scene.6
「ヴィクトリアちゃん……」
彼女はまだ若い。まだ成人前だし、世界的選手になるのだって夢じゃないかもしれない。
……それに、近藤さんだって本当は地球に帰るべきだと思っているぐらいなんだ、俺は。
俺よりも一回り下のこの子は、家族や仲間の元に戻った方がいいに決まってる。
「……石上」
瞬間的にアルディスさんから近藤さんへ、すごい圧が向かう。
あ、少しでも圧視線を遮るべく、マクシーニさんが立ち位置をずらした。
「俺はいいんだ。13年も家族や仕事を放り出して所在不明になっていた男なぞ、今更帰っても持て余されるのがオチだろう。それならこの世界に留まって、お前と共に戦うほうがよほど合理的だ」
「……で、も……」
「いいんだ」
諦めたような笑みを浮かべている近藤さん。
……どうして。俺は明確に肉体が死んでしまったから諦めきれたけど、まだあなたは……。
「俺もヴィクトリアと同じだ。お前1人に戦わせて、それを黙って見ていることが出来ないというだけのことだ」
「でも……」
「……言い方を変えるか? 石上」
ふー……、と近藤さんは溜め息をついた。
「もう二度と、庇いも守りも出来ずにお前を死なせたくないと言ったら、どうする」
「へ」
あ、あれ? 近藤さん……俺のこと、そんな重い感情で見てたっけ?
と思っていると、ふっ、と濃い後悔の影がかかっていた表情を一転させて、こう言ってきた。
「いいか石上。お前がなんと言おうと、俺はお前と共に戦う。それがこの世界に対しての贖罪であるし、俺を稀代の虐殺者に仕立て上げてくれた黒幕への、ケジメの手段だ」
……近藤さんはこの世界のヒト……亜人種たちにとっては、親しい誰かの仇かもしれない。
罵られたり、石を投げられたり、迫害だって受けるかもしれない。
――それでもいいと、いうんだろうか。
「……亜人種の人たちからは、殺したいほど恨まれているかもしれませんよ」
半分ぐらいの年齢しか生きていない俺が、こんなことを言うのは生意気だろうが。
俺の言葉に、近藤さんはククッと苦笑を返してきた。
「それもやむなしだな」
……拭いきれない希死念慮の滲んだ声音に、俺は近藤さんのトラウマの深さを改めて突きつけられた気がした。
だけど。
「俺も一枚噛ませろや、小僧」
近藤さんの隣には、マクシーニさんがいる。
「俺は国を裏切った後から、シゲに槍を捧げると決めている。だから、シゲの行く先が俺の行き先だ。……よもや、否は言うまいな?」
そう言って俺を睨んでくるマクシーニさん。
俺はちらりと近藤さんを見てから視線を戻した。
「……まあ、近藤さんが良ければ、いいんじゃないんですかね」
近藤さんとマクシーニさんの関係は、俺が口を出す領域じゃないと思ってるからな。
すると、フン、となんだか満足そうな鼻息を鳴らされた。
マクシーニさん的には及第点の返しだったらしい。
「……コンドー様が自分を手放すワケがない、と確信なさっているようですね」
アルディスさんが独白のように言った。……視線はガッツリ、マクシーニさんに向いてるけど。
当然、歴戦の戦士がそれに気付かないワケがない。
「あぁ? なんだアルディス、なんか文句でもあんのか」
「いいえ。私もマモル殿を慕わしく思っていますから」
そう言ってアルディスさんは、俺に右手を差し出してきた。
鎧の籠手に包まれた手の平の上に乗っていたのは、3㎝くらいの小さなプレート。
「……ん? コレって……」
「魔王……コンドー様が持っておられた、あなたのステータスプレートです」
〝えっ!?〟
それに慌てたのは創造主だった。
びゃんっとアルディスさんの手元に飛んでくる。
〝ここはあくまで不可視の世界だ、物質は干渉しない、出来ない! それなのに、ここに服装以外の現世のモノを持ち込むなんて……!〟
すると、アルディスさんがニヤリと笑った。
「それだけ、私の思いが強いということです」
言ってから、俺の手を空いている方の手で持ち上げ、ステータスプレートをそっと握らせる。
「マモル殿。あなたの死の真相を知った今、私の忠誠はドーラッドという国そのものから、跡形もなく消え去りました」
そして、俺の足下に、ものすごく綺麗な動きで跪いた。
「私の忠誠も、剣も、貴方お一人だけのものです。どうか、私を貴方の騎士に」
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