楽しいゴブリン退治
◇
冒険者ギルドを出て数時間後。儂らは王都から少し離れた山の中にいた。
目的はゴブリン退治。
ことの発端は今朝、王都へと向かっていた荷馬車が何者かに襲われているのが発見された。
安全な街道を通っていたため油断したのだろう。護衛はおらず、乗っていた商人たちは全員殺されていた。荷は全て持ち去られていたので盗賊や野盗の仕業かと思われたが、現場に残された遺留品や足跡などから犯人はゴブリンだと判明。冒険者ギルドの調査員が足跡を追跡したところ、山の中にゴブリンの巣を発見した。そこで調査員はこれ以上の追跡は危険だと判断し、その情報をギルドに持ち帰り討伐依頼にした。それをドグマが受けた、というわけだ。
そして今、儂らはゴブリンの巣だと思しき洞窟の前に立っていた。
「さあ着いたぞ。お前たち、覚悟はいいか?」
楽しそうな顔と声で、ドグマがこちらを振り返る。何がそんなに楽しいのか、と問うなかれ。洞窟探検というのは、男にとってテンションが上がるものなのだ。現に儂も年甲斐もなく気分が高揚しているのを感じる。そうでないのは、山の中をここまで歩いてきたせいで疲れて死にそうな顔をしているマリンぐらいだ。
「今ぐらいならゴブリンどももいい感じに寝ているだろう。その隙に中に潜入し、一気に奇襲をかけるぞ」
「え~、一休みしないんですか……」
「安心しろ。俺が先に入ってゴブリンどもを蹴散らしてやるから、お前たちは少し離れてのんびり着いて来ればいい」
「それって、儂らが洞窟に入る意味があるのか?」
「初心者は何でも経験になる。これも経験だと思って安心して俺に着いて来い」
「いいじゃないですかライゾウさん。ゴブリンをやっつけてくれるのに、報酬はほとんどわたしたちにくれるって言うんですから、今回はドグマさんにお任せしましょうよ」
まあ、冒険ならこれから先いくらでもできるか。
「では今回はお前さんの世話になろうかのう」
「任せろ。では出発する」
そう言うとドグマは意気揚々と洞窟の中に入っていった。
洞窟は外からは想像できないほど道が広く、天井は儂やドグマが普通に歩けるほど高い。幅は楽に二人並べるほど広かった。自然の洞窟にしては壁面や天井が整っているから、誰かが手を入れたのだろう。ゴブリンにそんな知能はなさそうだから、きっと人間によるものだろう。
「正解です。この辺りはかつて鉱山だったのですが、今は鉱物を取り尽くしたために閉鎖されています。ここはその中にゴブリンたちが住み着いたもののようですね」
閉鎖されて久しい鉱山なので、備え付けられた松明は当然のことながら使い物にならない。では明かりはどうするのかと思ったが、ドグマの戦斧が照明のように光って周囲をぼんやりと照らしている。便利だが原理がどうなっているのかわからないのでマリンに質問しようと思ったら、彼女の持つ大仰な杖も同じように光っていた。
「あれは光の魔法がかかった斧ですね。さすがベテランを自称するだけのことはあります。。魔法の武器なんて、そうそう手に入るものじゃありませんよ」
「お前さんの杖は違うのか」
「これはわたしが魔法を使って杖を光らせているだけで、ただの木の杖です」
「魔法か。本来光らない物を光らせるという点では科学とそう変わらんのう」
「?」
「何でもない。そら、ぼやぼやしとるとドグマがどんどん先に行ってしまうぞ」
「あわわ……。はぐれないように急ぎましょう」
ドグマの言った通りまだゴブリンどもは寝ているのか、結構奥に進んだのにまだ一匹も出くわさない。
「できればこのまま出会わずに済みたいんですが」
「それではここまで来た意味がなかろう。首の一つでも持って帰らんと、報酬がもらえんぞ」
「うう、やだなあ……」
マリンの情けない声が洞窟内に響く。
するとそれが呼び水になったかのように、光の届かない闇の向こうから耳障りな声のようなものがこちらに向かって来るのが耳に届いた。
「む、あれはゴブリンの鳴き声。ようやく起きたか。待ちくたびれたぞ!」
どうやら敵がこちらに向かって来るようだ。ドグマは戦意を剥き出しにし、両手で戦斧を構える。
闇の中から現れたのは、肌が緑色の子供が三人。いや、違う。背丈が子供ほどしかないヒトに似た何かだ。マリンが「小鬼」と称したのがしっくり来るそいつらは、粗末な防具と汚物にまみれた武器を手に走ってやって来る。
「あれがゴブリンか」
「そうです。気をつけてください。体が小さくてすばしっこいですよ」
ゴブリンたちはこちらにまったく怯むことなく、先頭にいるドグマに一斉に襲い掛かった。
「ガハハ。元気があってよろしい!」
さすが落ち着いたもので、ドグマは戦斧を一閃しただけで三匹を同時に斬り殺した。
薄ぼんやりとした明かりの中、二等分されたゴブリンたちの死体が地面に転がる。
「ひぃッ……!」
初めて死体を見たのか、マリンが足元に転がってきたゴブリンの死体に悲鳴を上げる。儂の所にも一匹上半身が転がってきたので、必要ないとは思うが頭を踏み潰して止めをさしておいた。
「これで終わりか? 手応えがなさすぎるのう」
「いや、こいつらは恐らく見張りだろう。群れの本体はもっと奥で固まって寝ているに違いない」
「ならば奥まで攻め込んで、きっちり鏖にせんとな」
暴れ足りない儂がさっさと歩を進めると、背後からドグマが制止をかける。
「待て、勝手に先に行くな。丸腰のお前がゴブリンを嘗めるとあっさり死ぬぞ」
「さっきみたいな奴らなら、何匹かかって来ようが問題ないがのう」
「初心者はこれだから……。自分の実力を過大評価しすぎると早死するぞ」
顔に似合わず慎重な奴だ。まあ本気でこちらを心配しているのが伝わるから、ここは相手を立てておくか。
「わかったわかった。今回はお前さんに全部任せるわい」
「わかれば良い。お前たちにはかすり傷一つつけさせんから、安心してついて来い」
頼もしい言葉を吐くと、ドグマは再び先頭に立って歩き出した。
明日も投稿します。




