表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

昨今流行った要素をごちゃ混ぜにした産物

タイトルの通りです。

かなり勢いで書いたのでご都合展開満載です。


その日も、いつも通りのはずだった。

いつも通りの時間に起きて、いつも通りの道を歩いて仕事へ行き、いつも通りの業務をこなし、いつも通りの定時退勤をして、いつも通りに交差点で信号待ちをして。その間にスマホをいじるのも、全て。

ただ、暴走したトラックが、自分の方へ向かってきていたこと以外は。

いつも通りだったのだ。

何が起きたか理解できないまま、意識が遠のいていく。


というか、眠い……。これは、もしかして……。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「……。」

どれほどの時間寝ていたのだろう。ようやく動かせるようになった身体を起こして辺りを見渡すと、違和感。

「ハイド様、ようやくお目覚めですか。」

「あぁ、よかった……。」

ハイド?ハイドなんて、私の名前じゃない。それにこの二人は……。

「ダリウスとリリーエル!!」

「なんです急に……。」

「今まで呼び捨てにされたことなんてありませんでしたのに……!もしやそんなにも打ちどころが悪かったのですか……!?」

「え、え?なんで?なんで二人がいるの?ていうか、待って、ハイド?ダリウスとリリエルがいて?つまり?ハイドって、あのハイド?」

並んで覗き込んでいる男女二人を交互に見ながら、自分の服装を確認する。

たっぷりのフリルを湛え、たくさんの宝石を散りばめたまさに豪華絢爛といったドレス。間違いない、このドレスは……!!!

「さっきからなにを一人で言っているんですか。」

「えぇと……混乱されているようですし……ざっくりと説明をさせていただきますと、先ほどまでハイド様は魔物からの攻撃で気絶しておられました。」

「で、今、目を覚まされたところです。お加減はいかがですか?」

「えぇと……最高で最悪……かな……。」

「口調まで変わってしまわれましたね……ダリウス様、一度街に戻って休みましょうか?」

「……ここまで進んだんだ、できれば戻りたくはないのだが……。」

今後の予定を話し合っている二人、ダリウスとリリーエル。そして、ハイド。

私はこの三人を知っている。


ここは、ゲームの世界だ。これは、つまり……。


「……流行りに乗っちゃったかー……。」


そう、昨今の漫画界を席巻していると言っても過言ではない、アレだ。


トラックに轢かれて、目が覚めたら別世界!だけどよく見たらここは見知ったゲームの世界!?これから私、どうなっちゃうのー!?


的な。

要は異世界転生である。よく読んでたなぁ……まさか自分がなるとは思わなかったけど。


「で、ハイド様のお加減は?それ次第で今後の予定が変わるんですが。」

「あー……うん、大丈夫。行こう。」

「はぁ……なら、進みますけど。後から騒いだりしないでくださいよ?」

「無理なさらないでくださいね。」

「うん、ありがとうリリーエル……様。」

どんどんと先を進むダリウスとリリーエルの後を追いながら、状況を整理していく。


ここは、前の世界でプレイしていたゲームの世界まさにそれ。

勇者ダリウスが聖女リリーエルと世界に起きた異変を止めるために魔王を倒しに行く物語。


そして、私の立ち位置、ハイドは俗に言う「悪役令嬢」。

ダリウスに恋慕の情を抱くが故にリリーエルを目の敵にする立場だ。ただ、リリーエルはそんな思いを向けられているなどつゆ知らず、優しく接してくれる。ダリウスにはご覧の通り嫌われているけど。


そもそもなぜただの悪役令嬢が勇者パーティなんかにいるかと言うと「ダリウスとお近づきになりたいから」と強制的に加入するキャラ。なのだが抜きん出た能力があるわけでもなく、攻撃もままならないわ魔物に狙われやすいわその上紙防御なので大体即死、という完全に足手まとい。

……否、能力がないわけではない。彼女にだけ付与されたスキルがあった。

「料理」のスキルだ。戦闘中でも移動中でも、好きな時に料理を行い仲間にバフをかける……と思わせておいて、そっちの方が稀なのだ。

旅に出た直後にチュートリアルが挟まるのだが、その時は成功し、仲間二人にバフをかけてくれる。

だが、多くのプレイヤーは「まぁこんな性格のやつだけど料理でバフかけてくれるなら……」と彼女に温情をかけるのだが、それが間違いなのだ。

これは便利だと言わんばかりに、そのチュートリアル戦闘が終わった後にまた料理をさせると、今度は失敗するのだ。それがただの失敗ならいいものを、なんと仲間にデバフをかけてくれる。毒であったり、麻痺であったり、攻撃力低下だったり、とにかくいいことなんてひとつもない。しかも、最悪なのが「一度料理を食べると戦闘をしないと新たに料理を食べられない」のだ。

流石に、プレイヤーたちも首を傾げる要素だが、悪夢はこれだけでは終わらない。

「まぁ、そういうこともあるよね」なんてもう一回料理させようものなら、やはり失敗する。

そう、これは「成功する方が稀」なのだ。九割の確率で失敗するようにできているのだ。

ここまでくれば、答えはひとつ。

ハイドに一切料理はさせないでストーリーを進める、これに限る。そうでもしないと、何度もゲームオーバー画面を見る羽目になってしまうのだから。

そんなこんなで、攻略サイトやSNSでもその存在の意義について色々と話題に上がっていたものだ。


とまあ随分と状況を整理できるくらいには歩いているのだが、そもそもここはゲームのどのあたりなのだろう。あたりを見渡そうと顔を上げた瞬間、前を歩くリリーエルにぶつかってしまった。

「あっ……とごめ……。」

「しっ!静かに!」

謝ろうとした矢先にダリウスに小声で、しかし厳しく諌められる。何事かと前を見ると、魔物の群れ。

……なるほど、中盤あたり。

それこそデバフがかかった状態で戦おうものならリリーエルのMPが底をつくのが先か、戦いが終わるのが先か、といったジリ貧待ったなしの強さになっているところだ。

私だったら絶対ハイドに料理はさせないな。

「おいぼーっとするな!また転がりたいのか!」

「は、はいごめんなさい!」

ダリウスの強い言葉に我に返る、そうだ、今はそんなことを考えてる場合じゃない。とにかく魔物を倒さないと。

……いや、どうやって?戦う力なんにもないんだった。とりあえず……。

「ごめんあそばせ!!!」

元々のハイドの口調を真似して、茂みの中へ飛び込んだ。そもそも戦闘に出なければ狙われたりなんかしないはず。そうしたらあとは二人がなんとかしてくれる。そう願ってとにかく小さく縮こまって全てを丸投げしてやった。

少しして、響いていた魔物の声と二人の声が消えていく。

「……終わった?」

「えぇ、終わりましたよ。最初っからそうやって隠れててくれればいいものを……。」

「まぁまぁダリウス様、そのようなことを言うものではありませんよ。」

「……ちっ。」

やはり、二人はハイドの料理などない方が強い。そう確信して息を吸った自分の口から驚くべき言葉が飛び出した。

「お礼と言ってはなんですが、手料理を振る舞わせていただきますわ!」

「いっ!」

「あら……。」

いや待てなんて?ハイドの手料理?それはもう死亡フラグなんだが。なのになにを言い出すんだこいつは。いや私なのか?とにかく、そんな余計なことをするんじゃない。そう思っているのに、体は勝手に動いて、すでに立派な料理を作り上げてしまっている。

思いもよらぬ展開に一人慌てていると、急にダリウスに腕を掴まれる。

「えっ……?」

「……ハイド様。この際なので言わせていただきますが。ハイド様の料理は、俺たちの口に合わないんです。なのでもう作っていただかなくて結構です。」

「……!!」

なにこれ。

「それと、正直……国へ帰った方がよろしいかと。これ以上貴女を守るのがめんど……いえ、貴女を危険な目に遭わせるわけにはいきませんので。」

待って、なにこれ。知らない。こんなイベント。

「ダリウス様!」

「事実だろう!そもそも、戦えもしない人間が魔王討伐なんてできるわけがない!だったらここで抜けてもらった方がよっぽどマシだ!」

これは、俗に言う……勇者パーティ追放———……!?

「……そう……ですわね……私は……私は……。」

なんて返すのが正解かわからない、わからないが、差し出そうとした料理を落とさないようにするのがやっとで、足だけはふらふらと今まで歩いてきた道を辿ろうとしている。引き止めようと手を伸ばしてくれているリリーエルは、ダリウスに連れていかれ、遠くなっていった。

「……ごめんなさい……。」

やっと、言葉が溢れた、しかし、誰もいない。森の中へ静かに溶けていった。

こんなの、攻略サイトにもSNSにも書いてなかった。こんな追放イベントがあるなんて。

自分も「ハイド邪魔!!」などと言っていた側だったのに、こんなイベントはあんまりすぎる。だが、そうだ。所詮勇者パーティにはお荷物の悪役令嬢。そもそも旅に出るという行為自体が間違いだったのだ。自分の意思で行った選択ではないのに、涙が溢れてくる。

一人取り残され、思わず座り込んでしまう。

見た目だけなら美味しそうな料理なのに。なのに、なぜ。彼女は、ハイドはこんな扱いを受けなければいけなかったのか。早く帰らなければ先ほどよりも強い魔物たちが出てくる時間になってしまう。それまでには街に戻りたいのだが、身体が動いてくれない。


そういえば、前の世界でもそうだったっけ。


誰かからの指示を待って、それをこなすだけの仕事。

自分なりに考えて動いてみても空回りばかり。

忙しそうに残業している同僚たちに手伝えることはないかと声をかけても断られてしまい、自分だけ定時で上がっていく虚しさ。


悪いことばかりが思い出される。あの日もそうだった。

心のどこかでは変わりたい、と願っていた。でも、願うだけで、自分からはなにも動こうとはしなかった。

もしかして、それが悪くて、私はここへ飛ばされてしまったのかな。でも、それならここでくらいもう少しいい思いさせてよ。

溢れてくる涙を止めることもできず、ただただ抱えた膝に水玉模様が出来上がっていく。

そんなことをしているうちに、すっかり夜は更けてしまった。今更動いたところで迷子になるのがオチだ、諦めて野宿を覚悟したその時、不穏な物音。葉擦れの音に、混ざる足音。

あぁ、今度はこんなところで死ぬのか。できればもう死にたくないんだけど。

そう考えているうちに、魔物の姿をほんの一瞬視認して、見失った。また痛い思いをするのだと目を閉じて、数分。一向に痛みは襲ってこない。恐る恐る目を開けると、そこには先ほど作って放置し続けた料理を貪る魔物の姿。

「え……。」

今なら逃げられる、と立ち上がって駆け出した。だが、長く座り込んでいたせいでうまく足が動かない。しまいにはもつれてしまい、倒れ込んでしまった。

せっかくできたチャンスだったのに。またしても涙が溢れてくる。もう、もう嫌だ。

うつ伏せに転がったまま腕に顔を埋める。絶望と悲しみと、それらを引き連れてまたしても足音が近づいてくる。もういっそ楽にしてくれたらいいのに。顔を上げる気力もないまま、早く殺してくれと言わんばかりにじっと動かずにいると頭に湿った何かが擦り付けられた。思わず顔を上げると、なんとも嬉しそうな顔をした魔物。強いて言えば、柴犬みたいな。へらへらと笑っているようにも見える。

「……もしかして……仲良くしてくれる……とか……?」

思わず話しかけると嬉しそうに尻尾を振り近寄ってくる。

そんな、こんなことって。

つまり、あの料理は本来、魔物用で魔物に食べさせたら仲間になってくれたってこと?いやでもシステム的に魔物に食べさせる選択肢……待てよ、戦闘中に料理ができたのは、そういうこと……!?

今更そんなことに気づいても、前の世界に戻る方法なんてわからないし、そもそもトラックが突っ込んできてたんだっけ。じゃあもうきっと死んでるよね。だったら……。

「ねぇ、君さえよかったら———……。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ハイドを追放してから、二人の旅路はとても順調に進んでいた。各地で暴れる魔物を鎮めながら、魔王城へ向かう道すがら。もうあと少しといったところでこれまで以上に暴れている魔物が目に入る。

「ダリウス様、あれは……。」

「……あぁ。」

この後のことを考えると、できればここで消耗したくはない。だが、あの暴れようでは……。

勇者たるもの、放置するわけにはいかない、剣を抜き、構える。

だが、その一瞬の迷いが命取り。

すでに高く跳躍し、首をとらんと襲いかかる魔物の影がダリウスを覆う。

「ダリウス様!」

リリーエルの叫びをかき消す轟音、土煙。

数秒後、晴れた視界に飛び込んできたのは、新たな魔物。

「あれ?ダリウスとリリーエル?」

それと、久方ぶりの薄水色の髪。

「……ハイド……様……?」

呆然と見上げる二人をよそに、彼女はあっけらかんと笑う。

「そう!ハイドだよ!悪いけど、この魔物は私の獲物なんだよね。だからさ、ここは譲ってもらえないかな?」

「……ハイド様、お話が……!」

「ごめん、それどころじゃないかな!どいてないと危ないよ!」

「……恩に着る!」

対峙する魔物たちをすり抜け駆け出したダリウスの背中に声を投げる。

「別に!私は私のやりたいことしてるだけだよ!!」


そう言って颯爽と魔物を駆る彼女の顔は、とても晴れやかだった。


*end*

昨今流行りのものがこんなにも乱立してるんなら私にも書けるんじゃ?と思った産物です。

(異世界転生×悪役令嬢×勇者パーティ追放)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ