パスワードの設定は慎重に
なろうラジオ大賞5参加作品です。
コメディーです。
「失礼」
「なっ!」
突然、自宅に強盗が押し入ってきた。
男は俺を縄で縛ると家の中を探索した。
そして貴金属類をバッグに詰めると、リビングの椅子に縛り上げていた俺のもとへとやってきた。
その手には小さな金庫。
くそっ。見つかった。
「パスワードを入力するタイプの金庫か。よっぽど良いもんが入ってるみたいだなぁ」
強盗の男がニヤリと口角をあげる。
「そ、それだけはやめてくれ……」
蓋を開けようと男がいじるが、箱はいっこうに開く気配を見せない。イライラした男に俺は殴られた。
頬がじんじんと痛む。
「おい。死にたくなかったら早くパスワードを教えろ」
「……い、言えない」
「ふん」
「はぁはぁ。なかなかしぶとい野郎だぜ」
それから何発殴られただろう。
「……ちっ」
男が壁にある時計を見上げる。
そろそろマジキュアサクたんのショーを観に行っている妻と娘が帰ってきてしまう。二人をこの男と鉢合わせさせるわけには……しかし……。
「いい加減パスワードを教えろ」
男の目が冷たくなっていく。
くそ。大事な家族には代えられないか。
「……サクたんしゅきしゅき、だ」
「は?」
「ローマ字で『サクたんしゅきしゅき』がパスワードだよ!」
「……」
男が無言でパスワードを入力すると箱はすぐに開いた。
箱の中は俺のサクたんコレクションで溢れていた。
「悪いかよ。娘と一緒に見てるうちに俺がハマったんだよ」
「……お前」
くそ。引いてやがる。いいだろ。大の大人がマジキュアサクたんにどハマりしても!
「……」
男は無言で懐に手を入れた。
「っ!」
殺される! と思って目をつぶる。
「やるよ」
「……は?
なっ! サ、サクたんの配信限定エクストラレアカード、だとぉっ!?」
「金目のものはもらっていく。その代わりにこれをやる」
「い、い、いいのかっ!?」
生配信中にCDを予約しないと手に入らない激レア。俺は妻と娘にサクたんしゅきしゅきを秘密にしているから泣く泣く入手を諦めた垂涎の品だ。
はっ! そういやコイツ、パスワードを入力する時に『サクたん』を『SAKUTAN』ではなく、原作に忠実に『SHAKUTAN』と入力して金庫を開けやがった!
「……同志よ。壮健なれ」
「ボ、ボォスっ!!」
男はサクたんを指揮する組織のボスの名言を言い放つと、俺の縄を取り払って去っていった。
「……マジキュアサクたんに、おまかせあれ」
俺はサクたんのいつものセリフを呟いて、警察を呼ぶ前に俺の金庫を元の場所に隠すことにしたのだった。