scene.4
扉を出て、内閣組閣階段にさしかかったとき。俺とアルディスさんの前にいたグラッド第三団長が、ギロリとアルディスさんを睨む。
「……弟の方のマードレイよ。先ほど陛下が仰っておられたのは真か?」
「……真か、とは?」
「とぼけおって……!」
うわぁ、怖い怖い。階段前なんだから、乱闘とかしないでほしいんだけどなぁ……。
いや、階段落ちはそりゃやってみたいけど……と思考をスーアクの方面に飛ばしかけたときだった。
「訓練所にヒビを入れるほどの手合わせと陛下が仰っていたではないか!! 貴様、勇者様にどのような訓練をしておるのだ!!」
俺にも関係のある話の方向になってきた。
隣のアルディスさんをちらっと見上げる。
(……ひぇ)
思わず後ずさったくらい、彼の表情は「無」だった。驚きを声に出さなかったのを自画自賛したい。
いや、無の奥底に、北極も真っ青の冷たさと太陽とタイマンを張れるぐらいの激情が忍んでいる。
グラッド第三団長の隣にいたアルフィンさんも、すすすと俺の側に寄ってきた。
実兄が思わず逃げるくらい今のアルディスさんは、怖い。
「……お言葉ながら、」
発する声音もマジで怖い。俺、こんな冷たいアルディスさんの声、聞いたことない気がする。
「私程度に殺されるようでは、魔王に打ち勝つなど到底無理な話。であるからこそ私は心を鬼とし、マモル様に一日でも早くお強くなっていただくために鍛練を行わせていただいているに過ぎない」
……だよな。〝天叢雲〟を食らわせてしまったあのときから、その点に関するアルディスさんの考えは変わっていない。
「だ、だが、それとこれとは」
「……ならば、」
……いっ!?
「グラッド殿は、私よりもマモル様のためになる鍛練メニューを組めるのですか?」
……地の底から這うような重圧に、青と緑のマナが反応して、水と風の魔力がとぐろを巻いている。
と、ぐいぐいとアルフィンさんに背中を押された。
「ちょっ、なんですか!?」
「あの状態になったアルディスは、私では力ずくでしか止められません。穏便に止めるには、あなたが最適解なのですよ。ほらほら!」
「力ずくでしか!?」
「いいですから、ほら!」
「っわ!」
押され、俺はアルディスさんの背中に激突する。
「……マモル殿? どうされました?」
振り向いて俺を見てきたアルディスさんの目は、多少和らいでいるもののやっぱり怖いままだ。
「あ、あー……、えーーーと……」
……恨みますよアルフィンさん……! どうしろってんだ、俺に……!!
あ、そうだ。
俺はアルディスさんの影から出て、グラッド第三団長に言う。
ぽんぽんと子供をあやすように、ブチギレの背中を叩きながら。
「アルディス第一団長は、これ以上身近な人に死んでほしくないだけです。その身近な人のカテゴリに俺も入ってしまった。だからこそ、俺に怪我を負わせるという本末転倒なことをしてまで、俺が魔王に対抗出来るように鍛えてくれているだけなんですよ」
「ぬ……」
よしよし、態度が軟化してきたぞ。
「グラッド第三団長、俺も本当に辛くて辛くてたまらないというわけではないですから。それに、アルディス第一団長以下団員のみなさんは、本当に良くしてくれていますし。なので、もうこの件は」
とどめに朗らかに笑ってやる。
「ぬうぅ……」
グラッド第三団長は、笑顔で見上げる俺と、悪鬼の形相のアルディスさん、さらにまだ俺らの背後にいるアルフィンさんと視線を移して、盛大な溜め息をついた。
「……勇者様が仰るのであれば、わしはこれ以上何も言いますまい」
「助かります」
俺は軽く会釈する。その間、グラッドさんはアルディスさんにこう言った。
「若造めが」
そう吐き捨て、グラッド第三団長は組閣階段を降りていってしまった。
俺が姿勢を起こすと、ふしゅ~……というような、細く長い吐息が聞こえる。
「……アルディスさん」
宥めるように肩をポンポンと叩く。すると、少し困ったような顔で俺の方に向き直ってきた。
「……見苦しいところをお見せしてしまいました。申し訳ありません」
「いや……あなたが、俺と他の人が話をしてるときに遠回しに嫉妬してるのは既に騎士団の周知の事実になってるんで、今更ですよ」
「えっ」
びしり、と固まってしまった彼を尻目に、俺はアルフィンさんに尋ねる。
「今の人、アルディスさんに個人的な恨みでもあるんですか?」
「いいえ……前任のマクシーニ卿に対してです」
すっ、と手で階段を示してきたので、俺は遠慮無く階段を降りる。右隣にアルフィンさんがついて、説明を続けてくれた。
「マクシーニ卿は、このじゃじゃ馬のアルディスが父の次に尊崇する騎士でした」
「性格面も武の腕も、素晴らしい人だったと聞いています」
アルディスさんからたまにポツポツと漏れ聞く程度だけどな。
「おや、そうでしたか。では手短に。ダグラス卿とマクシーニ卿は同じ槍使いでしてね」
「一方的にマクシーニ様を敵視しておいでなのです、あの方は」
いつの間にか俺の左隣にいたアルディスさんが、アルフィンさんの言葉に続く。
「その関係なのでしょう、私もあの方に敵意を持たれているのです」
なるほど、そういうことか。
アルディスさんのことは元から気に食わない小僧と思ってたと仮定して、その小僧が気に食わない槍使いがいなくなった後の第一騎士団長に納まったからなおさら気に食わない、ってことか……。
ままならないなぁ……。
「それだけではないのですよ。あの方、本当は第一騎士団で陛下の御許で働きたかったらしくてですね」
肩を抱かれてぐるん、とアルフィンさんに騎士団屯所の方に進路を取られた。
「その手を離せ」
「あっ痛い痛いイタイ! 私の手がメキメキ言ってるよアルディス~!」
お気に入りのペットを取り合うような兄弟コントを流し、俺は続ける。
「つまり、マクシーニ氏の失踪に伴い第一騎士団団長の座に空きが出来た。グラッド第三団長はそれを機に第一騎士団に転属、出来れば団長の座に就きたいと思っていた。けれど自分の転属はなく、第一団長の座にはアルディスさんが就いたことで、半ば逆恨みに似た感情を持った……と?」
「……端的に言えば、そういうことになろうかと」
アルディスさんが頷くのを見て、俺は思わず天井を仰いで溜め息をついてしまった。
(……どの騎士団にいたって、結局は巡り巡って国のために働いてるってことには変わりないのになぁ……)
こういう所属や人間関係の縺れってのはどの世界でもあるんだなぁ……。
「人生、時にはままならないもんですねぇ……」
「まったくですね」
俺の独り言めいたぼやきに、アルフィンさんが頷いた。
「ともかく、マモル様は一度私の執務室においでいただけますか? 調査結果をお教えします。アルディスも来なさい」
その言葉に、俺とアルディスさんは頷いた。
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