104日目
夏休みが終わった。
長かったようで短かったようで。やっぱり例年よりは長く感じた。
色々なことがあった夏休みだった。一生何があろうと忘れまい。
そんな中で通したカッターシャツの半袖は、懐かしさや感慨深さなんて想起させてはくれなかった。
――今この場で丸ごと脱ぎ捨てて、エアコンの効いた部屋で寝っ転がれたらどれだけ良いか。
脳裏を過ぎるのはそんな俗っぽい想像だけである。
形式ばった始業式も終わり、マイナス気分な言葉が飛び交う廊下を歩き、今日久しぶりに入った教室で数秒席を探してから着席した。
やんややんやと騒々しい空気で頭が痛くなりながら、睡魔に任せて眠りこけんと机に突っ伏した。
「ちょっとユウ。新学期の朝っぱらから辛気臭い空気出すんじゃないわよ。こっちまで気が滅入ってくるわ。オワカリかしら?」
「……なんだぁ……頭痛くなるから話しかけないで……」
前の空席にわざと大きな音を立てながら座ってみせたのは、天下の勇者様、恵璃である。
「だ か ら ! 辛気臭いっつってんのよ、顔上げろ! …………て、何よ。アンタ昨日何時に寝たわけ?」
「……やっぱり隈できてる?」
「そりゃもう、タコ殴りされたボクサーみたいになってるわよ。――で? 何時に……てか何時間寝たの?」
「うーん。一時間くらい?」
「逆によく一時間だけ寝る決心が付いたわね……」
「いんや、朝教室来てからと、始業式で」
「……健全な学徒にあるまじき行為ね。気に入ったわ」
「そりゃどうも」
気に入られても困るし、眠いし頭痛いし思考もまとまらないから話しかけないでくれ。
――なんて口に出した日には地獄を見るに決まっているので、わざわざ言わない。察してほしい。
「どうやら昨日はお楽しみだったみたいね。
なに? 実は夏休みの宿題終わってなかったとか?」
「まあ、大方そんなところ」
若干言うべきかどうか迷ったが、考え込むと不協和音が脳内でごわんごわんと反響しそうで、つまり頭が痛くなるから考えたくない。そのまま話す。
「昨日の夜にさ、マサが『夏休みの宿題終わってないから助けて!!』って泣きついてきてさ」
「へー、マサにしては珍しいじゃない。いつもなら泣きつく以前に提出する気がないでしょ。夏休みの宿題なんか」
「……そういやそうだ」
「それで朝まで徹夜で手伝わされたわけ? それも中々に律儀ね。ユウなら途中で問答無用で寝そうだけど」
「いんや、3DSの充電切れたら朝ごはん食べる時間だっただけ」
「なによ。――そんなん私も誘いなさいよ!」
無茶言うなよ。
その言葉を睡魔の渦に呑み込んで、裕也は意識の綱を手放した。
恵璃をあんなテンションの場に誘ったら、絶対ロクなことにならない。そんなの分かりきってる話なのだから。
【忘れ去られるまで896日】
朝までゲームとかしたい