろうか。
俺も子供じゃないんだし、そういう意図があっての処遇なら最初から教えておけよ、ってな。
アルフィンさんが頭を上げる。困ったような顔をしていて、チラ見したアルディスさんとそっくりだ。
「……マモル殿。決して、我らにあなたへの翻意があったわけではないのです。ですが、我々はこの国の騎士。陛下のご下命に逆らう術を持たないのです」
「王族や大公家・公爵家などの大貴族でもない限り、ですね……。それでも、王に徒なすとなれば翻意有りと判断され、有罪が確定次第処罰されるのですから」
「分かった、分かりました、もういいです」
これ以上この件の話をしても建設的じゃない。そう思った俺は左手をふいっと振って話を打ち切った。
隣の気配がしょんぼりしていく。……この人、本当俺の前でだけ色々と感情が忙しいなぁ。
みんな、王命込みとはいえ親切心で護に教えていませんでした。
護のことは成人したてだと、みんな思っていたので。
東洋の神秘()
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