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80日目

 


「ということで、【勇者】になったわ!」



 空いた口が塞がらなかった。それはもうぽっかりと、唖然として言葉が見つからないのだ。


 中学二年生。夏。

 夏休みも八月に差し掛かった、炎天の昼下がり。


 ジリジリと太陽はアスファルトを焦がし、遠くの景色は陽炎の如く揺れている。

 端的に言えばめちゃくちゃに暑い。――だと言うのに、これで今年の最高気温更新ではないのだと朝のニュースは告げていた。

 近年の夏日の恐ろしさを垣間見る。深刻化する地球温暖化は少なくとも日本の辺鄙へんぴな地方都市を地獄に陥れているのだ。誰か電気節約しろ。

 あと(せみ)がうるさくて仕方がない。夏の風物詩だというのは分かるが、とりあえず黙って欲しい。


 そんな低俗極まりない死活問題について悶々と考えながら、少年、神城(しんじょう)裕也(ゆうや)は部活を終えて帰路についた。


 ――はずだった。



「【勇者】ぁ??????」



「そう、【勇者】」


「お前がぁ??」


「そう、私が」


「マジで??」


「だから、マジって言ってんでしょうが。私がこんな嘘つき続けてなんの意味があんのよ?」


「……えぇ…………マジ?」


「だからぁぁぁ――――」


 突然自室に乗り込んできた幼なじみ、瀬乃(せの)恵璃(めぐり)が、ぶっ飛んだことを誇るかのように言い出したのだ。


 あ た ま お か し い の?


 今どき『いきなり【勇者】になってみた!!』なんて、少年漫画でもやらないような捻りのない設定だ。十週で打ち切りだぞ、その構想だと。


 だが一つだけ。彼女の妄言同然の与太話に信憑性をもたせる要素が、この街には一つだけあるのも事実だ。


 前提としての情報を共有しておこう。

 この街に住み――そして童心をいい歳こいても忘れられない社会不適合者にお似合いな、そんな眉唾な都市伝説。


 この街には【勇者伝説】なる御伽噺があるのだ。

 簡単な概要はこうだ。


 民草に破壊と死を振りまく災厄の存在【魔王】が地の底からやって来て、それを何やかんやで【勇者】なる超越者が討伐し、この地に封印した。

 しかしそれは魔王の長い眠りでしかなく、いつの日か目覚めてしまう魔王に対抗するため、勇者もまたこの地に眠っていると。


 明らかに歴史は浅そうで、どう考えても日本の土には合っておらず、そもそも御伽噺であるかも審議の必要があるのではと、裕也は常々思っている。

 ――だが、だからこそ記憶の片隅にいつまでも残り続けているのだとしたら、わざとそういう体裁を取っている技巧派で性格の悪い御伽噺なのかもしれない。


「疑うのは無理もありません。ですが虚言で貴方を惑わす意図はない。

 メグリが【勇者】に選定されたのは真実であり、なればこそ【魔王】が百年の眠りから目覚めようとしているのは自明の理。我々はそれに備えなければならないのです」


 そして恵璃の隣で座した、赤髪で蒼眼の美女。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()彼女は、『フィリエル』さんと言うらしい。


 日本人では無いのは秒で確定したが、まさかの異世界人で騎士様なのだと言う。


 あるんだ……異世界。へぇ……。騎士って……。ジャージ着てるのに?

 めちゃくちゃ堅苦しい喋り方してるし、所作も何だか普通じゃない。無駄がないというか、完成されてる? だいたいそんな感じ。


 何はともあれ。


 この日、少年の幼なじみは【勇者】となった。

 そしてその超越者としての素養を、これから『試練』として試されるのだと。

 そんな全くもって無関係と思える騒動に、今まさに巻き込まれんとしているのだと、少年はまだ知らなかったのだ。


「うそ……だろ……」


「言ったでしょう? 虚言はありません」






「『試練』は既に始まっている。――()()()()()()






 この日。勇者の【認定試練】が行われ、


 神城裕也は、勇者の【眷属】として道を共にする選択をした。




【忘れ去られるまで920日】

専門用語的なものがゴロゴロ出てきますが、しっかり覚えなくてもいいかも


著者の趣味が溢れ出してるだけなので

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