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月下に示すは汝の意志なり  作者: セントホワイト
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第8話

第8話


「あ、あの! ありがとうございますっ!」

「本当に、ありがとう」


ペコペコと頭を下げる店員の少女と店主の男が何度も頭を下げてくる。

店の前にはサラが手足を凍らせて身動きできないようにした盗賊団がズラリと並び、見張りとしてフェリーナとラグナが立っている。


「礼を言われてもな。逆恨みはよくある話だ」

「それでもお礼を言わせてください。魔導士様がいなければ私の娘は今頃……」

「俺は……いや、何もしてねぇ。戦ったのはアイツらだ。礼はあっちにしてくれ」

「いやいや、御謙遜を!」


先程から同じようなことを繰り返す店主たちに嫌気が差し始めたころ、ようやくサラが村長と自警団を連れて戻ってくる。


「お待たせしました、ゼロ様」

「サラ。後は頼ん――「少々お待ち下され」――ああ?」

「この度は村の者を助けて頂いたこと、誠に感謝しております」


深々と頭を下げる村長と、続くように自警団たちが頭を下げていく。

嫌な予感が頭の隅に通りすぎていったのを感じる。


「実は実力ある魔導士様に折り入って頼みたいことが」

「断る」

「ゼロ様。お話だけでも」

「嫌だ。俺らはただの旅行者だろうが。なんでそんな面倒事に首を突っ込まなきゃならないんだ? 村の問題は村の連中が何とかすりゃあいいだろ?」

「確かに、魔導士様の言う通りだ。だけど俺らにはどうしようも出来ないんだ」


自警団の一人が言うには、あの盗賊団はただの末端で、本体はこの近くにある森の中を根城とし、ここは縄張りのひとつなのだという。


「森の周辺にある村々は奴らの縄張りなんだ。俺たちも何とか防衛するくらいは出来てたが、酷い場所は若い女たちは連れてかれ、男たちは皆殺しにされたとも聞く」

「なら防衛じゃなくて村々で団結して討伐すりゃあいいだろ?」

「それが出来ないんだっ! 滅んだ村は……【魔法】によって滅ぼされたんだ!」

「魔法、だと?」

「そうです! 奴らがなぜあのような不吉な髪色をさせているか分かりますか? 奴らの頭目は魔法使いだからです!」


口を開く度に顔色が悪くなっていき、ここに居る村人たちは誰も否定しない。

そして不吉な髪色呼ばわりされた盗賊団は押し殺した笑い方から全員の大合唱へと変わる。


「その通り! 俺たちの大頭目は魔法使いだ! 俺たちが戻って来なけりゃ村ごと滅ぼすだろうよ!」

「……って言ってるが、本当か?」

「あぁ……俺は滅んだ村から逃げてきたもんだ。奴らのせいで知り合いはみんな……」


悔しさと怒りが合わさったような、そんな顔をする男は憎しみがこもった目で笑う盗賊たちを見る。


「本当なら今すぐアイツらを殺してやりたい。でもそうすれば奴らは報復するため必ずこの村を滅ぼしに来る」

「だから殺さないって?」


ああ、と頷く男を村人は申し訳なさそうに見ている。

だが、あまりにも考えが甘いと言わざるを得ない。

こういう奴らを無事に返してやったとしても、十中八九報復に来るのは明らかだ。

生かすも殺すも同じ結果しかないとは思わないのか。

それとも、この村には何か秘密があるのだろうか?


「村長。ちょっと聞きたいことがある」

「えぇえぇ。魔導士様のためならなんでもお答えします」


腰の曲がった村長は手を揉み、好々爺然とした笑みを浮かべつつ質問を待っている。

こちらの気分を害さないため、という建前があるのだろうが、本音はおだてて頼みを聞いて貰おうとしているのだろう。

だがそれでは面白くないので、少しばかり相手の機嫌を損ねてみよう。


「この村、昔なにかあっただろ?」


言葉はない。

だが、ここに居る村人の全員の表情が消えた。

それは共通する何かがあったと白状しているようなものだ。

全員の顔を一瞥し、鼻で笑って【お願い】とやらを受けることを了承した。


「いいぜ。受けてやる」

「……本当ですか?」

「ああ。ちょいと私用もあるからな。サラは一緒に来るんだろう?」

「お供します」

「おい! そっちの二人はどうする!?」


見張りをしていたラグナたちに問いかけると、見張りを村人が代わってこちらに歩み寄る。


「詳しい事情は分からなかったが……困っている者は見過ごせない」

「僕らも行く。当然だろう?」


つい先程までの無表情さと比べるまでもなく、村人たちの表情は明るくなり、おお、という声まで漏れ出ている。


「当然、か」


詳しい事情は解らなくても、他者を助けるのは当たり前。

それがどれほど本人と村人たちとの思考の乖離を生んでいるかは理解していないのだろう。

体良く使われるなんて、思いもしないのだろうか。


「まぁいいか。それじゃあ村長、あの連中は任せる。俺らはあんたらの頼みを聞いてやる」

「あ、ありがとうござ―――「ただし」―――はい?」

「無償というワケにはいかない」

「は、はい! もちろん我々にお渡し出来るものがあれば何なりと」

「そうか。じゃあ報酬は【災害】を貰っていく」

「っ!? 貴方は、どこまで」

「勘だよ。ただの勘」


村長の横を通り過ぎ、全員の視線を感じながら凍らされて身動きできない盗賊団の前へと立つ。


「道案内役を買って出る奴はいるか? 生かしてやる」






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