08
「はじめましてー! 熊谷夕です!」
「は、はじめまして、犀川梓月です」
夕ちゃんは私の手を握ってぶんぶんと上下に振る。
多少激しい子だけど、さすが由梨さんの妹といった感じだ。
「で、犀川さんという方は……」
「だからそいつが犀川梓月よ。こいつも言ってたじゃない」
「えぇ!? こ、こんなに小さいのに高校2年生っ? だって胸だって私より小さいよっ?」
「泣いてるからっ、梓月泣いちゃってるから!」
泣いてなんかないっ、けど……改めて自分の小ささが悲しくなる。
でも、さり気なく由梨さんが名前で呼んでくれて嬉しかったからプラスマイナスゼロだ。
「ふぅん、それじゃあちょっと来て」
え、こういうところは由梨さんっぽいっ。
私は無理やり移動させられふたりと距離ができた。
これでは助けを求めることすらできない。
「ねえ、もしかしてゆー姉のことが好きなの?」
「え、ちが……あ、お友達としては好きだけど」
「ゆー姉は狙わないでね、あー姉だったらいくらでもいいから」
お姉ちゃん大好きっ子で微笑ましい。
もし妹がいたら、これだけ思われる姉になってみたいものだ。
「ま、ゆー姉は多分あー姉のことが好きなんだろうけど。そういう意味では私もあなたも同じかも」
え、ナチュラルに私が綾さんを狙っているかのような言い方はやめてほしい。
確かに一緒にいたいし、顔を赤くしていたりすると可愛いけど、それこそ由梨さんのことが好きなことは分かるし、本人から聞いているので勘違いもできない。
「えっと、梓月って呼んでもいい?」
「うん」
こういうぐいぐい引っ張ってくれる子は重要だ。
それにこの流れなら友達になれるのもすぐだと思う。
「梓月さ、最近あー姉たちと知り合ったばっかりでしょ」
「うん」
「だと思った。だって変な遠慮してるの分かるもん。そういうのいらないからね? あー姉たちといたいならどんどん積極的にいかないと!」
受験生の女の子にアドバイスされてる高校2年生って……寧ろ私がアドバイスしてあげなければならない立場なのに。
「夕ー」
「あ、いま行くよお姉ちゃん! 梓月っ、一緒に頑張ろうね!」
「う、うん」
ふたりに加わって歩いていく。
いつの間にか由梨さんの横に夕ちゃんが、私の隣には綾さんがいた。
横をちらりと眺めてみたら、どうしてか頬を膨らませて前を見ている彼女の姿が。
そっか……だって由梨さんと仲良くしたいんだもんね。
「ごめん」
「え?」
「本当は由梨さんとふたりきりが良かったんだよね?」
そのタイミングで彼女が足を止めたのでこちらも止める。
「もう、なんで梓月ちゃんってそうなの?」
「え?」
綾さんや由梨さんが相手ならどもらなくなってきて良かったと思うんだけど……。
「や、確かに由梨とは仲良くしたいよ? 別にこだわりがあるわけじゃないけどふたりきりになれたら気が楽だし落ち着けるからね。だけどいつもそう考えているわけじゃないからね? そこを誤解しないでくれると嬉しいかな」
「ごめん……」
「だからそこで謝るんじゃなくてさ……」
そう言われても分からない。
長年一緒に過ごしてきた相手がいるならそちらを優先したいと考えるはず、そう判断してああ言ったまでだった。
私が夕ちゃんに会いたいと頼んだせいでふたりきりの時間が減ってしまったわけだから謝っただけなんだ。
だけど本人は違うって言う、となればこれ以上言うと喧嘩になる可能性があるので口には出さずふたりを追って歩きはじめた。
由梨さんみたいになんでもはっきり言ってくれればいいのにと考えてしまうのはわがままだろうか。
「きょ、今日家に来る?」
「うーん、連日お邪魔したら申し訳ないしやめておくよ」
「そっか……うん、そうだよね」
全部避けられているように考えてしまう。
なんで私はこんなに臆病キャラに育ってしまったんだろう。
前のふたりに加わることもできずに別れ道が来たためひとりとぼとぼと退散。
家に着いたらまず真っ先にシロさんを探してガバッ、ギュウッ、顔埋めをした。
「やっぱり嫌われてるのかな……」
「に゛ゃ」
「あ、ごめん……苦しかった?」
シロさんは全く気にせずぺたりと座り込んだ私の足の上に丸まっただけだ。指を口元まで持っていくとぺろっと舐めてくれる。
「いやいや、早とちりは駄目だよね」
嫌っているのならわざわざあんなことを人は言わない。まだ興味があるからこそしっかり注意してくれるんだ。
確かに私は決めつけているところがある。よく分かってないのに偏見で物を語るのは良くない。そうやって考えていたら本当にそうなってしまうだろう。
綾さんと由梨さんにはずっと友達でいてほしい。関係を継続できるかどうかは私にかかっているというわけだ。だったらポジティブ思考でいないと。
「シロさん、私頑張る」
ごろごろと喉を鳴らして彼女は応えてくれた。
なんとなくだけど「頑張って」と言ってくれているような気がした。
「うわーんっ、だめだー!」
先程からずっと同じことを言ってはソファに顔を押し付ける、それを繰り返していた。
「もう、どうしたの?」
「お母さん聞いてー」
「はいはい、言ってみて?」
カクカクシカジカゆっくりと説明。
「えっと、綾はその子と仲良くなりたいんだよね?」
「うん……だって魅力的なんだもん」
「だけど、素直になれないってことなんだよね?」
「うん……なんか恥ずかしくて」
白色のリボンをつけてきたときなんかは可愛すぎて遠ざけることでしか平静を保っていられなかったのだ。席替えで極限まで近くなってしまったというのも大きいけど。
「で、その子は自分とよりも、ゆーちゃんと一緒にいたいって考えているんでしょ?」
「うん……由梨は好きだけど梓月ちゃんとも一緒にいたいもん」
「お母さん今週の土曜日まではお家にいるから、その子を連れてきてくれない?」
「し、梓月ちゃんを?」
私がはっきりと言ってからは遠慮もなくなったし、まさかの名前を呼び捨てにだってしてくれたくらいだ、きっと頼めば来てくれるだろう。
だけどなんだろう、1度もう来てもらったというのになんだか無性に恥ずかしいのは。
「あ、金曜日から泊まってもらったらどう?」
「えっ!?」
「ふたりきりが緊張しちゃうならゆーちゃんも連れてきたらいいでしょ?」
由梨だったら頼まなくても来てくれそうだ。
しかし今度はあれだ、ふたりが仲良くするところをあんまり見たくないというか……ずばずばはっきり言う分、梓月ちゃんだって分かりやすくて好きだろうしさ……。
「あ、ふたりが仲良くしているともやもやしちゃうんだよね?」
「う、うん……ってっ、なんで分かるの!」
梓月ちゃんも結構顔や雰囲気に出やすいけど、なんか恥ずかしい。
「分かるよー、大事な娘のことだもん。なら夕ちゃん?」
「同じだよ、今日だっていきなりふたりでコソコソと話をしていたし……梓月ちゃんはなんか人に好かれるんだよ、自分はひとりぼっちとか考えているんだろうけどさ」
「ならふたりで頑張らないとね! あ、だって私がいるんだから大丈夫でしょ?」
にしたってずっと一緒にいるわけでもないだろう。
お母さんが1階にいるのならどうしたって部屋に案内することになるだろうし……え、部屋に案内とかむりっ。
「お、お母さんが自分の部屋にいてくれればリビングで過ごせるからよろしくお願いします!」
「えー、い・や・だ!」
「そこをなんとかっ、大事な娘の頼みなんだよっ!?」
「だからこそだよ、大事な娘の友達だからこそ見たいの。よろしくね!」
「あ、ちょっ、もう!」
まずは誘うところからだよね?
メッセージで送るとすぐ返信がこなかった時にバタバタしそうなので明日直接言うことにした。というか明日が金曜日だし。
「だ、大丈夫っ、梓月ちゃんならきっと!」
連れてこれたら絶対にお母さんから対価を得る。
お金を得たら……ふふふ、あれを買おっとっ。




