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越えろ昇級試験!

     ◇

「こちらです」


 ギルド職員に案内されたのは、木製の扉の前だった。


 見た目は何の変哲もない扉だが、その向こうに感じる気配に違和感を憶える。


 用心しながら扉を開けると、目に陽の光が飛び込んできた。


「これは、中庭か」


 片手を額に当て、庇のようにして目をかばう。


「はい。昇級試験はこちらで行います」


 目が光に慣れると、中庭の様子が見えてきた。


 広さは五メートル四方ぐらいで、広くもなく狭くもなくといったところか。扉の先にある壁に、男が一人立っているのが見える。


「あれが相手か」


「後の説明はギルマスから聞いてください。では、ご健闘をお祈りします」


 そう言うと職員はぺこりと頭を下げ、去っていった。


 後に残された儂は、職員の背中を見送ると鼻をフンと鳴らす。


「さて、行くか」


 扉をくぐり中庭に出る際、身体にぬるりとしたものが触れる感覚があった。だが特に害はないようなので気にせず進む。


 そのまま歩を進め、男の前に立つ。


「お前がライゾウか」


 年齢は五十を過ぎているだろうか。短く刈り込んだ髪と顎髭には、白いものが多く混じっている。儂よりも少し背が低いが、体重は重そうだった。だが決して肥満ではない。鍛えられた腕や足、首の太さが尋常ではない。年季の入った革鎧から伸びる手足には無数の刀傷があり、男が幾多の実戦を経てきたことを表している。


 こいつ、できる。


「そうだが、あんたがギルマスか」


「オーサだ」


「? ギルマスじゃなくてオーサ?」


「……ギルマスのオーサだ」


「……え? ギルマスが名字でオーサが名前?」


 儂は混乱する。ギルマスだったりオーサだったりややこしいのう。


「ギルマスとはギルドマスターの略で、ギルドの責任者という意味だ。そして俺の名前がオーサだ」


「ああ、そういうことか。理解した」


「それは良かった。では早速試験を始めよう。準備はいいか」


「いつでもいいぞ」


 そう言って構えると、オーサも剣を抜き構えた。


 彼の戦闘スタイルは弓手に小型の盾、馬手に剣という手堅いものだ。


「聞いたところによると、格闘術だけでなく魔法も使えるそうだな。この中庭には防御結界がいくつも張られていて、多少無茶しても建物には何の影響もない。だから遠慮はいらんぞ」


 結界。扉をくぐる時に感じた違和感はこれか。陰陽師でよく耳にした言葉だが、異世界にも同じようなものがあるとは意外だった。


 じりじりと間合いを詰めるオーサが、にやりと笑いながら言う。どうやらこちらの手の内はあらかた知られているようだ。だったら遠慮する必要はない。


「では挨拶代わりにこいつはどうだ」


 地面に気を込めたこぶしを叩きつけ『土蜘蛛』を放つ。


 放たれた気は地中を進み、オーサの眼前で土の槍となって飛び出した。


「これが噂の土の槍か。だが甘い!」


 オーサは慌てることなく直撃を盾で逸らし、残った土の槍は剣を振るって粉々に砕いた。


「やるな」


 距離を取られると厄介だと悟ったのか、オーサが一気に間合いを詰めてくる。あっという間に肉薄され、土の槍が撃てなくなった。


 接近すると同時に、オーサの剣が襲い掛かってきた。


「どうしたどうした! 避けているだけじゃ勝てないぞ!」


 間断なく打ち込まれる剣を、紙一重でかわし続ける。


 オーサの剣筋は鋭く速く、このままでは避けきれなくなるのは明白だった。


 やはり出し惜しみして勝てる相手ではないか。そう判断し、一気に勝負に出る。


 向こうもこちらの意図に気づいたのか、それまで小さく速く突いてきた突きを止め、この一撃で勝負を決めるかのように大きく振りかぶってきた。


「ここだ!」


 この時を待っていた。


 渾身の気合を込め、オーサへとこぶしを打ち込む。


「遅いわ!」


 儂の突きに合わせ、オーサが剣で斬りかかる。


 二人同時の攻撃は、僅かにオーサの方が早かった。


「もらった!」


 オーサの剣が儂を袈裟斬りにする。


 だが――


「なにぃッ!?」


 切り裂いたはずの儂の身体が、霧のように消えた。


「かかったな」


 霧散した儂の残像の向こうから、本物の儂が現れる。


「!?」


 オーサが斬ったと思ったのは、儂が飛ばした気配。実在すると感じるほど濃厚な気配を飛ばしフェイントとし、オーサの攻撃を誘ったのだ。


 しかしこれには弱点がある。


 何しろ飛ばすのはただの気配。


 気配を読み取れない素人にはまったく通じない。


 だが逆に、目に頼らず相手の気配を読んで戦う、ある程度以上の実力を持った者なら面白いように引っかかる。


 オーサは、強いが故に儂の策にはまったのだ。


「しまった――」


 この一撃で決めようと、渾身の力を込めた剣筋は止めようと思っても止まらない。


 大きく空振りし、隙だらけのオーサの胸に右のこぶしがめり込む。


「ぐはっ……」


 衝撃が背中へと抜ける、会心の一撃だった。


 オーサの身体が吹っ飛び、壁にぶち当たる。


 壁からずり落ちたオーサの顔面にこぶしを打ち込むが、寸前で止めた。


「どうする。まだやるのか」


 目の前にこぶしを突きつけられたオーサは、悔しそうに天を仰いで言った。


「強い! 負けだ!」


 その言葉を聞くと、儂は握っていたこぶしをオーサの顔の前で開く。


「フン……」


 目の前に差し出された手を見て、オーサは小さく鼻から息を吐く。それから一度全身から力を抜くと、音を立てて儂の手を取った。


「合格だ」


 こうして儂は中級冒険者に昇級した。


明日も投稿します。

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