scene.1
朝になりました。
「……知らない天井だ」
目が覚めてまず俺の目に映ったのは、なんとも豪華なデザインの天井。
横に目を向けると、落ち着いた色のベッドカーテン。その向こうではもう日が登っているのか、明るい光が入っている。
ベッドを出て、きまぐれに窓を開けてみた。
「……!」
ちょうど日が登ってくるところだった。
夜が明けて青が薄くなっていく空。太陽で照らされてゆっくり色づいていく街並み。輪郭が照らされて光る山。
見ている内に、胸が締め付けられていく。
いや、泣かない泣かない。流石に25歳の男が日本でも見ることが出来る風景に泣きそうになるなんて、流石にな。な?
アレストブルーも言ってたぜ。「男が泣いていいのは家族と恋人と恩人と仲間が死んだときだけだ」って。だから俺も泣かない。
それに、帰れる日が来ることを願いつつ、やれることをやると決めたんだからな!
パン、と両頬を叩いて気合を入れる。
「よーし、今日は起きるの遅くなっちまったからな! 特急で終わらせるぞ!」
そう、スーツアクターを志すようになってから俺は早寝早起きを習慣づけた。
撮影の都合上、現場集合が朝5時前とかいう日だってあるしな。出来る限りで早寝早起きしないとやってられないんだ。
顔を洗い、クローゼット部屋の中で運動に向いていそうな服を見繕い着替える。
「さて、と」
俺は応接テーブル諸々を壁際に寄せて、場所を確保した。
所属事務所・日本アクショングループメント略してNAG式の準備体操の後、足を肩幅に開いて、息を深く吸う。
「おはようございます! 本日もよろしくお願いいたします!」
最大限の小声で、それでも出来るだけ声を張って、養成所から連綿と続く鍛練前の挨拶を独りで言う。……うう、虚しい。
さて、気を取り直して筋トレ筋トレ。筋肉は一日サボっただけであっという間にふぬけてしまう。
同期間でお決まりになった筋トレ改造メニューを100回3セット。休む間なくプランク1分を5セット。
この部屋時計はない。が、最新戦隊の変身ブレスというだけあって、作中ではスマートウォッチの機能もある。
こっちの世界に俺と一緒にやってきちまったコイツは、機能も本物になってしまったらしく、時間を計れる。昨日色々触ってみて分かったことだ。
……いかん、耳の奥で筋肉を愛する同期の雄叫びが蘇ってきた……。
……気を取り直そう。筋トレを終えてすぐに、アクションの基本の型を繰り返す。
拳、蹴り、受け身、と繰り返していると、ノックの音がした。
「おはようございます、勇者様。朝の身支度の準備が整いました」
「あ、はい」
受け身の姿勢のまま反射的に返事をして、それから疑問が浮かぶ。
「……え?」
朝の身支度? 何の?
と思っているとメイドさんたちが入ってきた。
昨日、彼女たちが夕食を持ってきたときに、自分たちや警備の関係上内鍵はかけるなと言われた。
なので、もの凄く、もの凄ぉぉぉく不用心だとは思ったが、鍵をかけずに寝たのだ。
……あいかわらず気まずいが、一応挨拶しておくか。
「……おはようございます」
メイドさんたちは俺の着ているものを見て一瞬目を見開いたが、すぐに無表情になった。
「おはようございます。……洗顔などは、お一人でなさったのですか?」
ええ、と俺は頷く。
「俺、早起きして筋トレが日課になってるんで、朝の身支度も自分でやるんで大丈夫です。ありがたいことにこの部屋、洗面台もありますし」
実際事実だ。昨日、風呂に入るときに試行錯誤しまくった結果、風呂と洗面台の水の出し方は覚えたし。
水だけじゃなくてお湯も出るのが、凄い部屋だと思う。
俺の言葉に、メイドさんたちはみんな顔を見合わせていた。
な、なんだ?
メイドさんたちは数秒アイコンタクトを交わしていたかと思うと、俺の方に向き直ってリーダーの人が俺にこう言った。
「……本日、陛下が、今朝の朝食を勇者様と共にと仰っております。ただ今、お召し物の用意をさせていただきます」
「ん?」
……陛下、って王様だよな……?
王様と、朝食?
「はぁっ!?」
俺は飛び上がって驚いてしまった。
だって、王様だぞ!? この国のトップだぞ!? あの胡散臭い人だぞ!?
そんな人と俺が食卓を共に……って!
「あ、あの、それは決定事項なんですか……?」
せっかく洗った顔面に冷や汗がだらんだらんと流れる。
こちとら、社長とだって最終面接ぐらいでしか話したことないのに、王様とメシだなんて……!!
俺はなんとかならないかと思っていたが、彼女たちは当たり前のようにこう返してきた。
「はい」
……たった一言かよぉ!!
「さあ勇者様、こちらにお召し替えを」
マネキンみたいなのが着ている服は、なんかこう、俺が連想していたギンギラの貴族ですよ~と主張している服ではなく。
赤系統だが落ち着いた色のベストとにスラックス、ぱりっとしたシャツに、とろんとしたリボンっぽいタイだった。革製と思しき靴もセットでついている。
……連想していた中世の格好というか、近代に近い感じの服で、まだ良かった、ような……。
(……これぐらいなら、まあ、いいか……)
俺は諦めて、着替えることにしたのだった。
「面白い!」
「応援するよ!」
「続きが読みたい!」
など思われましたら、下部いいねボタンや、☆マークを
お好きな数だけ押していただけると嬉しいです。
感想やブックマークなどもしていただけると大変励みになります。
何卒よろしくお願いします。