scene.3
……ということがあったのだ。
なので、俺はこの食堂に向かっている最中、ひっそりと白い光に頼んでいた。
もうどうしようもない連中以外の人の食事はこっそり、ケミカル飯じゃなくしてくれ、と。
(さあて、どうなるかな……)
待たずに運ばれてきた食事は、美味そうな洋食だった。
オムレツっぽいものと丸いパンっぽいもの、生野菜らしきサラダが一つの皿に。
更に焼き菓子的な何かとジャムっぽいもの、柑橘類に見える果物。
見た目はもの凄く美味しそうだ。
観察していると、王様が目を閉じて両手を組み、何か呟き始めた。
「世界を創りし神よ、今日も我らが生きるための糧をお与えくださったことに感謝いたします」
食前の祈りってやつか! 慌てて俺も真似して両手を組んだ。
「うむ。ではいただこうか」
「はい。いただきます」
オムレツをナイフで一口分切り分ける。とろん、と中は垂れては来ない程度の半熟だった。
フォークに掬い、一口。
(……うん、美味い! 白たち、ありがとうな)
視界の端で白い光が一つ、ふわんと膨らんだ気がした。
食事を全部美味しくいただき、食後の紅茶(これもきっと白い光による処置済みだろう)を飲んでいると、不意に王様から話しかけられた。
「マモル殿。我が城の食事はどうだったかな」
にこにこと、昨日以上に胡散臭くも見える笑顔で訊ねてきた王様。
……今の時点じゃ、ケミカル飯の黒幕が誰か分からないからなぁ……。
とりあえず、当たり障りなく答えておくか。
「……世界が違うからどんな料理かと思っていたのですが、昨晩も今も美味しくいただきました」
「うむ、それは良かった」
満足そうに頷いた王様。
この人が黒幕なのか、それとも別に真犯人がいるのか、あるいは本当にこの世界の料理は地球人にとってはケミカル味に感じるだけなのか、まだ分からない。
が、俺は自炊手段を見つけるまで白い光たちに頼ろうと決めた。
(……悪い予感もするしな)
それがなんなのか、まだ分からないけれど。
********************
食後、執務に入るという王様と別れて俺は部屋に戻ってきた。
いない間にメイドさんたちが、俺が運動着にしていた服と同じものを用意していた。
「こちらにお召し替えの上、マードレイ第一騎士団長をお待ちください」
「はい」
メイドさんたちにもう一回出て行ってもらい、俺はそれに着替える。
上下を着終わり、ブーツを履いていると、ドアがノックされた。
「トウドウ様、マードレイです」
「ああ、どうぞ」
返答するとドアが開いて、昨日と同じような総鎧姿のマードレイさんが現れた。
「失礼いたします。本日は貴方様の現在の身体能力を拝見させていただきたく思います」
「は、はい……」
うわぁ……。ついにキたかぁ……。
俺が思わず溜め息をつくと、マードレイさんはふふっと笑った。
……あれ? この人、笑顔浮かべられるんだなぁ。昨日は結構無表情だったんだけど。
「ご安心ください。相手は私が務めさせていただきます。トウドウ殿の現在の実力をきちんと見極めた上でお相手させていただきますので」
……おう……まあ、そうだよな……。
俺が本職の騎士さんに適うかどうか、まったくもって未知数だしな。
「お気遣いありがとうございます、そうしてもらえると安心できます」
「では参りましょうか」
マードレイさんのその一言で、部屋を出発する。
マードレイさんが先頭、背後にマードレイさんの部下と思しき若い青年が二人。それぞれ、赤と青の光がくっついている。
よくよく見たら二人の着てる服、俺と同じやつだな?
余計な装飾のない、黒のシャツっぽいものと白いズボン、見た目はのっぺりしてるが構造はがっちりしてるブーツ。
(……もしかして、マードレイさんの騎士団に混ざるってんで、部隊の服を用意してくれてたのかな?)
それならそれで、これからの運動着の一着にさせてもらおうと思う。
「トウドウ様にご用意された部屋は3階にありますが、この階は国賓の方などがいらした際にお過ごしいただく部屋が並んでいるのです」
「へ、へぇ……」
歩きながらのマードレイさんの解説に、俺は顔を引き攣らせてしまった。
俺の国賓待遇って冗談じゃなくて、ガチだったのかぁ……
と思いつつ一階へ。少し歩くと、広い空間に出た。
「おぉ……」
俺はその光景に、思わず足を止めて声を上げていた。
「おぉ……」
俺はその光景に、思わず足を止めて声を上げていた。
立派な柱に、行き交う人たち。
ところどころで警備するように立つ兵士。
見上げると、吹き抜けの天井からはめちゃくちゃ立派なシャンデリアがぶら下がっていた。部屋のランプと同じ魔法式とやらだろうか。
まあ、中学のときに参加したエキストラで、数々の名シーンを生んできたロケ場所を目にした時の方がもっと感動したけど。
「少し、城内の案内も兼ねましょうか」
マードレイさんがそう言って、人の往来の邪魔にならないところに俺を誘導する。
それから解説を始めてくれた。
「一階の中央部は謁見の間や大広間など、この国の顔たる空間となっています。あちらの階段が、昨日トウドウ様も上られた謁見の間への階段です」
あ、本当だ。ちょっと遠くのほうに、見覚えのある組閣階段がある。
「この謁見の間へ続くエントランスを挟み、東側に図書館、西側は2階に跨がって各部門の執務エリアです。我々騎士団の施設は屋外の西側にまとめられています」
なるほど、日本で例えると、中央が皇居&国会的なところ、西側が霞ヶ関的なところ、東は中央図書館で、外に治安維持組織施設的なところがあるのね。理解。
「面白い!」
「応援するよ!」
「続きが読みたい!」
など思われましたら、下部いいねボタンや、☆マークを
お好きな数だけ押していただけると嬉しいです。
感想やブックマークなどもしていただけると大変励みになります。
何卒よろしくお願いします。