2
その後。
わたしは彼と別れを決意した。
彼は魅力的な人間だったが、それはわたしにとって、ではなかった。
みんなから好かれている男が、わたしのことを好きだといった。わたしを求めた。
告白を受け入れた理由は、ただ、その事実を噛み締めたかっただけだ。優越感に浸りたかっただけだ。
好きだったのかと聞かれれば、わからない。
わたしには恋という目に見えない不確かな存在自体、よくわからなかった。
ただ、笑った顔は綺麗だと思った。
告白されたときは、頬が赤く染まり、心臓の鼓動が早まった。
毎日、お昼休みにいっしょにごはんを食べるためにわたしの教室に迎えにきてくれるのが嬉しかった。
中身のない、誰にでも起こりうるようなありふれた話だろうと、男がたのしそうに話をしていれば、どんな話も面白かった。
隣に座っているとき、居心地の良さを感じていた。
そしていつの間にか、このまま、この時間が止まってしまえばいいのに、と考えるようになっていた。
教室に戻れば、彼が見えなくなったことを確認してから足を踏まれ、言葉の毒針をさしてくるクラスメイトがいるのだから。
わたしに嫌がらせをしてくる女の子はその子だけではない。学年問わず、彼は人気があった。あの子一人に釘をさしたところで状況は変わらない。
彼は部活をしているし、クラスもちがうし、いっしょにいられる時間は少なかった。
それにお互い寮生のため、2人きりになれる場所も限られた。(学生寮は異性の入室を固く禁じられている)
そして先程の発言である。
わたしが彼との別れを決意をするのは当然だろう。
「別れましょう」
彼は納得のいかない顔をした。
どうして、と何度もくだらない質問をしてきた。
「わたし、あなたのこと好きじゃなかったみたい」
数々の嫌がらせを我慢してまで、あなたといっしょにいたいと思わないんだもの。とは口には出さなかった。
それは彼は知らなくていいことだ。これからわたしと男を結ぶ関係はなくなるのだから。
その言葉を最後に、橋本愛と鈴木光は恋人ではなくなった。