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やはり暴力はすべてを解決する

     ◇

 こうして一人ひとり着実に戦闘不能にしていき、半時もすれば二十人いた近衛兵は全員倒れていた。


 顎や急所を撃ち抜かれて昏倒した者はまだ幸運で、大半の者は関節技で骨を折られて苦痛の呻き声を上げながら床に転がっている。


 儂とて相手を無闇に痛めつけるのは本意ではないが、多数を相手の乱戦で手加減や容赦をできる余裕がなかったので勘弁して欲しい。


 さりとて、これで邪魔者は片付いた。


 残るは本命のアミークスただ一人。


 そのアミークスは、全幅の信頼を寄せていた近衛兵たちが全員倒されて、最初の余裕が嘘のように顔面蒼白になって床に尻餅をついている。この期に及んで歯向かう気配がないところを見ると、戦闘力が低い代わりに変化して内偵などに特化した魔物なのだろう。確かに頭が良くないと、宰相になって政治に関わったりできないしな。


「嘘だ……わたしの精鋭部隊がこんなにあっさり……」


 そんなにあっさりではないが、ここは余裕を見せておこう。


「この程度、いくら集めても無意味だぞ」


 じり、と一歩近づくと、アミークスは「ひぃっ!」と情けない声を上げて後退る。その姿が虫みたいで、何とも嗜虐心を煽る。


「さて、どうしてくれようか」


 指をボキボキ鳴らしながら、地面にへたり込んでいるアミークスを見下ろしていると、デカンナたちがこっちにやって来た。


「こいつが宰相に化けていたのか」


 デカンナが両手に持っていた巨大な盾を地面に下ろすと、その大きな音と衝撃で再びアミークスが怯える。


「殺しましょう。魔物はすぐにでも殺さないと。一匹見つけたら近くに三十匹はいると言われてるんですよ奴らは」


 ゴキブリか。聖職者とは思えぬ台詞を吐きながら、肉を前にした犬みたいに鼻息を荒くするアルチュ。今にもアミークスの首を締めに飛びかかりそうな彼女の首根っこを、デカンナが無言で掴んで制している。


「わ、わたしを殺すだと!? そんなことをしてみろ。アラドラコ様が黙っていないぞ!」


「ほう、アラドラコが。どうしてだ」


「わたしはこの王都イニティウムを陥落させる作戦の要なのだ。つまり、わたしに何かあったら即アラドラコ様のお耳に入るし、当然報復も行われる。今度こそ、お前らなどみなごろしだ」


 王都の陥落。魔族はそのためにアミークスを宰相として内部に潜り込ませたのか。


 しかしまあ、王都を落とすために大軍を進行するのではなく内側から時間をかけて攻める魔族もご苦労なことだが、内部に魔族が化けて入り込んでいたのを今日の今日までまったく見抜けなかった王城の連中は間抜けにもほどがある。


「どうだ。わかったら今すぐわたしを解放しろ。そうすれば、お前たちだけは助けてやっても良いぞ」


「言いたいことはそれだけか」


「……なに?」


「最期に言い残すことはそれだけかと訊いてるんだ」


 虚勢を張って勝ち誇っていたアミークスであったが、脅迫をまったく意に介さぬ儂の態度に焦りだした。


「待て! 貴様、人の話を聞いていなかったのか!? わたしを殺したら、アラドラコ様が黙っていないと言ったんだぞ!」


「ちゃんと聞いておったわい。だから、それがお前の最期に言い残すことかと訊いておるんだ」


「だから何でそうなる!? 貴様は馬鹿なのか!?」


「安心しろ。すぐにあの世でアラドラコと再会させてやる。ん? この世界にあの世ってあるのかのう? まあいいや、とにかく死ね」


「お、お助け……っ!」


 左手でアミークスの首を掴み、地面から持ち上げる。お互いに顔の高さが揃ったところで、トドメを刺すべく手刀を構えると、


「待ってください、ライゾウさん」


 またもやマリンに止められた。


「なんじゃい、またかいな……」


 まさかこいつまで殺すなとか言い出すんじゃなかろうな。


「殺すな、とは言いませんが、今はまだ待ってください」


「どういうことだ?」


「この魔物があのアラドラコと繋がっているのなら、まだ利用価値があります。少なくとも、試してみる価値はあるかと」


「ほう、詳しく聞こう」


 マリンが作戦を説明し始めると、アミークスの顔が恐怖で引きつっていく。魔物も青ざめる彼女の作戦は、実に儂好みであった。


「――というのはどうでしょう?」


「いいな。それでいこう」


 即決してちらりとアミークスを見ると、びくっと体を震わせる。後退って逃げようとするが、すでに壁際に追い詰められているのでどこにも逃げられない。


「厭だ! わたしは厭だ! そんなこと、できるわけがない!」


「できるできないじゃない。やるんだよ」


 儂はにやりと笑うと、またもや左手でアミークスの顔面を鷲掴みにする。今度は持ち上げはせず、ただ握力に物を言わせて奴の頭蓋骨を締め上げる。


「いだだだだだだだだだ……っ!」


「さあどうする? あんまり我慢しすぎると頭の骨が砕けるぞ」


 カボチャを握り潰す儂の握力に、アミークスの頭骨がみしみしと軋む。


 夕闇が迫る廃教会の中に、アミークスの長い悲鳴が響いた。


明日も投稿します。

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