scene.2
案内された場所は、俺が想像していたよりも大分こぢんまりとしていた食堂だった。
テーブルも数十人掛けみたいなドデカくはない。多く見積もって10人用ぐらいだ。だけど立派。
そんなテーブル上座にはもう王様が座っていて、その垂直隣に俺は案内される。
「おお、待っておったぞマモル殿。よく眠れたかな?」
椅子に座る俺に、王様が声をかけてきた。
「はい、おかげさまで」
「ふむ。それは何より。マモル殿には是非とも、魔王討伐を成し遂げてもらわねばならぬからな」
「……はい」
本当は、まだ怖い。でもそんなことも言ってられないだろう。
ちりんちりん、と王様がベルを鳴らした。すぐに配膳が始まる。
「今朝の食事は、余からのささやかな激励の一環だ。どうか味わってほしい」
「……ありがとうございます」
……本当なら、わーい王宮の朝食! と浮かれるところなんだろうが、暢気にしていられないことが、昨日の夕食の時に起こったんだ。
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風呂に入れたお湯が冷めかけるぐらいに長風呂を堪能した後、リビングに戻った俺が目にしたのは、ローテーブルに料理と食器を並べていた。
「……え」
そりゃ、つい驚いて声も出るってモンだ。
しかも浴室から出てきた音で、みんなこっちを見てるし。
「………………勇者様」
何でか、ふっかーい溜め息をついて、リーダーメイドさんが俺に近寄ってきた。
「あなた様はかしずかれる存在です。私どもや護衛の者たちの仕事に差し支えますので、部屋の鍵はかけないようにお願いします」
「えっ、不用心……」
思わずそう呟いたとしても、仕方ないよな。
だって俺の認識じゃ、俺がこれまでにこの世界で出会ってきた人の半数以上は、まだ不審者だし。
「間者などが現れたときにすぐ駆けつけられるようにするためです」
「えぇ~……」
……やっぱり、現代人の感覚だと鍵をかけないという感覚が信じられない。
……ん? 待て?
「……夕飯を用意してくれてるのは有り難いんですけど、あなたたちはどうやって入ってきたんですか」
そういう疑問が湧いても仕方ない。
すると、彼女は事もなげに言った。
「解錠の魔法が使える魔法師に来てもらえるよう頼みました」
「……あー、そうですか……」
なんでもありだな、この世界。
ちらっとドアノブを見たら、俺が鍵をかけたときには鍵とノブに纏わり付いてた白い光はもうどこにもなかったし。
(……なるほど)
道具じゃなくて魔法でやるんだな、ピッキング。
いや、道具もあるんだろうけど。
「ともかく、夕食の支度をいたしました。お召し上がりください」
見られていると落ち着かないと主張して、メイドさんには食事が終わった頃に皿を下げに来てもらうことにした。
また俺と光たちだけになった部屋で、俺はテーブルをしげしげと見つめる。
「……おお」
肉らしきステーキが中心の、なんか見た目は美味そうな洋食だ。
……まあ、食べ物に罪はないからな。俺は両手を合わせる。
「……いただきます」
数本並んでいるうち、多分これっていうフォークとナイフを取り、ステーキを切り分けて……。
「……んぐ!?」
なんというか、絶妙に不味い。
食べられないワケじゃないんだが、ケミカル的な何かを混入しているのを誤魔化すために味を濃くしてるが誤魔化されてない、みたいな感じだ。
もぎゅ……もぎゅ……と咀嚼して、水でなんとか飲み込む。
(……うーん……、まあ、異世界だから、食事事情が違うのは仕方ないだろうけど……)
どうしよう。城だけじゃなく、世界的にこんな味の料理しかなかったら。
そうだとするなら、早急に自炊の手段を考えないとな……。
溜め息をつきながら、俺が二切れ目を切り分けようとしたとき。
「え?」
全飲食物を白い光が、まるで毛皮かと思うくらいにファサーと覆い尽くしているのだ。
思わず俺は二度見してしまった。
(え? え? なんだこれ!?)
声も出せずに見守っていると、用事が済んだのか光は散っていった。
そのうちの一つが、俺の眼前にやってきて、またふわりと明滅を繰り返す。
(……もう大丈夫ってか?)
心の中で訊いてみると、光はふわんと回ってどこかに行ってしまった。
(……なるほど)
謎の光は、俺が視認出来るようになってから、味方するような素振りを続けている。
だから、今回も悪いようにはならないだろう。……と思いたい……。
(……ええい、南無三!)
ステーキを切り、口に運ぶ。
「……んっ!?」
さ、さっきと全然味が違う!!
肉汁はじゅわっと、ソースが適度な塩気に芳醇な味わいだ! 美味い!
さっきのは一体何だったんだってぐらいに違う!
いやステーキだけじゃなくて、付け合わせもスープもパンもワインも、凄く美味い!
(ありがとうなぁ、光たち~!)
俺は美味しく食事をいただけることに、部屋中に漂う光に心の中で感謝した。
どことなく、ふわんと光が答えたような気がする。
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