プロローグ 魔術師のいる風景
超人奇人変人、常識ハズレのカレシ、如月吹雪を恋人にして幸せいっぱいの美久。
今度は自分の夢に向かって受験を頑張らなきゃいけない時期なんですが、なかなか集中できない事件が起こりました。
涙が出るほど、大好きな音色がそこにある。
重く分厚い木製のドアを押し開けると、その音は響いて来る。
がころぽん、ころぽん、と何故か平仮名で聞こえる。
安っぽくはないがちょっと間の抜けた、片言の外国語のような響き。
喫茶「ウィザード」のドアベルの金属音だ。
そうして開いたドアの向こうに、あたしの夢が広がっている。
人生を賭けてもいいほど、大事な風景がそこにある。
たった4つのテーブル席と、小ぶりのカウンター。
イギリス風の狭い木枠の窓から差し込む、夕日の影の頼りなさ。
日暮れと同時にテーブルごとに火を入れる、黒縁つきの隠者のランタン。
店の奥の黒い扉が、音もなく開く時。
その中から出てくる人を、あたしはいつも待ちわびていた。
命を捧げてもいいほど、愛しい人がそこにいる。
完璧なカーブを描く頬の輪郭を、飽かずながめた。
物言いたげな肩の曲線、人を拒む背中の寂しさを、息を詰めて見つめた。
あたしの魔術師。
あたしの救世主。
あたしの、最終にして最愛の恋人。
彼があたしの名前を呼ぶ時、これで世界が終ってもいいと思う。
唇から喜びがあふれ出し、あたしは笑う。
例えそれまで絶望に震え、涙の海に溺れていたとしても。
あたしを呼ぶ彼の声は、全ての不幸を瞬殺する。
あたし篠山 美久の恋人は、俗世に迷い込んだ魔法使いなのだから。
さあ、お話をはじめましょう。
詳しい設定については、「魔術師のプレミア」をご覧下さいませ。