scene.10
「……あの。熱心なのは良いんですが、その熱量が頼もしいを通り越して怖いです」
「え」
俺の抗議に、マードレイさんが呆気に取られた。
周りの騎士達も、こっちを注目している。
「俺だって元々は、競技用とはいえ武道をやっていた身です。その時の師範やコーチも俺に目をかけてくれていたので、あなたが俺に期待しているのは見て分かります。でも、今の熱量に匹敵する期待をそのまま向けられたことはないです、流石に」
「は……、はい……」
おお……、見る見るうちにしおれていく……。
ごめんだけど、ホントに重いんだよ……。
……だけど、マードレイさんの事情を推定すると、勇者という存在に期待しちまうのは仕方ない部分もあるだろう。
「せめて小出しにしていってもらえませんか? 俺の実力に合わせるようにして。いくらあなたでも、真剣を握るのが初めての人に山のような大きさの獣を倒せって言わないでしょう?」
チョップしたその手でマードレイさんの肩をぽんと叩く。かしゃんと鎧が小さく鳴った。
お、表情が冷静になっていくな。
「……確かに、剣を握って数分の者に大型猛獣狩りは無理ですね」
「でしょう? さっきは俺も妙な興奮状態になってたっぽいのでやっちまいましたけど、本来はレッドセイバー……あー、さっきの赤い格好じゃない、今みたいな素面のときが俺の素の能力なんです。その辺を考慮していただけると」
「……はい」
……うーん。さっきからしょんぼりしてるの見てると、なんか第一印象とは随分違うように見えてくるな……。
なんて言うか、最初はクールな一匹狼だったのに、仲間との共闘を経て違う一面が見えてくる系の戦士みたいな雰囲気だ。
……いや? もしや彼はその系譜では? だってマントが青いし、髪と目の色も合わせれば、ちょうどクール系の系譜のブルーセイバーと似たような配色だし。
と、そのときだった。
「うむうむ、素晴らしきかな」
その声と拍手の音に、全員がその方を見て、そして一斉に跪いた。マードレイさんも俺の手を離して同様に。俺も頭を下げる。
だって、誰が訓練所の出入り口に王様が佇んでると思うよ!
「マードレイよ」
「はっ」
「マモル殿はどうかな」
「はい。鍛えれば、必ずや強くなられましょう」
「うむ。エイルズのこともある。決してそなたたち全員も、無理はするなよ」
「はっ!」
……エイルズ? 誰だ?
「マモル殿」
「あっ、はっはい」
声を掛けられて俺は顔を上げた。
目が合うと、にこやかに王様は笑う。
……だけど、やっぱり胡散臭いんだよな。
「そなたのこれからを、我々ドーラッド国一同、期待しておるぞ」
「……はい」
「必ずや、魔王を打ち倒しておくれ」
「……善処します」
とりあえず、ぼかしの意図をこめておくか。通じるかどうか分からないけど。
「うむ」
王様は満足げに頷いた後、邪魔をしたなと言ってその場から踵を返した。
ついてきていた側近だか護衛らしい人たちも、あとについていく。その中に混ざっている黒フード。
「――……ッ!?」
視界に入った途端、俺は顔を伏せた。
あの人は絶対、俺が召喚されたときにいた黒フードの人だ。
あのときは何も感じなかったのに。今は視えてしまった。
真っ黒なモヤがしゅうしゅうととぐろを巻くように、全身を覆っているのを。
そのまま俺はじっとする。動けなかった。脂汗が凄い。
(……なんなんだ、あいつ)
王様はただ胡散臭そう、で済ませられるんだが、あいつは……違う。
関わりたくない。嫌な予感がする。
俺がもやもやと考えていると、一般騎士さんたちが詰めていた息を吐いた。
「まさかこんなところに陛下がおいでになるなんてな……」
「ああ……。多分、トウドウ様の様子をご覧になりに来たんだろうが……」
「緊張したぜ……」
そんな声を背景に、俺も息を吐いた。
で、横からビシバシ突き刺さってくる視線だよ。
「……あの? 何か?」
「いえ」
ひぃん、さっきと同じ熱量でマードレイさんが見つめてくる……。
とりあえず、俺は息を吐いた。
「……あの」
「はい」
「名字に様付けされるのはなんかむず痒いんで、せめて様は外してもらえませんかね……」
「ですが」
「勇者は敬う存在っていうなら、本人の意に添わない扱いをするのは、敬ってないってことにならないですかね?」
「……」
よっこいせ、と俺は立ち上がり、マードレイさんに手を差し伸べた。
「どうか、名前で呼んでもらえませんか? あなたがこの世界での俺の師匠になるんでしょうし、弟子や部下を様付けで呼ぶのはおかしいでしょう?」
マードレイさんは俺を呆然と見上げていた。
が、フ、と笑うと、立ち上がって言う。
「それがあなたの望みなら。ですが、私のこともアルディスとお呼び下さい」
「えー……」
「アルディス、とお呼び下さい」
うっ、またあの圧が。
……仕方ねえなぁ。
「……分かりました……、アルディスさん」
「……」
おい、なんで不服そうに眉を顰めた?
なんだこの人、日本のサブカルで言うところの「おもしれーヤツ」属性か?
「……まあ、いいでしょう。それでは、改めてよろしくお願いします、マモル様」
こう言って、ぎゅっと握手してきた。
「……あの、様は外しません?」
「おや、それでは私のことも呼び捨てにしていただかなければ」
「えええ!?」
そんな俺たちのやりとりは平行線のまま三往復し、結果的に互いに折れることになったのだった。
でも、ここの人たちとは仲良くなれそうでよかった。
なんだかんだ、馴染むことが出来て良かった。
(……俺にできることが増やせるように、頑張らないとな)
一般騎士さんたちに囲まれながら、俺は改めて思うのだった。
第二話、これにて終了!
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