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僕の隣には。

作者: さいとう

※大分昔にボイスドラマの為に作った内容になります。

台本として作ったので前半はキャラクターのセリフが多めです。

ご注意ください。



【僕の隣には。】



それは真夏のある日。

白いワンピースを風に揺らせ、

少女は公園の丁度、樹で影が作られているベンチに腰掛けた。


少女「…暑い…暇…。」


生暖かい風を感じながら

遊ぶ子供の姿を見つめる。


少女「…こんな暑いのにご苦労な事ね。」

少年「本当だね。子供は羨ましいよねぇ。」

少女「冬でも半そで半ズボンの子も居るもん、ね…?」

少年「あはは!冬かぁ、こんなに暑いと冬も恋しくなるねぇ。」


少女「ってアンタだれだぁああ!!!?」


少年「え?」

少女「え?じゃなくて!!ってか何時の間に、隣に座ってんだ!!」

少年「女の子がそんな汚い言葉使っちゃダメだよー?」

少女「黙れ!!」

少年「…。」

少女「本当に黙るな!!!」

少年「忙しい子だねぇ。」


少女は面倒くさそうに、

言葉の勢いで立ち上がった体をまたベンチへと預ける。


少年「君、いつも此処に来てるの?」

少女「偶々…散歩ついでに寄っただけ。」

少年「へぇ、僕は此処、初めて来たんだ~。」

少女「引越しか何か?」

少年「ううん、ずっと病院に居てね」

少女「入院?」

少年「うん。物心付いた時からずっと、ちょくちょく抜け出してたんだけど、此処まで来たのは初めてだよ」


少女「へぇー…。だからパジャマなんだ。

なんていうか、こういう出会いってベタって言うか。

小説とか漫画とかなら、先が読めまくる様な設定ね。これ何て台本?」


少年「うん。メタだから止めようか。」

少女「ん?ちょっと待って、今、抜け出すとか、此処まで来たのは初めてとか…。」

少年「うん。」

少女「…おまっ!病院から抜け出してきたの!!!?」


少年「あっ!大正解!なんで分かったの?エスパー!?」

少女「自分で言ったんじゃないの!!」

少年「あっ、そっか。」

少女「帰りなよ、抜け出すとかありえない。」


すると少年は、どこか悲しげに目線を下に向けて呟いた。


少年「今のうちに、好きな事をしたいんだ。」

少女「え。」

少年「ううん。ねえねえ。

また明日もさ、此処で会わない?ね、良いでしょ??」


少女「嫌よ。」

少年「即答とかひどーい!ねっ、僕を助けると思ってさっ。」

少女「なんで会ったばかりの変人を助けにゃならんのよ。」

少年「へ、変人!?ひどいなぁ…僕の話し相手になってよ。」

少女「私にメリット無いし。」

少年「えー??お願いだよぉ。」


少女「子犬の様な目で見てくんな!!なんか無駄に似合っててキモイ!!!」

少年「ね?お願い。」

少女「あー!!もう分かったから!!明日も来てあげるから!!その顔やめて!!」


少年「意外にチョロイ。」

少女「お前殴らせろ。」


看護師「あっ!見つけました!!岸谷(きしたに)さーん!!もう逃がしませんよ!!」


少年「げっ、もう見つかった!」

少女「逃げないの?」

少年「んー、逃げても、結局帰らなきゃだし。今日は良い収穫もあったしね!」


少女「病院の人が可哀想。」

少年「じゃ、また明日!絶対だよ!!」

少女「気が向いたらね。」

少年「いけずー!じゃ、またね!」


看護師「まったく!悪化したらどうするんですか!」

少年「そうカッカしないでよ!」


少女「おかしな子…。」



次の日。

昨日と同じ、お昼頃に公園のベンチに少女は腰掛けた。

昨日の少年が来るまで、また、何をするでもなく、ぼうっと宙を見つめる。


少女「はぁ、郵便の人もご苦労ねぇ。こんなクソ暑い日にあんなクソ暑い服着て….。」

少年「そうだね、ところで君って独り言が癖だったりするの?」

少女「あ、来てたの。」

少年「反応薄いね…ちょっと悲しい。」

少女「私に何を求めてるの。」

少年「面白みを…。」

少女「求めるな。」

少年「冷たい…。」

少女「帰るわよ。」

少年「ごめんごめん!冗談!!」


それからは、他愛の無い話をした。

病院食が不味いだとか、一人部屋に移っただとか。

何でもない2人だけの会話。


少年「はー、笑った笑った…そろそろ帰ろうかな…。」

少女「おー、そうしろそうしろ。」

少年「つめたーい。」

少女「何とでも言いなさい。」

少年「ねえ、また明日もダメ?」

少女「面倒くさい、けど、アンタと話すの意外と楽しいから良いよ。毎日暑くて暇過ぎるし。」

少年「やった!じゃあ!また明日ね!!」


嬉しそうに笑った少年の笑みはとても輝いていて、病人には全く見えない。

少女は、手を振る少年に小さく手を振り返して、少年の姿が見えなくなると自身も家路に向かった。



翌日。

少年と少女は、またベンチに肩を並べて腰掛けている。


少女「ってか、態々此処まで来なくても私が病院行けば、良いんじゃない?

看護師さんに追い掛けられずに済むし。ぶっけちゃけ、看護師さんに迷惑掛けずに済むし。」


少年「それじゃダメ!!」

少女「な、なんでよ?」

少年「僕は、君とこうやって、このベンチで話をするのがすきなんだ!

病院のベッドの上じゃ、全然楽しくない!」


少女「そういうもん?」

少年「そういうもんなの!」

少女「アンタが楽しいなら、別にそれでも良いけど。」

少年「あ、デレた?ね、デレたでしょ?デレたよね?」


少女「沈めるぞ。」

少年「鬼畜、鬼、悪魔。」


少女「あ、看護師さんだ。おーい!!」

少年「あ゛!ちょっと止めてよ!!」

少女「こっちこっち!!」

少年「酷いよ!もっと話したい!薄情モノー!!」

少女「泣くな。」


看護師「また此処に居たんですね!!ごめんなさいね、世話かけちゃって…。」

少女「いえいえ。お世話してます。」

少年「また明日!また明日だからね!!」

少女「はいはい。」


それから毎日。

その少年と会うことになった。

いつからだろう。

少年は会う度に、弱々しくなっている気がした。

出会った初めは肌も白く健康的とは言い辛いけれど、

見ているだけで疲れてしまうくらいに明るかったのに。


少女「体調、大丈夫なの?」

少年「え?嗚呼、うん。平気!」


そう笑った少年であったが、顔色は白を通り越してしまっている。


少女「大丈夫じゃないでしょ!病院戻ろうよ、きっと看護師さんも探してる。」

少年「大丈夫、看護師さんからは許可貰ったから、時間まで大丈夫。」


許可?あんなに探してたのに?可笑しい。

そう思った少女であったが、縋る様な少年の表情に何も言えなくなり、目線を足元に向ける。


少年「心配しないで、本当に大丈夫だから。」

少女「別に、心配なんてしてないわ…。」



少年「心配しないで、本当に大丈夫だから。」

少女「別に、心配なんてしてないわ…。」


素直に言えない自分が凄く嫌になった。

少年に無理をさせているのは、もしかしたら自分ではないのか。

少女は強く拳を握る。


少年「ねえ、明日の夜、この公園で会わない?」

少女「夜?」

少年「昼間は検査で来れないんだ。」

少女「でも、大丈夫なの?」

少年「許可はとったから。大丈夫。」

少女「ねえ、やっぱり最近可笑しいよ。」

少年「何もおかしくないよ。」

少女「可笑しいよ!ねえ?何か隠してない?」

少年「何も隠してないよ。」

少女「隠してるよ!!」


今にも泣きそうな少女に

少年は困ったような、それでいて優しげにふんわりと微笑んだ。


少年「何も隠してないよ。明日、大丈夫?」


断れる筈が無かった。そうやって、いつの日か見せた子犬の様な笑み。

きっと、今は意識していない。

あの時の様に意地悪そうな顔していないそれはただ儚く消えてしまいそうだった。



少女「仕方ないから、良いよ。君の我侭に付き合ってあげる。」

少年「良かった…ありがとう。」

少女「絶対、明日の夜。絶対だからね?遅刻厳禁!早退ナシ!…絶対、会いに来てよ。」

少年「勿論だよ。」


少年は最後に嬉しそうに微笑んだ。

少女は少年の顔を見ずに、俯いたまま、

看護師が迎えに来たのを確認して、何も言わずに、家路に向かって走り出す。


少年「明日、またね!!」


その少年の声を背に受けて、

少しだけ嬉しさで心を浮き上がらせた。


少女「そういえば、名前….。」


少女は自宅の部屋のベッドに寝転がりながら、不意に呟く。


少女「名前、聞いてないじゃん…。

あれだけ会ってて、名前聞いてないって…。」


溜息を一つ零して「ありえない」と肩を落とした。

一番はそれに気付かなかった自分に対して、もう一つは、それを少年に聞こうとしなかった事。

きっと、どこかで気付いていたのに。


少女「…明日、聞いてやろうじゃん私の名前覚えさせてやるんだから…!」


そうしてどこか嬉しそうに、どこか楽しそうに、少女は眠りに付いた。


次の日の夜。

少年が来る事は無かった。


少女「くるって…行ったじゃん…。」


何も考えられず、ぼうっとベンチに座って足元を見つめる。


その時、前方から足音が聞こえた。

少女は勢い良く顔を上げるが、そこに居たのは少年ではなく。


看護師「やっぱり、まだ待っていたの。」

少女「看護師さん…。看護師さん、彼は…。」


看護師「…ついて来て、病院に彼が居るから。」

少女「なんで私に…。」

看護師「彼がそれを望んでいるの…ごめんなさい、私からはこれくらいしか出来ないから…。」


看護師が少女にそう言うと、ゆっくりと足を進めた。

少女は無言でその後を追う。


病院まで続く道、二人の間で会話はない。

ただ重く、苦しい空気だけが漂う。


看護師「私は待ってるから、何かあったら呼んでね。」


病室の前、看護師の言葉に頷き扉を開けるとベッドに横たわる少年の姿。

その肌は青白く、見ているこちらが悲しくなってしまう程弱々しい。

弱く、心電図の音だけが部屋に響いていて、別の世界に居る様だった。


少年「…あ、きて、くれたんだ…。」


苦しそうに息を吐きながらも、少年は嬉しそうに少女を見る。


少女「あんた…あんた…っ。」


一体どういう状況なのか理解出来ず少女は困惑したように声を出した。


少年「ごめんね、約束、まもれなかった。」

少女「そんな事、どうでもいい!」

少年「君、なきそう。」

少女「なか、ないわよ。」


少女は言葉を詰まらせながら、

涙が流れない様に必死で下唇をかみ締める。


少年「君の名前、おしえて?」

少女「っ、藤枝、夏羽、藤枝夏樹よ(ふじえだ なつき)」

少年「すてきな、なまえ。」


息苦しく、吐く様に、それでも一言をしっかりと伝え様と喋る。


少女「あんたの名前教えなさいよ…。」

少年「岸谷、冬樹きしたに ふゆき

少女「わかった、冬樹。」

少年「夏樹、なつき…。」


少年は嬉しそうに、けれどもだんだんと震える声で少女の名前を口にする。


少女「なに?どうしたの?」


少女はそんな少年に優しく声を掛けながら微笑む。


少年「なまえ、きけてよかった…夏樹。」

少女「何言ってんのよ、明日も明後日も、あの公園で話すんでしょ。」

少年「うん、まだ、夏樹と一緒に、いたい…まだ夏樹と一緒に、」

少女「一緒、うん、一緒に居よう?」

少年「ずっと、一緒に居たい。」

少女「いいよ、ずっとずっと一緒にいよう。」


その言葉を聞いた少年は、弱弱しくもニコリと笑みを浮かべた。


少年「うん…ずっと、いっしょ…だよ」


少年はにこりと笑い、身体の力を。


ピーーーーーーー。

無機質な音が、病室に響いた。

苦しそうに息を詰まらせながら言った少年の瞳から光が消える。

少女の瞳から、抑えていた感情が全て溢れ落ちた。

視界のどこかで音を聞き付けた看護師が慌しく動く。


少女「冬樹?冬樹??ねえ、馬鹿じゃないの!?今約束したばっかじゃん!!」

少女「ちょっと、目開けなさいよ。」

少女「ふゆき、ふゆき…。」


少女は悲鳴にも似た声を上げて崩れ落ちた。

看護師の声も、何も聞こえない。


それは小さな物語。

誰も気付かない様な些細な出来事。



少女「ねえ、」


公園のベンチに腰掛けている少女は

誰も居ない、“隣”に話しかける。


少女「今日も、良い天気、ね。」


セミの声が響く。


少女「聞いてるの?」


子供の声が響く。


少女「冬樹。」



―それは、ある少年との出会いから始まった―

真夏の日差しが容赦無く肌を焼くそんな夏。

子供達の声が響く広場のベンチで、小さな物語が生まれた。

きっと誰も気付かない様な小さな出来事。


僕達だけが知っている、そんな物語。


おわり




【看護師の独白】


その子は可哀想な子だった。

親から見捨てられた様な、誰も傍に居てあげる人が居ない様な。

私が個人的に見たその子の両親はとても酷かった。

見舞いにも来ない、励ましの言葉も何も無い。

ただ死を待つだけのその子を一人にして。

だから私はその子を他の患者よりもよく見ておく事にした。


そんな子がいつからか病院を抜け出すようになった。

そしていつからかとても楽しそうに病室に戻ってくる様になった。

私はそれがとても嬉しかった。

とても嬉しかったのだ。

以前ボイスドラマを制作しようと思って作ったお話になります。

こえ部がこの世にまだあった時代のものなので折角だしここでだけでも公開させて貰えたら思い…。

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