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第五話 説得

「物騒な女だな」

 刺激しないようにゆっくりと立ち上がる。両手を開いて、顔の高さに上げる。

 顔立ちは美しいが表情は剣呑だ。

「名前と所属は?」

「ラルフ。ディーフヴァルター帝国の出身だ」

「え?」

 女は剣を少し下げる。

「聞いたことのない名前の国だね」

「そうかい。そんなことより、子どもたちを助けないのか?」

 少しずつ檻から離れる。女は檻に近づく。

「ケガの具合はどう?」

 視線は私の方を向いたまま、檻の中の子に声をかける。

「治ってる。さっきのおじちゃんが治してくれた」

「は……?」

 女は私をまじまじと見る。

「あんた、治癒師?」

 ステータスオープンで表示されたものにはそんな名称の職はなかったが、似たような意味の職はあったな。

「いや、回復士だ」

「ってことは、血は戻ってないか……」

 少し残念そうな女。そのあと、剣を鞘に戻し、頭を下げてきた。

「疑って済まなかった。助力と治療に感謝する、ラルフ。アタシはシャーリィ。シャーリィ・クロトヴァよ」

 上げていた手を下げる。

「それにしても、回復士なのに随分と……その、手慣れたというか」

「これでも元軍人でな」

「軍人?」

 シャーリィが首をかしげると、尖った耳が現れた。褐色の肌に尖った耳、ダークエルフか? とりあえず黙ったまま頷く。

「そうだ。外敵から国を守るもの、だ」

「騎士様ってこと?」

「そこまでは偉くない。せいぜい従士ってところか」

「ふーん、そう」

 荷駄には馬は繋がれていない。檻には頑丈な鍵が付けられている。

「どうしたものかなー」

 シャーリィは鍵を見て思案顔だ。

「下がってくれ。壊す」

「へ?」

 シャーリィを下がらせるとディルファを抜き、一閃。鍵は真っ二つになる。

〈主よ、痛いぞ〉

 声を無視してディルファを鞘に戻し、檻を開け、手を差し伸べる。

 檻の中の子たちも尖った耳で、肌の色は白かった。普通のエルフのようだ

 一人ずつ助け出し、地面に下ろす。

「ひどい、こんなものまで」

 シャーリィは檻から出てきた子どもたちの首をみて呻く。

「どうした?」

減衰の首輪(レデューサー)よ。体内の魔力(マナ)の活力を抑え込んでしまう。抑えつけられた魔力(マナ)は最終的には魔力焼け(マナバーン)を起こすわ」

「外せるか?」

「アタシたちは精霊魔法の使い手だから……この手の魔法具(アーティファクト)はわからないのよ」

「そうか。ガーランド、粉砕(シャター)

《イエス、マスター》

 パキンと音がして首輪がはじけ飛ぶ。

「え、あんた、回復士じゃ……」

「魔術師でもある」

二重(ダブル)……? 人間にしては珍しいね」

「そうか」

 他にもいろいろあるが、黙っておいたほうがよさそうだ。


「ところでさ、ラルフ」

「なんだ?」

「ディーフヴァルター帝国ってどこにあるのさ?」

「私にもわからん。そういう意味では、ま、根無し草ではあるな」

「ふーん、そう」

 シャーリィは私をじっと見つめる。

「んじゃさ、クロトヴァに来ない?」

「クロトヴァ?」

「エルフの集落よ。ラルフは男だから、クロトフになるけど」

「それはありがたいが……私のような怪しい人間を呼び込んで問題にならないのか?」

 シャーリィは私の言葉にケラケラ笑ってバンバンと背中を叩く。

「関係ない子どもたちを命を張って救うようなヤツが悪人とは思えないね。しかも回復士に高位の魔術師だ。これを誘わなかったらアタシはぼんくらだよ」

 子どものうち、特に小さくて弱っている子一人を抱きかかえ、シャーリィの後をついていくことにした。


「ね、おじちゃん」

 しばらく歩いていると、抱きかかえていた子が私に話しかけてきた。

「ラルフだ」

「ラルフおじちゃん」

 まじまじとエルフの子を見る。多分女の子だろう。彼女が何歳かはわからないが……まあ、おじちゃん、でいいか。

「なんだ?」

「なんで、あたしたちを助けてくれたの?」

「子は国の宝だからな。私は軍人だ。軍人は国を守るためにある」

 心のなかでは苦笑しつつも、笑顔を浮かべる。

「ね、おじちゃん、左目、どうしたの?」

「あー……そうだな。魔物に食われた。左手もな」

「え……?」

 エルフの子は私の左目に手を伸ばし、撫でさする。

「いたいの、いたいの、とんでけー」

「ああ、大丈夫だよ。食われたのはだいぶ昔の話だ」

 心が若干ささくれる。あの洞窟(ダンジョン)侵攻戦(レイド)において自分の力不足から主を危険に晒し、そして主の無事のために自分を犠牲にし、そして……。

 抱きかかえている娘を見て、考えを飛ばし、微笑む。

「お嬢ちゃん、名前は?」

「シャイア。シャイア・クロトヴァ」

「そうか。いい名前だな」

 シャイアはしばらく照れた後、私に質問してくる。

「ね、おじちゃん、左手、あるよね? ほんとに食べられちゃったの?」

「ああ、この左手はガーランドという名前の、義手だ」

「ぎしゅ?」

「作り物、偽物の手、だな」

 私の答えに、シャイアが泣きそうになる。

「どうした?」

「だって、だって……」

「なあに。その左手と左目の代わりに私の大切な人は助かったんだ。なにも問題はない。今は、まあ……問題はあるものの、なんとかなっている。それで十分だ。年寄りがこれ以上望むのは贅沢というものだよ」

「え……?」

「逆に言えば君たち子どもには無限の可能性があるってことさ」

 左目でウィンクしそうになり、苦笑する。左目にはまぶたはなく、眼帯で覆われているというのに。

 長年の習慣というものは簡単には覆せないものだ。

「ね、ラルフおじちゃん」

「なんだ?」

「クロトフの人になるの?」

「どうだろうな」

「そっかー……あたしは、おじちゃんもクロトフになってくれると、うれしいな」

「前向きに考えるよ」

 抱きかかえているシャイアの背中を軽く叩いて答えた。


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