scene.1
新章です。
ここから、少しずつノリが変わっていくと思います。
「……許さんぞ、ハイルズ・ヒューゲル・ドーラッドォォォォォッ!!」
ドゥッ!! とアルディスは勇者を殺された復讐心のままに、魔力を暴発させた。その色は普段よりも暗く濁っている。
それを見てハイルズ王は、歓喜の表情を浮かべた。歓迎するかのように両手を広げる。
「よいよい! よいぞアルディス! 燃やせ! 憎悪を燃やせ! そして、それを瘴気に還元して我に捧げよ!」
その物言いに、アルディスの怒りが更に暴発する。
「ほざけぇ――――――ッ!!」
この状況を作り出した張本人が何を言うか。そう思い、憎しみのまま飛び出す。まるで高速度の魔法弾のような勢いで。
王の近衛の者……であるはずのフードの者が、闇属性の攻撃魔法を放ってきた。闇の魔力の魔法弾が飛んでくる。
だが当たらない。アルディスがまた、身体強化魔法を発動していたのだ。その脚は魔法の弾速よりも早い。
フードの者をすれ違い様に裏拳で殴りつけ、撥ねのける。
彼の狙いは雑魚ではない、ハイルズ本人だ。かかずらってなどいられない。
辿り着いたハイルズ王の顔面に、渾身の力で拳を叩き込むべく、踏みしめる。その圧で、軸足の地面が陥没するほどに。
だが。
「……っ!!」
手応えがない。
王の顔面はぐんにゃりと、水の入った薄い袋のように形を変えるだけだった。
痛みを感じてすらいないようだ。薄ら笑いを浮かべているのだから。
「更に良きことを教えてやろうか」
異様なものを感じ、アルディスの背にヒヤリとしたものが伝う。
にぃ……と、王はゆっくりと口を開いた。
「そなたら兄弟の父を殺したのも、我よ」
瞬間、アルディスの表情が更に憤怒に染まった。
(……まさか、マモル殿だけでなく、父上までこの男に殺されたというのか……!?)
驚愕はある。だがそれ以上に憤怒の方が大きかった。
「仕方あるまい? 我の邪魔をしようとしたのだ、あの男は。ならば殺すしかあるまい?」
自分を、父親を嘲るような物言いに、アルディスのどこかがブツリと切れた。
「……ぅぁああああ゛あ゛――――――ッ!!」
最愛の父の死。今一番心を砕いていた男の死。この2つの出来事を仕向けたのは、目の前のモノ。
その事実が、彼の心身を蝕む。
「ところでアルディスよ。我にばかりかまけていてよいのか?」
嘲笑と共に、横から闇魔法が炸裂する。
完全に想定から抜けていた攻撃を食らい、アルディスの息は一瞬詰まった。
数メートルほど、まともな受け身も取れずに吹っ飛ばされる。
それでとうとう、限界がきた。
「ガフッ……! が、は……ッ」
緑も枯れ果てた地面に赤黒い血を大量に吐き、アルディスは倒れる。
「お……のれ……」
ざり、と風化した土を抉るように、拳を握る。
(……私は、父の、友の仇も討てず、この場で死ぬのか……?)
あまりの悔しさと怒りに、感覚も遠くなっていく。
ぼや……と、視界の端で、黒い靄が蠢いているのが分かった。
(……ああ、からだが、おもい……)
ゆっくりと、瞼が閉じようとしていく。
「ちょぉぉぉぉぉっと待ったぁぁぁっ!!」
突如、絶望の戦場に轟く大音声。それに、びくりとアルディスの心が震えた。ばちりと目が開く。
「……え?」
ゆっくりと体を起こす。ハイルズが驚愕と憎悪の視線を空に向けていた。
「き、貴様……!! 死んだはずでは……!!」
その言葉に、アルディスはそちらの方を見てみた。太陽を背負い、なにかいるのが見えた。
だがアルディスには、その正体がすぐに分かった。
「……っあ、あ、ああぁ……!!」
絶望と諦念に染まった心が復活していく。何故ならば。
朝焼け色の髪、火の色を身に纏い、火のマナの眷族のひとつである鳥を従える男。
服装も、持つ色も、まったく違う。だが間違いなく彼は、アルディスの一番大事な友であるのだ。
親方! 空から不死鳥が!
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