scene.8
やっぱり必殺技はいりますよね!
ふふ、とマードレイさんが笑う。嬉しそうに、待ち望んでいたかのように。
「……なるほど。そのお姿になりましたか」
「そうです。謁見の間でも言いましたが、俺はこの姿で日々、悪と戦う戦士を演じていました。で、この姿はいわゆる武装形態です」
「ほう」
「つまり」
俺はセイバーソードを戻して、木刀を拾い直す。
「王様の言葉通りなら、先ほどよりも身体能力が多少なりとも上がっていると考えて下さい」
「……心得ました」
言うと、マードレイさんは笑みを深くした。
「さあ、続きを」
……ぞく、と身震いした。
マードレイさんから感じる気迫がよりいっそう深く、鋭くなったからだ。
(……俺に一発当てさせる気はあるのかね)
マスクの下で苦笑する。だが、気分がいくらか高揚しているの俺も一緒だ。
(……敵が強ければ強いほど、燃え上がる。こいつはこういうヤツだ!)
だん、と地面を強く蹴って、踏み込みつつ上段から振り下ろす。
まあ簡単に受け止められるわな。
がごぉん、とおよそ木刀同士がじゃない音が耳につく。
ぎぎ、と鍔迫り合いに持ち込む。マードレイさんが目を見開いた。
「――っ! なるほど、確かに。ですが」
ゆら、と力が揺らいだかと思うと弾き飛ばされた。
慌てずに飛び退いて着地する。
……流石に、騎士団の団長だ。たかがスーアクの俺如きに競り負けるような人じゃないな。
もう一度飛びかかる。何度も攻守が交代するヒリヒリするやり合い。
気がつけば、剣を振る音、俺とマードレイさんの息づかいの音しか聞こえなくなっていた。
もう、何十合木刀を打ち合っただろうか。ガゴッ、とまた鍔迫り合いになったとき、マードレイさんが言う。
「……トウドウ様、このままでは延々と終わりませんよ。私に一撃を入れると申し出たのはあなたです」
わーってらぃ! どうしようか考えてんだよこっちも!
……って待て、おい、まさかまだ腕力的には本気出してなかったのか!?
ギシギシとマードレイさんが俺を床に押しつけるように力を篭めてくる。
この人、スマートなナリして中身は筋肉ゴリラか!?
……仕方ない。
俺はわざと力の向きを盛大にずらして、一瞬の隙を作る。
それを使って、一旦片手を木刀から放して地面に突き、ほとんど寝そべるような姿勢でマードレイさんの膝裏に渾身の蹴り。
「っ!?」
チッ、流石に気付いたか。避けられたけどまあいい、抜け出すのが目的だったからな。距離が少しでも間だけで御の字だ。
サッと起き上がりバックステップ。って、一瞬で木刀を俺の方向に薙いできた!
っぶねぇ、あともうちょっと飛びが足りなかったら殴り倒されてたわ。
「……なかなか、良い勘をお持ちです」
「……それはどうも」
「……フフ」
「……ハハ」
互いにふてぶてしい笑みが漏れる。
だけど勘違いしないでほしい。俺は今、どうやってこの試合を終わらせるか必死に考えてるんだ。
これはアクション監督が組み立てる殺陣じゃあない。リアルタイムで相手の動きに対応し、一撃を叩き込まなきゃならないんだから。
「――……、」
精神が研ぎ澄まされていく。すぅ……と意識がマードレイさんにだけに向かう。
ダンッ、と俺は強く地面を蹴る。強く強く、もう互いにささくれてボロボロな木刀同士が打ち鳴る。
〝――我が名と魂を継ぐ者よ。そなたは、このようなものではないはず。〟
俺の頭の片隅で、強化イベント回のとある台詞を思い出す。
レッドセイバーの魂のルーツは、日本の誇る英霊の一柱、ヤマトタケルノミコト。
俺はそんな存在とはほど遠すぎる、凡人だ。
だけど、レッドセイバーの剣術を、変身前の俳優とアクション監督と一緒に作り上げてきた自負は大いにある。
俺自身は、レッドセイバーの変身者・ヤマトタケルの名と魂を継ぐ青年ではない。が、唯一の、レッドセイバーの片割れだ!
ガゴゴッ、とマードレイさんが横に剣を薙いだ。その威力を受け流し後方に飛ぶ。
もう一度飛びかかる。まるで自分も周りのスローモーションのようだ。
剣圧なのかかまいたちなのか判断出来ないモノが、ビュンビュン飛んでくる。
その中をかいくぐりつつ、俺は木刀を構えた。
「――神剣抜刀!!」
……ん? あ? ちょっと待て!?
なんで俺は今、当然のように必殺技発動のキメ台詞を!?
ヒィィ!? ゴワリと俺の背後から変身の時とは比にならないオーラがぁ!!
なんか、ギャラリーの皆さんが怯えてるし!!
「天叢雲!!」
待てって俺ぇぇぇ!! なんでレッドセイバーの必殺技その一・八岐大蛇のオーラと共に敵を貫きながら背後2、3mまで高速移動する突き攻撃、を繰り出してるんだぁぁぁぁぁ!?
決着。
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