scene.4
「この世界の事も少しは勉強したいので、図書館を利用することって出来ます?」
そう訊くと、マードレイさんは頷いた。
「陛下が、禁書庫以外の本は自由に見てよいと仰っていました」
「そうですか。もし字が読めなかったら、その時は教師の手配もお願いしないと……」
と言いながら、俺の頭の中はヒンヒン泣いている。
高校の時に古文と英語で苦しんだのに、異世界の文字なんてもっと難解じゃないか。
でもどうしてこの世界の本を読みたいかといえば、それは少しでも知識をつけておいた方がいいっていう、野生の勘だ。
今思えば、昨日はあの謎の声と光たちが助けてくれてた。だけど、謎の声に関しては風呂前に途絶えてから、一切聞こえなくなってしまった。
なら自分で知識をつけるしかないだろう。
「もし指導役が必要ならば、ご相談ください。時間を見つけてにはなりますが、私や騎士団の中で文字を教えることが出来る者もおりますし、より深い知識を持つ識者が必要ならば、手配いたします
「おお、助かります」
本当に助かる。仮にマードレイさんたちが分からなくても、知識人なら分かるってこともあるだろうし。
「では、騎士団の屯所に向かいましょう」
「はい」
うーん、俺が立ち止まっていたせいで、ちょっとばかり時間を使わせてしまったな。
「すみません、時間をとらせてしまって」
「いえ、あなた様はこの世界に来てからまだ二日目です。分からないことは、是非お訊ねください」
そんなことを言っていると外に出た。俺は少し観察しながら歩くことにする。
城の外壁もやっぱり石造りで、空気はどことなく潮っぽい。だが、まだ気温が上がりきらない時間の心地よい感じが残ってる。
道は、良く固められた土の道路といった感じだ。
(……景色と城の感じ的に、ヨーロッパっぽい感じだな)
行ったことないから実際にそうかは分からないけど。でも確実に西洋系だろう。東洋系じゃあない。
少し歩くとすぐに、城と同じ石造りだけど実用的というか無骨というか、そんな感じの建物が見えてきた。
「わぁ……」
近づくごとに怒号や気合の声、指導係っぽい人が何ごとか言っている声が大きくなってくる。
(ああ、稽古場や訓練所や撮影所を思い出すなぁ……!)
ああいう声や物音を聞くと、やっぱりわくわくするんだよ。なんせこちとら、スーアクを志してからは生粋の体育会系なもんで。
しかし、わくわくが顔にも体の動きにも出ていたようだ。隣からマードレイさんの吹き出すような笑い声が聞こえた。
「フッ、ふふ、す、すみませんトウドウ様……」
「……あ、いえ、こっちこそ、年甲斐もなくはしゃいですいません……」
うおー! 恥ずかしい! もう25歳なのに!
よし、全力で取り繕おう。
「も、元の世界で殺陣やアクションの訓練をしていた場所を思い出して、懐かしさが湧いてきたんです」
学生時代も、事務所の養成所時代も、戦隊やジョッキーの現場に入れるようになってからも、毎日は撮影や殺陣練習をやっていたし、休みの日も欠かさずトレーニングしてた。
だからといえばいいのか、ああいう集団的な雰囲気を感じると、体が自然に動いてしまうんだな、アクション練習を求めて。
まあ、職業病だ。
「俺が修めた殺陣……芝居の動きは、騎士さんたちのように誰かを脅威から守るための戦闘技術とは違います。けれど、武の道という点については根っこのところで通ずる部分もあるので」
そう、本物の騎士も、特撮の戦士たちも、何のために戦うかという部分は共通しているところがあると思う。
誰かを守るため、金のため、自己顕示欲、破壊衝動。
色々あるだろうけれど、戦隊もジョッキーも、その他のヒーローも、誰かや何かを守りたいっていう戦士の方が圧倒的に多い。
特に戦隊は最終的にはチームがそういう方向でまとまるから、尚更だ。
俺が騎士さんと戦隊やジョッキーが根っこで共通点があるって思ってるのは、そういうことだ。
……おん? 俺が言ったことに対してマードレイさんたちが、なんとなく感心したような顔になっている。何故?
と、思っていると。
「……トウドウ様。役者だと仰っておられましたが、その以前は名のある騎士か戦士であられたのでは?」
……本当に、本っっっ当に真剣な顔で訊かれてしまった。しかも足を止めてまで。
「いやいやいやいや、名のある戦士とかじゃないです! 本当にただの役者です! 戦士の役をやる職に就きたいという思いで、幼い頃から競技武道の訓練はしましたが!」
ここは否定させてもらう。
剣道や空手で結構いい成績を修めたりはしていたけれど、それも学生時代の話だ。師範級の人たちみたいな高位段は持ってないし。
こら部下の子たち! 背後で「ええ……?」って声を揃えて言うんじゃない!
しかもマードレイさんまで、意外というか残念というかみたいな目になってるし……。
「……そうですか……。ですがトウドウ様、召喚陣に喚ばれたということは、勇者に相応しい精神性や実力を持ち合わせているということです」
……うっ、美形がマジな顔で見下ろしてくるのって、結構圧があるな。
……いや、それだけか? なんか、単純に勇者として魔王軍と戦うことを期待してるのとは、違うものが混ざってる気が……?
「……ですから、あなた様にはより実力をつけていただきたい。魔王軍を退け、平和をもたらす篝火になっていただきたいのです……今度こそ……!」
……ああ、なるほど。
この人から時々感じる圧は、誰か魔王軍に大切な人を傷つけられたか、……殺されたかしたからかな。
だから、どうしても、ってのが先立ってるっぽい。
(……なら、まずは俺が何が出来るか測らないとな)
出来ることはやると決めたからな。
ふぅ、と深い息を吐いて、俺はマードレイさんを見上げた。
「……まずは、今の俺がどれだけ通用するか、それを測ってください」
それも分からんと、どうしようもないからな。
マードレイさんも頷いて、案内を再開してくれた。
とはいっても、目的地は目の前なんだけど。
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