約束してくれる?
「異世界」ではないかもしれないけれど、現実世界ではないかなと思ったので、異世界にしちゃいました。
短いし、軽くヤンデレ入っています。ありきたりなお話です。
でもはるきは久しぶりに小説が書けて楽しかったです。
空を見上げれば、青く澄んでいて、髪を撫でる風は心地よい。それなのに、エナは無意識にため息をついた。
「エナ、どうかした?」
エナの隣にいたカイが端正な顔に心配の表情を浮かべ尋ねる。そんなカイにエナは小さく首を横に振った。
「なんでもないよ」
「…嘘」
カイはエナの顔をのぞき込むように見つめながらそう言った。
「え?」
「その顔は、何か悩んでる顔だよ」
「…」
「何年一緒にいると思ってるの?僕がわからない訳ないだろう?」
あまりに自然に言われたその言葉に、エナの胸は一つ音を立てた。
「言いたくないなら無理に言わなくてもいいけど…僕ってそんなに頼りない?」
カイの言葉にエナは少しだけ目を丸くし、ゆっくり首を横に振った。
「……そんなこと思ってないよ。ただ…いいのかなって」
「…」
「ねぇ、本当に、カイはいいの?」
「エナが悩んでいるのは、僕との結婚のこと?」
カイの言葉に、エナは小さく頷いた。
エナとカイは親同士が決めた婚約者だ。3年前の14歳の誕生日に、エナは突然、父に呼び出され、カイの婚約者になったことを告げられた。家が隣同士、父親、母親それぞれの仲が良く、エナとカイの仲も良かった。「親戚になれたらいいね」そんなおままごとのような感覚で決められた婚約。
婚約の話を始めて聞かされたとき、エナは喜んだ。カイのことがずっと好きだったから。格好良くて、スタイルが良くて、優しいカイは、エナの一番仲のいい男の子だった。家が隣同士で、いつも一緒に遊んでいた。少し意地悪なところもあるけれど、結局カイはいつもエナに甘い。そんな魅力的な男の子がすぐ傍にいるのだ。気づけば好きになっていたのは当たり前なのかもしれない。
本当に小さい頃からエナとカイは一緒にいた。だからこそ、エナは知っている。カイが両親を大切に思っていることを。そして、2人の願いを反故にするはずないことを。
「…だって、結婚って、好きな人同士がするものでしょう?」
「…」
両親想いのカイが望みを断ることはしない。長年の付き合いからそれがわかるから、エナは俯いた。
エナはカイが好きだった。ずっと前から。けれど、カイの気持ちはわからない。エナの容姿は平凡であり、学力も平凡であった。ただ歩いているだけで女性の視線を集めるカイとは大違いである。それにカイは見た目の良さだけではなく、博識であり、17歳という若さで家の仕事の手伝いをしている。中身の良さも知っているからなおさらだ。「釣り合わない」それはよく耳にする言葉で、エナ自身も否定できない事実であった。
「でも、もう決まったことだから」
その声色はどこか不機嫌だった。確かに決まったことだ。エナもカイも了承し、お互いの両親も喜んでいる。
エナはそっとカイの顔を見上げた。どこか怒っているように見えて、切なくなる。
「…ごめんね」
「エナ、なんて言ったの?」
消え入るような声はカイの耳には届かない。両親想いのカイは断れないのだから、自分が断るべきだった。そう思いながらもエナはこの3年間を過ごしてきた。
「ごめんねって言ったの。今更こんなこと言って、…ごめんね」
3年前に婚約したエナとカイの結婚式は、もうあと1月後に迫っている。周りに結婚の事実を周知してしまっており、今更「やっぱり結婚しない」とは言えない状況であった。それでも、不安になるのだから仕方がない。
「…」
友達関係の時から、婚約者になってからも、2人でいろんなところに行った。それでもキスはもちろんのこと、手を繋いだことすらない。それでもあと1月もすれば結婚し、夫婦になる。
「もしかして、誰か好きな人がいるの?」
「…?」
思いがけない言葉に一瞬反応が遅れた。カイの歩む足が止まる。同じようにエナも足を止めた。振り返ったカイの顔は真剣で、どこか怖さを感じる。
「カイ…?」
「誰?」
「え?」
伸ばされた手がエナの肩に置かれる。掴む力が強くて、エナは表情をゆがめた。
「い、痛いよ、カイ…」
「誰なの?エナが好きな人」
「カイ…?それより、手、離して…」
「僕より好きなの?その人と結婚したい?」
声がいつもより1トーン低い。こんなカイは見たことがなかった。エナはいつも笑っているカイしか知らない。
「どうしたの、カイ。変だよ?」
「そりゃそうだよ。エナが余計なこと言うから」
「…」
「結婚まであと1月なんだよ?…なんで今更そんなこと言うの?」
カイの言葉に、確かにそうだなと思う。結婚を止めようとすればいくらでも止められた。どうしてもう止められない今になってそんな風に言うのか。そう責められても仕方がない。
「ごめん、カイ。…もっと早く言うべきだった。本当にごめんね」
エナはゆっくり頭を下げた。そんなエナにカイは両手を離した。痛みがゆっくり消えていく。
「なんで、今更…」
眉間に手を当てて、呟くようにそう言った。エナは泣きそうになりながら泣きたいのは自分ではないと懸命に堪える。
「…私は、結婚したかったから」
「……え?」
「だから、言えなかった」
「どう…いうこと?」
表情でわからないと伝えてくるカイをエナはまっすぐ見つめる。自分の本当の気持ちを伝えるのは初めてだった。自分の気持ちを伝えてしまえば優しいカイが余計に断れなくなると思ったから。けれど、黙っているのは限界だった。
「私ね、カイが好きなの。だから、婚約者になれて嬉しかったんだ。でも、…きちんと言うべきだったね。好きな人と結婚するべきだって。…私ばかり好きな人と結婚して、…そんなの不公平だよね」
「…」
「ごめんね、今からでも…言ってみるよ。もう…どうにもならないかもしれないけど…」
「……もう、無理だよ。招待状も配り終わってる」
「そう、だよね」
俯いたエナをのぞき込むようにカイは見つめた。
「エナは何してくれる?」
「え?」
「不公平っていうなら、何かしてくれてもいいんじゃない?」
カイは口角を持ち上げながらそう尋ねる。それは子どもの頃、エナにいたずらを仕掛けた時の顔。けれど、その表情にエナは気づかない。
「えっと…それは…」
「じゃあ、僕が決めてもいい?」
「う、うん。私にできることなら、何でもするよ!」
前のめりになりながらそう言ったエナに、カイは少しだけ顔を逸らした。
「カイ…?」
「いや、…何でもって言われると、別のことお願いしたくなるね」
「…?今、なんて言ったの?」
「いや、こっちの話だから気にしないで」
「そう?」
「それよりお願いだけど…一つ約束してほしいんだ」
「約束?」
「そう」
「どんな約束なの?」
「僕のこと、ずっと好きでいて」
「え?」
「これから先、エナが誰と出会っても、それがどんなに素敵な人でも、エナが好きなのは僕であってほしい」
「…それでいいの?そんなの簡単だよ」
結婚をするのだ。それは、これから先もずっと好きでいると神に誓うこと。それに、17年間生きてきて、エナはカイ以外を好きになったことはない。格好良くて優しくて、エナに優しいカイ以外を好きになることが想像つかなかった。
断言するエナを見て、カイは少しだけ笑みを深めて見つめる。そしてゆっくり首を横に振った。
「簡単じゃないよ、エナ。僕より素敵な人なんてこの世に何人もいる。それに、歳をとればしわが深くなって、髪も白くなる。もしかしたら禿げているかもしれないよ。格好いいなんて言ってもらえなくなるかもしれない。それに、頑固じじいになってるかも。…でも、それでも、僕を一番好きでいてほしい」
「…」
「ねぇ、エナ。たぶんそれは、エナが考えているよりずっと大変なことだと思うんだ。でも、それでも、…僕はエナに好きでいてほしい。これから先も、ずっと。…できる?」
エナは年老いたカイを想像した。頭が禿げて、顔はシミとしわだらけで、用意した食事にケチを付ける頑固なカイ。面倒くさいなと思う。でも、思い浮かべたおばあさんになった自分はそれでも笑っていた。だからやっぱり、カイを好きではない自分は想像できない。だからエナは力強く頷いてみせる。
「うん、できるよ。だって、私、カイが一番好きだから。たぶん、これからもずっと」
カイはそっとエナに手を伸ばした。少しだけ赤く染まった頬に触れる。エナの肩が一瞬持ち上がった。そんな反応がかわいくてカイの頬が小さく緩む。
「不公平」というのならそれは自分の方だな、とカイは思う。この結婚だって、自分の両親とエナの両親を説き伏せて、実現したものなのだから。だから、こんな風にエナから愛の告白が聞けるなんて思わなかった。嬉しすぎて、もっと愛を感じたくて、少し意地悪をした。
エナはいつ気づくのだろう。カイがただ優しいだけではないことを。エナを手に入れるためなら卑怯なことをする人間だということを。
そんな黒い部分を知っても、エナは自分の傍にいてくれるだろうか。そう考えながら、カイは、今度はエナの背中に手を回す。
「カイ?」
「ん?」
そっとエナを抱きしめた。香水を付けているわけでもないのに、いい匂いが鼻孔をくすぐる。エナもゆっくりカイの背中に腕を回した。華奢な腕のぬくもりを感じ、カイはさらに力を込める。
この結婚の真相も、自分の気持ちも、いつエナに打ち明けようか。カイは考えながら口角を持ち上げる。
エナがずっと、自分の方が相手を好きだと、勘違いしていればいいのにとカイは思う。気持ちを秤にかけられるのなら、確実に自分の方が深く沈むはずだ。それでも、神の前で誓うより先に、約束を取り付けられたからそれでよしとしよう。
「エナ、ずっと幸せでいようね」
「うん!」
力強く頷くエナの唇に自分のそれを重ねた。少しだけ驚いて、けれど嬉しそうに笑うエナが見られたから、自分は世界で一番幸せだなとカイは思った。
今、承認欲求の塊みたいなので、どうしても小説UPしたくて、短いお話を書きました。
クオリティ低いな、と感じたらすみません。力不足です。
それでもここまで読んでいただき、ありがとうございました!
それにしても、どうして軽いヤンデレになってしまうのだろうか(笑)