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第九話 ギルド

「あ、そうそう、体を拭くのはそこの棚においてある布使って。着替えも同じところにおいてあるから」

 外からシャーリィの声がする。棚を見るといくつかの布があった。ほんのりとシャーリィの香りがしている。

 とりあえずは罪悪感を無理やり飲み込んでシャーリィの香りのするその布を使った。

 着替えと言われたものはだいぶゆったりと作られたシャツとパンツ。ただ、シャーリィサイズだからおそらく私が着たら随分と丈が足りないだろうな、と思った。

 今まで着ていたものは汚れがまったくないので着替えは使わずに今までの肌着を着る。

「洗濯物は入り口のカゴに入れておいて。まとめて洗濯しちゃうから」

 再びシャーリィの声がした。体を拭いた布をカゴに入れる。鏡があったので見る。若干のひげがあるのでディルファを抜いてそれで髭を剃る。

〈主、我は剃刀ではないのだが〉

 声を無視して剃っていく。いい切れ味だった。

 眼帯で覆われてはいるものの周辺の状態からその下にひどい傷があるのは予想できるな、と思った。眼帯の感触はあるのに右目を閉じても視界があるというこの気持ち悪さ。慣れるしかないのだろうなと思う。

 ディルファを鞘に戻し、服を着て外に出る。

「え、なんでそのまま出てきたの! 湯浴みの仕方知らなかった⁉」

「いや、女神の下賜のものなのか、汚れが全くついていなくてな……体はそこそこ汚れていたようだが……まあ、そういうことだ」

 私の言葉にシャーリィは絶句。

「なにそれ、洗濯いらずってことなの⁉」

「多分」

 大きなため息。

「ほんと、常識が壊れていくわ……」

「すまんな」

「他に隠していること、ない?」

「あー……職業なんだが……」

「え、魔術師と回復士の二重(ダブル)じゃないの?」

「違う。ステータスオープン」

 半透明の板を眺めながら答える。

「剣師、拳師、付与師、魔術師、呪術師、錬金術師、召喚師、鍛冶師、回復士、だな」

 シャーリィは指折り数え、そしてため息。

九重(ノナプル)の上に上級職の八重(オクタプル)って……ほんっっとうに規格外ね……戦闘力評価は?」

「9999+」

「もういいわ……ラルフ、あなた、天災級よ……」

「なんだそれは」

「英雄が複数集まって倒す敵と同等の強さってこと。一般人は戦闘力評価なんて10に届くかどうか。戦闘関係の上級職になると100の大台に乗るわ。あたしは以前の値なら259」

「ほう。ならば評価は上がっているな。616と見えた」

「上級職の二重(ダブル)ならそうなるでしょうね。っていうかその能力も変態よ」

 シャーリィは私に人差し指を突きつけて言う。

「ギルドカードは神器なのよ。族長はある程度見えるらしいんだけど、はっきりとは言わないのよね」

 シャーリィの言葉を咀嚼する。とはいえもう少し情報が必要だ。

「なるほどな……で、さっきご飯がどうこうと言っていたような気がするのだが?」

「あ、そうそう。そろそろできるからこっちへ」

 シャーリィに案内されキッチンへと向かった。


「あとはスープを煮てるだけだから、その間にでも軽く説明しようか」

 シャーリィに椅子を勧められて座る。シャーリィは私の向かい側の席についた。

「ギルドはわかる?」

「同じ職能を持つ者たちの寄り合いのようなものでいいかな?」

「うん、そう。普通は鍛冶ギルドとか、木工ギルドとか、そんな感じ。ただ単にギルドって言ったときは便利屋たちが集まっているギルドになるの」

「便利屋……とは?」

「んー……いろんなことができる人たちの集まりかな。専門のギルドは上納金とか義務がそこそこあるんだけど、代わりにいろんな特権があるんだよね。鍛冶ギルドだと鉱石買い入れの優先権や税減免があったり。だけどギルドにいる鍛冶を行う者たちは鉱石買い入れは鍛冶ギルドの仕入れ時間が終わった後になるし、買取時には税金がきっちりかかる」

「なるほど。専門職ではない者たちの互助会か」

「大雑把にはそうね」

 シャーリィは肩をすくめてため息をつく。何かあるのだろうか。

「あとは、傭兵。街道の護衛、警備とか」

「民間の武力か。国家は軍を持たないのか?」

「持ってるわよ。だからギルドの傭兵たちは無茶をしないわ」

「なるほどな。洞窟(ダンジョン)侵攻戦(レイド)は軍が?」

「なにそれ?」

「瘴気溜まりが洞窟(ダンジョン)を生み出すだろう。それを定期的に清掃しないとすぐ暴走(スタンピード)が起こる」

「あー……そっちはあたしたち冒険者の範疇だね。あたしは傭兵もやるけどメインは冒険者のつもりでいる」

 また訳のわからん単語が出てきた。

「冒険者とはなんだね?」

「何って言われても困るな……んー……合法な荒事ならなんでもやる奴ら、ってところかしら」

「ギルドの性質そのもの、というところか?」

「……ラルフ、あんた理屈っぽいよね」

「歳を取るとそうなるものだ。女性に年齢を聞くのは失礼なのは理解しているが、シャーリィ、君は何歳なんだね?」

「あたし? 16歳」

「若いとは思っていたが……娘どころか孫の歳、だったとは」

 ため息を交えて答えるとシャーリィは満面の笑みを浮かべている。まるでいたずらに成功した子のようだ。

「なーんか、失礼なこと考えてない?」

「いや」

 女の勘ってのは、怖いものだ。


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