scene.12
「……私も分かっているのです。マモル様は庇護されるだけの方ではないと」
ぽつりと、アルディスさんが口を開き始めた。
「ですが時折、不安に思ってしまうときがあるのです。いくらその者が強くとも、一瞬の隙を突かれて殺されてしまうかもしれないのですから」
ほんのちょっとだけど目を見開いてしまった。
まさかアルディスさんが、不安なんて感情を内に抱えているとは思ってなかったんだ。
「……私が幼い頃、当時の第一騎士団団長でもあった父が死にました」
えっ、凄い重い話が出てきたな……。
「父は幼い私に剣を教えてくれた人です。その頃の私は、当時の第一騎士団団長であった父に尊敬と憧憬の念を抱いていました。なんぴとにも負けはしないとも。……ですが、当時の陛下を狙った悪しき心の魔法師の攻撃で、奮戦の末に死んだ。その事実は私の心に重くのしかかりました。そのせいか、私は魔法を忌避するようになり、剣のみに生きると決めました。母や兄曰く、幼い頃は私もマナが視えていたようなのですが、その事件を境に見えなくなったと。恐らく、その件が原因なのでしょう。魔法を専門に修めていた兄を疎ましく思い始めたのもその頃です」
うわぁ~……。重い、重いぜ……。
家族の死や確執って話は、どこでも重い話だからなぁ……。
「結果、私は騎士団に入る頃には独断を極めていました。周囲から孤高と言われるほどに。周囲の連中は皆弱い、だから私独りで十分だ。本気でそう思っていたのです。そんな私の剣と鼻っ柱を追ったのが、マクシーニ・エイルズ前第一騎士団長でした」
出た、エイルズさん! アルディスさんの前の第一団長だったのか。
武術だけで断空の技術を使う、推定剛の者……。どんな人なんだろう。
「剣術以外は何も見ようとしなかった私を叩きのめし、一から人として大事なことを叩き込んで下さいました。私の当時の性格の悪さのせいで険悪だった同期にも、前団長は説いて下さって……。おかげで、私は少年の時分よりは他人に対してうまく立ち回れるようになったと思います」
「良かった……と言うべきなんでしょうね。良好な人間関係は仕事を円滑に出来ますから」
そうそう。集団の中に独りよがりな奴が一人いるだけで雰囲気がギスギスするからなぁ。
騎士団なんて、命のやりとりが発生するだろうところなんて、余計にそれが命取りになったりするだろうしな。
「……ですが、私に人と騎士の道を説き直して下さった前団長も、失踪しました」
……えっ?
「……エイルズ前団長は9年前、我々団員の誰にも、陛下にも、他の城勤めの者にも、家のほうにも何も言わず、忽然と消えたのです」
お父さんの次は恩人兼上司か……!
「尊敬した父の死と、大恩ある団長の失踪。……私が信を置いた方は、皆生死問わず消えてしまう。私はそれが怖い」
……それはトラウマになるよな……。
もしかして、アルフィンさんを嫌ってるような素振りを見せてるのって……。
「……異世界からおいでになったあなたにも、陛下のご下命以上の役割も感情も持つつもりはありませんでした。ですが、戦いにおいては素人だと仰るあなたは、我々の想定以上の強さを持っていました。心身も技も。本当に素人なのかと疑うほどには。そしてあの模擬戦の際、あなたが召喚した燃え立つ八つ首の大蛇と共に私を喰らい抉った技で、私はあなたを慕わしく思うようになったのです。私が抱える不安を、燃やし尽くしてくださるのではないか、という期待と共に……」
……ああ、俺が手加減も照準反らしも出来ずに中段突きで喰らわせちゃった『天叢雲』ね……。
あ、ちなみにレッドセイバーのヤマタノオロチは蛇タイプじゃなくて東洋龍タイプだ。かっこええやろ。
しかしそういや、あの後からそれまでと比較して俺への心身的な距離を縮めてきたっけな、アルディスさん。模擬戦直後なんか、半分興奮状態で饒舌にまくし立ててきたし……。
「そして私はあなたに、死んでほしくない、邪な者に引っかかってほしくない、いつか私を超えるほどの男になってほしい、」
……ん?
「誰のモノにもなってほしくない、いつまでも私の目の届くところにいてほしい、」
……んんん?
「……たとえ私の信用する者相手であっても、長々と話をしないでほしいなどと、思ってしまうようにもなりました」
……んんんんん~?
「こんなことを親族以外に思うのは、初めてのことです」
「……そう、デスカ」
……最初の模擬戦の後の饒舌っぷりから予測はしてたけど、改めて口にされると、こう、重いなぁ……。
「毎日お迎えにあがっているのも、どこの輩かも分からない連中に惑わされていないか拐かされていないかと不安になるのと、少しでも話をする時間がほしくて……」
……俺のことを好意的に見てくれるのは構わない。んだけど、もうちょっと、なんかこう、爽やかな感じでいてほしかったぁ……。
自覚出来て自省しようと思っている節が見受けられるだけ、まだマシなのかもしれないけれど。
アルディスは他人にはドライですが、大切だと思った相手には湿度が重い人(を目指しています)です
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