二度目の目覚め
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二度目の目覚めが訪れた。
老眼の上に白内障気味だった目が、嘘のようにはっきりと物が見える。
だが明瞭な視界で見た景色は、意識が途絶える前のものとは明らかに違っていた。
病院のベッドの上から飽きるほど見た白い天井は、あちこち蜘蛛の巣が張る薄汚い木造の天井に。
儂の臨終を事務的な顔で待っていた医者はどこかに消え、看護師は何故か黒装束の外国人の少女になっていた。
舶来の少女は儂が目を開けたことに気がつくと、それまで沈痛だった表情をふと緩めて微笑んだ。
「良かった。戻ってきた」
「…………ん?」
戻ってきた? 冥土に旅立とうとしていたのが、現世に戻ってきたということか。
「大丈夫ですか? どこか具合の悪いところとかありませんか?」
少女に言われて自分の身体に意識を戻す。するとどうだろう。これまで寝たきりで、自分で寝返りもうてなかった身体が動くではないか。
「問題ない。……いや、問題がなさすぎると言った方がいいもしれんな」
「?」
ゆっくりと身体を起こし、自分の身体を見回しながら言うと、少女は言葉の意味を測りかねるといった顔をした。
「さっきまで寝たきりだった儂が、いきなり若返ったようだ。これではまるで十代の小僧ではないか」
すっかり張りを取り戻した上腕二頭筋を手の平でぴしゃりと叩きながら言うと、少女は冗談でも聞いたように吹き出した。
「寝たきりって、なにおかしなこと言ってるんですか。それに十代の小僧って、カイトさんは実際十八歳になったばかりじゃないですか」
「カイトって誰だ?」
「え?」
二人して顔を見合わす。
一分ほどお互いの顔を見つめ合っていただろうか。
ようやく何かが納得いったのか、少女がおずおずと尋ねてきた。
「……あの、カイトさん。わたしのこと、憶えてます?」
「知らん」
「マリンですよ! 魔王討伐の旅の同行者に選ばれた宮廷魔術師の! 昨日会ったばかりですけどちゃんと自己紹介したし、昨夜は親睦を深めるために一緒に食事をしたじゃないですかあ!」
「これっぽっちも知らん」
「え~……」
「それに儂はカイトとやらではない。儂の名は不破雷蔵だ」
「え~~~~~~~~~~~~~~~!」
明日も投稿します。