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月下に示すは汝の意志なり  作者: セントホワイト
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第4話


第4話


「それで? 聖術ってなんだ?」


魔獣たちの死体から必要な部分だけを取り出し、あとは土に埋めてラグナ達から話を訊く。

助けたことを前面に押し出し、恩着せがましくすることで、情報を聞き出すことにした。

底が見えている以上、たとえ相手が実力を隠していたとしても関係ない。

調べられる切っ掛けがあれば、この二人と別れた後でも情報収集は可能だろう。

ラグナとフェリーナは互いに目を合わせたあと、フェリーナが頷き、話すことを決めたらしい。


「……聖術とは、貴方が先程使ったような不可思議な現象をおこす術のことだ。ただの地表を隆起させたり、何もないのに唐突に敵を燃やしたり」


そう言いながらフェリーナは片手を広げ、その中に小さな白い光を生み出す。


「私は才がなく、こんなものしか出来ない。だが才ある者ならば貴方のようなことを成す者もいる。知らないか?」


訝し気な視線でフード越しでさえ感じるが、今は手のひらに浮かぶ白い光をじっくりと視る。

フェリーナは俺のことを【聖術師】とやらと呼び、実際に聖術によって生み出した現象を見せてきた。

しかしこれは実際に見ると、自分の使ったモノと今見せられているモノがハッキリと違うものだと解る。

フェリーナの手首を掴んで動かせないようにしてから、あらゆる角度から視て、それでも断言できる。

この現象。いや、この力の法則が全く違うものによって出来上がっているということを。


「……聖術、か」


フェリーナは自分で才能がないと言ったが、恐らくラグナもまた同程度の認識なのだろう。

明らかに違うモノを見て、結果が同じだから同じモノなのだろうとはあまりにも短絡的で素人の考えだ。

しかし、そんな素人でも扱えるような代物が聖術なのだともいえる。


「これが聖術ですか。どうやら精霊術(せいれいじゅつ)に近しいようですね。真似て作られているのか、はたまた応用されているのか」

「その通りだが……そうか。貴女は精霊か?」

「はい。氷を司っています」


フードを外してその素顔を露わにすれば、そこにあったのは並みの者とは一線を画す美貌。

自然によって生み出された景色に感嘆の吐息をもらすような、そんな美しさを前にしてラグナは言うまでもなく同性であるフェリーナも言葉がない。

初めて見る者にとっては無表情とはいえ氷の生きる彫刻というべきサラの顔に見惚れることもよくあることだ。


「それより、この聖術とゼロ様が使われた魔術とは全くの別物ですね」

「おい、サラ」

「良いではないですか。広く知られる情報と全く知らなかった情報。取引としては最良かと」


テキトーにお茶を濁して別れるつもりだったが、サラの発言によって今度はこちらが話す番になってしまう。

もちろん話を無理やり切り上げてしまうことは出来るだろうが、その場合ほかに面白そうな情報があった時は、その情報を逃すということになる。

何よりここで別れたとして、ラグナたちが魔術というモノを知るのは早いだろう。

魔獣について、いや、魔石などについて知る機会は生活するうえで極々当たり前の知識なのだから。


「はぁ。まぁいい。面白いモノも見させてもらったしな。説明と忠告くらいはしてやるか」


フェリーナの手を離し、杖に置いたランタンを引っかけて歩き出す。


「道すがら話そう。暇つぶしに丁度いい」




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

【フェリーナ】


暗い道を目の前で歩く男のランタンが照らしている。

この男は信用ならない。

無力なフリをしながら様子見をし、こちらの手の内を見極めようとしていた。

あきらかに、ただの旅人ではない。

何より、未だにフードを外す気は無いらしく顔を一度も見ていないことも信用できない要素だろう。


「結論から言うと、魔術と聖術ってのは全くの別物だ。結果は同じだとしてもな」

「それって、どういうこと?」

「解りやすく言うならば火を自分でおこすこと。火を誰かにつけてもらうこと。これは結果的に火がつくことは同じでも明らかに過程が違う」


目の前の男は後ろは振り返らずに淡々と説明する。

魔術とは体内の血液から作られる【魔力】と呼ばれるモノを使って特定の現象をおこす。

これは成長していくことで、体の大きさなどによって魔術を行使できる時間や威力が変化し、個人の負担が大きく、威力などは個人によって変わる。

それに対し、聖術とは体外の自然から得られる【何か】を利用して特定の現象をおこす。

必要なモノは周囲の状況によって変わる。

例えば海上で水の聖術は使えたとしても、土が無い海上で土の聖術は使えない。

これは水から得られる【何か】を利用することはできても、土から得られる【何か】が無いからだ。


「もし聖術で石礫が空中に出来たとしても、それは周囲の石や岩などの材料がない限り出来ない。ここは精霊術にも似ている部分だ」

「精霊術というのは確か、契約した精霊が力を貸してくれるっていうものか?」

「そうだ。しかしそれは契約者と精霊の二役がいた場合の話だ。なら精霊自身は? 彼らも自分の力を単体で行使できないかと言われると、それは無い」


男の隣を歩く女性、サラさんを見る。

一瞬の隙を見せず、男の言葉に逆らうことなどない侍従は、自らの口で自身のことを氷の精霊と言っていた。

彼女の攻撃によってラグナ様の命は救われたことを思い出せば男の言っていることを否定できない。


「精霊術について詳しくはサラに訊け。ただ今回言いたいことは、精霊自身が力を使う時は魔力のように自分の内にある力を使うってことだ」

「何となく、わかったような?」

「……ラグナ様。重要なことは最初に彼が言っていたように過程が問題です」

「どういうこと?」

「フェリーナは解ってるようだな。ラグナにも解りやすく纏めると、大多数が同規模の火を使える聖術に対して、少数しか魔術は使えないし規模は個人で変わるってことだ。周囲の状況次第ってところに目をつぶれば汎用性の高さはある」


ふむふむ、と頷くラグナ様を見ながら考える。

聖術と魔術の違いは分かったが、しかし我々にとって重要なことは違いについての話ではない。

そもそもとして、魔術や魔力という言葉自体が初耳なことだろう。

そしてそれは、恐らくではあるがあちらも同じ。

聖術について話題に出すのは止めたほうがいいのかも、いや、それともあえて話すほうがいいのだろうか。

元々こっちで協力者を作るのは必須だったのだから。


「まぁ魔術も魔力次第だが魔石のついた杖という補助があれば―――「いや、その前にひとつ訊ねたい」―――なんだ?」

「貴方たちは【魔王】という存在を知っているか?」

「フェリ!? いったい唐突になにを―――「ラグナ様は黙っていて下さい」―――はい……」

「そう喧嘩すんなよ。それより魔王だっけか? そりゃあ知ってる。今の時代に魔王を知らん奴はいないさ」

「ほ、本当かっ!?」

「ああ。今は力ある奴らがあっちこっちで名乗ってるからな。俺様が魔王だ! ってな」


男の言葉に耳を疑った。

魔王という存在は、そんなにも多く現れるものなのか。

知らされている情報との齟齬は無視できないほどに大きすぎた。


「魔王が複数? 魔王とは世界を支配する者のことではないのか?」

「……隠す気がなくなったか。それなら身の上話も入るんだろ? 長い話なら酒場でしよう。ほら、村が見えてきたぞ。しっかりフードを被って行進だ」


男の言葉で前を見れば、遠くに木製の門と二人の門番が立っているのが見えてきたところだった。




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