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第四話 界渡り

 気がつくと森の中の道の脇にある木に寄りかかって立っていた。道はかなり幅広い。人の手が入っている、というより馬車の轍が見える。これに沿っていけば街に到達できそうだ。

 自分の服を確認する。

 全身真っ黒だった。つばのある帽子も黒、両手には黒手袋、黒マント。アーカットの宗教色である黒にしたのは女神の心遣いなのだろうか。

 視界はクリア。右手で左目のあたりに触れてみると、眼帯が当てられている。帽子を取り、眼帯を外す。

 黒いシンプルな眼帯。視界の状態は変わらず、ではない。眼帯に関する情報が入ってきた。

――恩寵の眼帯。レンからの出力に干渉し、情報の遮断を行う。

 周りを見渡そうと視線を上げた。慌てて眼帯を戻す。

 これはきつい。目に入るものの雑多な情報が断片的に流れ込んできたのだ。

 眼帯をした後でも視界はクリアだった。謎な眼帯だ。

 左手の手袋を外す。やはりガーランドがそこにある。痛みを伝えず、自由に動かせる、固い、左腕。眼帯をずらす。

――ガーランド。神の一部。魔術師。英雄。神殺し。速攻魔法(インスタント)の自動応答機能あり。

 眼帯を戻した。おそらくレンは意識をして見ているものの解析を行う。意識せずに見渡すようにすると視界内に入るものの情報を雑多に混ぜて流し込んでくる。そういうものだと理解した。

 これが正常なのか……? 以前の見た相手の考えが流れ込んでくるほうがマシな気がするのだが。

 そういえば、ステータスシステムとか言っていたな……

「ステータスオープン」

 目の前に半透明の板が出てきた。文字が書かれている。


――――

ラルフ


称号

 界渡りしもの(プレインズウォーカー)

 女神に愛されしもの


職業

 剣師

 拳師

 付与師

 魔術師

 呪術師

 錬金術師

 召喚師

 鍛冶師

 回復士


戦闘評価値

 9999+


装備品

 『全てを見抜くもの』レン

 『世界を統べるもの』ガーランド

 『情報を制するもの』恩寵の眼帯

 『万物を断するもの』ディルファ

――――


 呆然と見つめていると、やがて板は消えた。なんだこれは。

 職業は軍人あるいは元軍人ではなかった。

 そもそも軍人で剣と体術はかなりしっかりやった覚えはあるが、付与、魔術? なんだと?

 そしてレンとガーランドは装備品扱いだった。

 ディルファ?

 腰に手を回すと、手に馴染んでいるナイフの感覚がある。磁石の留め金を外して抜いてみる。

 宿舎で処分した使い慣れたナイフと同じ形だが黒い刃のナイフが出てきた。眼帯をずらす。

――ディルファ。魂をすすることで強化される。

 眼帯を戻し、ナイフをしまう。

 女神め。何のつもりだ。

 頭を振って考えを飛ばし、道へと出る。右か、左か。

 深い意味はないが、右へ向かうことにした。


 風が気持ちいい。

 疼痛がないというのはこれほど快適だったとは。

 当面の問題を考えながら移動を続ける。

 まずは食料、あと水。なにもない。

 戸籍などがどうなっているのかは気になるところだ。ちゃんとした管理があるのなら、私はただの不審者になる。

 まったく、あの駄女神め……そういうことのほうが重要なのだがな。

 それにしても、気持ちのいい風……ではないな。これは。

 風にのって、かすかな金属音。

 前方で、か。

 走りながらガーランドへ指示。

「ガーランド、防護円環(プロテクトサークル)展開」

《イエス、マスター》

 冷たい女声が返答する。ガーランドの声、なのだろう。


 荷駄、と言っていいのか。鉄格子の中には子供。

 褐色銀髪の女性が、剣を構えている。周りには三体の死体と、六人の男。男たちの装備はかなりよい。山賊のたぐいではないようだ。

「よくもやりやがったな!」

 檻の前にいる男がその女に吐き捨てる。

「動くんじゃねえ!」

 男は檻の中に左手を突っ込み、何かを掴んで引っ張る。じゃらじゃらと音がする。鎖?

 右手に握った剣を檻の中に差し込む。

「ぎゃーーーー‼」

 子どもの絶叫が響く。刺したのか。男が右手の剣を女性に向けて見せつける。かなり深いところまで血がついている。あれは貫通しているな。

「これ以上逆らうなら、この子たちに穴が増えるぞ」

「くっ、卑怯な!」

 状況はよくわからないが、子どもを刺すような輩がまともな人間とは思えない。助太刀すると決めた。

 小さな声で命令する。

「ガーランド、衝撃(インパクト)

《イエス、マスター》

 男の頭が大きく仰け反る。持っていた剣と鎖を手放す。ディルファを抜き、飛び込む。

「助太刀する!」

 檻の前の男は体勢を立て直し、剣を拾おうとしている。

 ディルファで男の手の甲を刺し、地面に縫い付ける。

「ぎゃあ! 手が! 手が!」

 男は不用意に左手を出してきた。ディルファを離して右のかち上げを顎に叩き込む。男はそのまま弾き飛ばされる。

 ディルファを地面に残したまま。ディルファは男の甲を切り裂き、血に濡れている。回収し、構える。

「おれ、おれの、みぎ、て……」

「それだけで済んでよかったな」

 私がそう告げると、男は右手を左手で押さえたまま背を向けて逃げ出した。

「あ、おい」

 だがまだ多数の男が残っている。追わずに振り返った。

 女性は二人、すでに倒している。いい腕だ。ディルファを逆手に持って、飛び込む。

「ほう、こりゃ驚いた」

 男の金属鎧にスルッとディルファは滑り込み、左腕の肘を切り落とす。衝撃で体勢が崩れればいいかくらいのつもりだったんだが。

〈ひどいぞ主。今のは痛かった〉

 ガーランドのものとは違う、男声が聞こえる。

 気にはなるが無視。手の中でナイフを反転させ、順手で持つ。次の男を刺し、こじってから前蹴りで蹴り倒して抜く。

 ナイフは刺しただけではダメだ。こじって抜くことが重要。

 一人、こっちに意識を振り向けたやつがいる。剣が振り下ろされる。刻み込まれた習慣で、ナイフで受ける構えを作りながら右へ、当たった瞬間に力を受け流す構え。

 ギンッとものすごい音がして、男の剣が空中で止まる。

 まさか、これが防護円環(プロテクトサークル)か!

 そのまま右手を回し、男の首に滑り込ませる。ディルファは鎧の隙間に入り、そのまま抜けた。

 派手な噴出を横に飛んで避ける。

 戦闘音はしない。

 ディルファを振ってついた血を振り落とし、鞘に戻す。

 檻の中を見る。六人。ギリギリ成人前くらいの子たちだ。うずくまって泣いている子に左手を差し出す。

「ガーランド、回復(ヒール)できるか?」

《イエス、マスター》

 カチカチとガーランドから小さな音が聞こえる。左手から柔らかな光が流れ出す。

 何故か、疲れる。呼吸が落ち着いたのを見て、手を戻す。

 気配を感じて振り返ると褐色女性が私に剣を突きつけてきた。

「何者だ、貴様」


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