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03

 いつでもどこでも寄り添ってくれる存在、シロさん。

 今日も私を護衛対象として彼女は行動していた。


「お湯、大丈夫なの?」


 足が濡れていてもごろごろと喉を鳴らしている。

 な、なんだろう、この無垢な表情が逆に気になる。

 こちらを見つめるつぶらな瞳と耳が洗面所の方を向いたと思ったら、扉が開けられそこにはお父さんがいた。


「梓月、シロ知らないか……って、ここにいたんだな」


 ……娘が入っているのに躊躇なく開けるのは良くないと思う。

 そりゃ全然胸がないから男扱いをしているのかもしれないけど、配慮が足りない。


「シロは風呂でも落ち着いてんなー」

「に゛ゃー」

「相変わらず第一声は低いしなー」


 シロさんが移動しようとしないからお父さんも戻ってくれない、こういう点はデメリットかも。


「あ、そうだ……今週の土曜日、公園の草むしりに参加してきてくれ」

「え、お父さんは……」

「俺は土曜日も仕事でな。頼んだぞ」


 そんな……大人の人に囲まれるとか1番避けたいことなのに。

 ああ……いつだってシロさんがいてくれれば普通でいられるのに。


「連れてく……わけにはいかないし」


 彼女が濡れる前にお風呂から出て拭いていく。シロさんもきっちり拭いて何気に肉球の感触を味わっておく。


「大丈夫だよね……黙々とやっておけば」


 別に馴れ合い、コミュニケーションをしに公園に行くわけではない。成長してしまった雑草を抜くという戦いに行くだけ。


「にゃー」

「うん、頑張るね」


 帰ったらこの子と弄れればいい。一応ノミ、ダニのリスクが怖いのでお風呂に入ってからだけど。




 土曜日。

 首にタオル、軍手を装備し公園へと赴いた。

 早く来すぎたものの、もう始めている人が見えて一安心。

 とりあえず誰も来なさそな、だけど「犀川さんち来てないわ」と言われないよう気づかれる場所に屈み草むしりを開始。

 せっせせっせと抜いていく。

 時には両手を使って引っ張り尻もちをついたりして。

 時には凄く奇麗に抜けて、気持ちよさを味わったりして。

 問題だったのは草の量が多かったことと、意外に人が多かったこと、あと暑いこと、ひとりでやるのが少し寂しいことだった。


「犀川さん」

「ひゃっ……あ、山下さん」


 土曜日に労働とは本当に偉い子だ。

 どうやらお母さんと来たらしい。親子揃って偉い。

 本当は参加してほしいけど任意なので来るのも来ないのも自由だから。


「そうだ、この後ミルキー見にくる?」


 それは凄い嬉しい提案だった。

 だけど今の私は汗だく状態、おまけに雑草まみれのところにいたので被害を出してしまうことを考えたら、こくりとは頷けなかった。


「……あ、汗かいてるし、ダニとかノミとかついてたらミルキーさんが可哀そうだから」

「それならお風呂に入っていいよ? どうせお母さんは知り合いの人とランチに行くって言ってたし、お父さんは仕事だからね」


 山下さんとふたりきりなのも緊張するところなんだけど……。


「ふん、それなら私も行くわ」

「あれ、由梨も来てたんだ」


 全然気づかなかった。

 でも分かってる、彼女がこういう作業の時真面目にやっていることは。


「どうせ綾とふたりきりは緊張する、みたいなこと考えてるんでしょ? 遠慮するのは大切だけど、いつもすればいいというわけではないのよ」


 ば、ばれてた……表情に出やすいのかもしれない。声の抑揚がはっきりしているとかって可能性もある。

 こくりと頷いて雑草との戦いを再開。話すのは後だってできるのだから。


「ふぅ、結構頑張ったね私たち!」

「当然よ、来たからには真剣にやるわ」

「お、お疲れさま」

「うんっ、犀川さんもお疲れさま!」

「お疲れー」


 ふたりが代わりにお茶のボトルを受け取りに行ってくれた。……なにからなにまでお世話になってお恥ずかしい限りである。

 そして約束通り山下さんのお家にお邪魔することになった。


「服とタオル、ここに置いておくからね」

「あ、ありがとう」

「うんっ、それじゃあごゆっくりー」


 山下さんのを借りるということから念入りに頭や体を洗って洗面所に。


「ふふ、私より小さい人間がいたとはね」

「な、なんで……」

「私も汗かいたから入りたいのよ。いいからどいて」


 あれ、だけど自分の洗濯物をどうやって持って帰ればいいんだろう。というか汗で濡れた下着をそのまま――というのもなんか嫌だな。かといって山下さんの服やズボンを汚すわけにはいかないし、ノーブラ、ノーパンもちょっと問題があるし……。


「由梨ー――あ……ご、ごめん」

「あ、あの、下着って……」


 慌てて戻ろうとする彼女を呼び止めて本題を切り出す。


「あはは……流石に下着を貸すのは恥ずかしいかな」


 だよね……私だって貸すのは無理だ。


「あ、でも、履いてたのは濡れちゃってるよね? 履かないっていうのは問題があるし……」

「や、やっぱり服とかはいいよ、これを着……着る……」


 炎天下とふたりに囲まれて緊張していたみたいだ。服に触れただけで気持ちが悪い感触が……。


「あれ、あんたたちまだここにいたの?」

「す、少しは隠して!」

「別にいいじゃない。で? 今度はどうしたのよ」

「犀川さんの下着問題、かな」


 すみません、ずっと迷惑をかけっぱなしですみません。


「ノーブラノーパンでいいじゃない。少なくともブラは私たちに必要ないものよ」


 確かに私のは膨らみがまるでない。

 筋肉を鍛えていたら男の子の方が胸囲がありそうだ。


「もう由梨ってば……」

「仕方ないわね。由梨、私のここに置いてたわよね?」

「うん、なんでかは分からないけどね」

「そりゃここに、頻繁に、泊まるからに、決まっているじゃない。それを貸してあげるわ」

「強調しないで……持ってくるから待ってて」


 数十秒後、山下さんが熊谷さんの下着を持ってきてくれた。


「はい」

「で、でも……」


 汚しちゃうかもだし……。


「気にしなくていいわよ。好きに使いなさい」

「や、やっぱり今日は帰る」

「はぁ?」


 せっかくお風呂に入ったけど人のを借りるのはいけない。

 汗で濡れた服を着て出ていく前にお辞儀をしてから山下家をあとにした。


「気持ち悪い……」


 なんで汗をかいてる時はいいのに、一旦脱いでから再び着ると嫌悪感が出るのか不思議だった。




「ったくあいつ……」

「まあまあ、私も犀川さんの気持ち分かるよ」


 服ならともかく下着となればなんとなくは分かるけど、あれでは自分が避けられているみたいで嫌なのだ。


「にゃ~」

「ふふ、だいぶ由梨にも慣れたよねミルキー」

「ふん、よっぽどシロの方が可愛げがある――ぎゃああ!? ま、また噛んだわこいつ!」

「そんなこと言うからだよ。ミルキー」

「にゃ」


 とてとてと飼い主に近づき体を擦り付ける猫。

 って、普通他所様の人間を噛んだら賠償問題に発展するわよっ。


「シロちゃんはシロちゃん、ミルキーはミルキー、比べるべきではないよ」


 でも自分が劣っていると分かればやはり気になるものだ。

 私があいつに突っかかる理由――それは点数で負けているから。

 運動神経が悪いし、ドジだし、たまに泣きそうになっているしで基本性能が低いのに、なぜかテストの点数でだけは勝ったことがない。

 ひとりでいるが故のメリットなのだろうか。


「犀川さん偉いよね、任意なのにね」

「んなこと言ったら私たちも偉いじゃない」

「私は参加したらお駄賃くれるって話があったから参加しただけだよ。聞けばお父さんの代わりだって言ってたし、ひとりで黙々と頑張ってたからね」


 声が小さい、コミュ障、なのに人の仕事を代わりにやったりする女。

 授業態度も悪くない、詳しいことまでは分からないが成績だって優秀だろう、なのにひとりでいるのがむかつくのだ。


「でもさ、話しかけると可愛いよね。普段は無表情でなにを考えているのか分からない感じなのにさ」

「そうね」


 それどころか冷たさすら感じる。

 まるで私たちのことなんて意識していない感じ。


「だけどもうちょっと遠慮しないでほしいかな……いまのままだと避けられているように感じるからさ」

「まあ慣れてないんでしょ、あいつが私たち以外の人間と会話しているところなんて全然見たことないし」

「だから関わり続けるって決めたんだ。嫌な顔をされても、いつかは笑顔を見せてくれると信じて」


 昔、委員長になったのが影響しているんだろう、ひとりでいる子を放っておけないんだ。

 ま、私は私で点数で勝てるようになるまで関わり続けるつもりだけど。

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