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デジャヴという言葉をご存知だろうか。
過去に経験・体験したことのない初めて体験する事柄であるにも関わらず、かつて同じような体験をしたことがあるかのような感覚に包まれることである。
最初はコレが何か理解できなかった。
けれど。私立桜学園に入学した日。私は感じた。
見覚えのある景色。見覚えのある顔。聞き覚えのある台詞。すべてに既視感があった。
「今日から君たちの担任になる米田だ。ヨネダではなく、コメタと読む。読み間違えは88回までしか許さないからなーちゃんと覚えろよー」
担任のつまらないボケも
「あはは、クラスメイトなんだから堅苦しく敬語なんて使わなくっていいよー」
クラスメイトとのたわいのないやりとりも、すべて、だ。
だからわたしは彼の告白を断った。
それが、だれもが羨むシチュエーションだとしても。
一番最初。
あれがわたしの一番最初の人生かどうかわからないが、デジャヴを感じなかった人生が存在した。
後先考えず彼の告白を受け入れたわたしにまっていた人生は非常に面倒なものだった。
あまり話したことのない複数の人間に呼び出され、「鈴木光と別れろ」と命令され、断れば暴言と陰湿な嫌がらせの毎日だった。
「ごめん、忘れ物したみたい。先に帰っててくれる?」
上履きを隠されたときは適当な言い訳をして。
トイレで上から水をかけられてやむなく体操服で帰宅したときは「ジュースこぼしちゃって…」と嘘を吐いて。
毎日適当な嘘で誤魔化した。
ここで彼に正直に真実を話すという選択肢はわたしにはなかった。
これはわたしと彼女たちの問題であり、男にすがりつくのはわたしの負けを意味すると思ったから。
けれど。
「君がそんなに抜けている子だと思わなかったな。あ、ちがうんだ。君の彼氏になって、君と距離が近くなって…君のかわいらしい面を知れてよかったなっておもって」
わたしの嘘を見抜けなかった男からその言葉が出たとき。
「そういうところも好きだよ」
プツン、となにかが切れる音がした。