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バナナの皮

 ぼくは町を歩いていると突然バナナの皮に滑って転んだ。

 いてて誰だよこんなところにバナナの皮を捨てた奴は。

「大丈夫……ですか?」

 と、一人の女の子の靴が、倒れたままのぼくの視界に入ってくる。

 赤い靴だった。 

 それに女の子の差し伸べる手が重なっていく。

 ぼくは見上げて

「白」

 と言った。

「きゃー!」

 と女の子は手を引っ込めて、そのスカートを押さえ、ぼくの顔面を思いっきり蹴った。

 ぼくは死んだふりをした。

「あわわ」

 と女の子がそこで慌てている。 

「どうしよう、わたし人を殺しちゃった。逃げようか。だけどもうみんながわたしを見ているし……」

 それが可愛いのでぼくはしばらく死んだふりを続けることにする。

 女の子が、ぼくの首に指を当てる。

「脈も止まってるし!」

 しかしそれは、脈の取り方が下手くそなだけだった。

 女の子は、泣きそうになりながら

「自首をするしかないのかな」

 と言う。

 この辺でぼくは、生き返ったふりをした。

「よかった!」

「川が見えたよ」

「川?」

「おばあちゃんがいた。『あんたはまだ生きてすることがあるよ』。そう言われてぼくはひき返した」

 しかしおばあちゃんはまだ生きている。

「ああ、よかった! ごめんなさい! ごめんなさい!」

 騙されやすい子だな。

 申し訳なくなるぐらい。

 そして彼女も彼女で、ぼくのことを申し訳なく思っている。

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