憂いの姫君 【月夜譚No.185】
一度だけ、姫君の姿を目にしたことがある。
偶々城の近くを通りかかった昼下がり。いつもは堅く閉じられている二階のバルコニーの窓がその日は開いていて、風に広がる白いカーテンの陰に彼女はいた。
手摺りに両腕をつき、物憂げに城下町を見下ろしていたのが印象的だった。長い金髪は太陽に煌めき、整った美貌を際立たせる。
彼はつい見惚れてしまい、道端に突っ立ったまま彼女を見つめるしかできなかった。しかし、それもほんの数秒のこと。すぐにメイドらしき女性がやってきて、彼女は城の中へ姿を消した。
それがこの国の姫だと知ったのは、数日の後のことである。
国王は式典などがある度に目にする機会があるが、人前に姫が出てくることは殆どない。噂では、国王の過保護な性格から城から出ることも叶わず、鳥籠に囚われるような毎日を過ごしているということだ。故に、姫の姿を見た者は数少ない。
だというのに、あの日から考えてしまうのだ。またいつか、彼女の姿を目にすることはできるだろうかと。
淡い――それはもう透明に近いほどの期待を持って、彼は今日もあの道端に足を運ぶのだ。