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プロローグ

 ふわふわふわふわ。


 ここは、我が公爵家自慢の庭園の一角。手入れは充分にされているものの、木々が生い茂り、反対側には薔薇園がある為、ここには滅多に人が来ない。

 茂みの間に身を寄せれば、大の男一人でも平気で隠してくれる。

 俺はその場にゴロンと横になる。

 俺の最高の昼寝スポット。

 今日は天気も良く、来客もあったので俺はここに逃げ込んでいる。


 少し眠ったのだろうか?

 目が覚めると緑の垣根の上から、金色の綿毛がふわふわと動いている。

 光に当たってキラキラ輝いているその光景に、暫し目を奪われる。

 そうして目が合う。

 え? 目?

 ガサッ。

 垣根の向こうから出てきたのは、三歳ぐらいの女の子。

 金色のくせ毛に大きな緑の瞳は真ん丸だ。ぷっくりほっぺに小さな口はサクランボのよう。ピンクのプリンセスドレスは、どこもかしこもひらひらで、十人中九人はお人形みたいに可愛いと評する女の子(中には人と違う感性を持つ者がいる為、ここではそう評価する)。

「にぃに、だぁれ?」

 右にコテンと首を傾げる女の子。

 声もまた可愛かった。

「にぃには、ここのお家の子です。君はだぁれ?」

「アティはアティよ。にぃにはだぁれ?」

 今度は左にコテンと首を傾げている。

 ああ、名前を聞いているのか。

「にぃにはエルだよ。アティ」

 名前を聞くとニコッと笑った女の子は、トコトコと俺のそばに寄ってきてポスンと横に座った。

 ポスンというのは比喩ではなく、スカートの膨らみが女の子の体より大きくて、本当にそのような音が鳴ったのだ。

「んっと、ちらないひとといっちょダメ。にぃにエル。だからここいいね」

 ニコニコと笑う女の子の顔を見て、なるほどと思った。

「ここは知っている所?」

「ちらない」

 プルプルッ。

 今日の客人の子供か。一人で庭に出て迷子になったと。

 不安でいたところ、俺がいてそばに行きたいのに、知らない人と一緒にいてはいけないと言われていたから、まずは名前を聞いて知り合いになったというところか。

「いちゃい」

 はっ、俺は無意識のうちにプルプル揺れる女の子のほっぺをムニムニと摘まんでいたらしい。う~ん、この柔らかさ、癖になる。

 本気で痛かったわけではないのだろう。手を離すと女の子は、素知らぬ顔で俺の足の間に入り、身を寄せてきた。

 プニプニのほっぺをスリスリと俺の胸に摺り寄せたかと思うと……

「すーっ」

 そのまま眠ってしまった。

 え、いつの間にそこまでの知り合いになった? 幼子とはいえ気を許し過ぎだろう。

 その無防備な姿を見て、俺は今日の客人キュルレス侯爵に注意をしなければいけないと思った。こんなのすぐに誘拐されるぞ。

 俺はハア~と息を吐く。

 まあ、慣れない場所で迷子になったのだ。よっぽど疲れていたのだろう。この広大な庭をどれぐらい彷徨っていたのか。小さな体では大変だっただろうに。そう思い、俺は女の子を抱きなおす。眠りやすいようにと。

 改めてジッと女の子を見る。

 白い肌に柔らかい頬。長い金色のまつ毛に小さな鼻。赤い小さな口はすぅすぅと気持ちよさげに寝息をたてている。フワフワな金髪は俺の眠気まで誘う。

 将来この子はかなりの美女になる。性格も今のところは素直そうだ。

 俺は女の子の柔らかいほっぺをもう一度摘まんでみる。ムニムニと指の動きに伴い口は動くものの、起きる気配は一向にない。

 もう一度摘まむ。ムニムニ。もう一度。ムニムニ。ムニムニ。

 俺の口元が弧を描く。

 ――気に入った。これは育てかいがあるぞ。

 俺は頭の中で素早く算段をたてた。

 うん、彼女を手に入れてみるか。

 子供の体温は高い。胸の中ですやすやと寝ている体を抱きしめなおして、俺は昼寝を再開する。

 これから楽しくなりそうだ。

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