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1日目

 


「ユウはさ。【勇者】って信じる?」



 少女がそんなことを聞いてきた。

 あまりにも突拍子がなくて、少年は「からかっていいか?」と馬鹿正直に聞いてしまう。



「目玉ほじくるわよ」



 まだ隻眼に踏み切るほど厨二病を拗らせてはいないので、丁重にお断りする。



「で、どうなの?」



 そんなの信じてるやつ居ないよ。今度はまともに答える。



「じゃあ【勇者】についてどう思う?」



 問答は終わらない。

 彼女の語る【勇者】とは、この街に残る御伽噺のことだ。

 どう思うかと言われても、正直困ってしまう。

 愛と勇気で人々を守り抜く、みたいな?



「なんでちょっと疑問形なのよ」



 だって知らないし。僕はただの中学生だし。



「不甲斐ないわね。なんかこう……なんか……もうちょっとあるでしょ!」



 うーん、そうだなぁ。

 個人的には人知れず人々を助ける系?

『誰に認められなくとも……俺一人だけの戦いだとしても。俺は戦う……!!』的な孤独故の葛藤とかあったら良し(ベネ)かな〜。



「ユウの好みなんか別に聞いてないわ」



 ヤバい。キレそうだ。



「まあいいわ。アンタの思う通りのボッチ【勇者】だとしましょう。あながち間違いじゃないかもね。

 ……ねぇ、もしもよ。ユウ」



 月がこちらを見ていた。




「もしも私が【勇者】になったら、ユウはどうする?」




 その瞳には嘘はなく、虚勢はなく、強情も否定も疑心もない。

 ただそう思ったから、そう尋ねただけ。

 ふと聞きたいと思ったから、気まぐれに尋ねただけなのだろう。


 この少女の人生は十割の計画性(レシピ)と、もう十割の天啓(スパイス)で出来ている。彼女は将来的に善性を備えた暴君となるはずだ。

 遠くて眩しい、月光の瞳。



「ならないよ」



「……はぁ?」


「だから、メグはそんな【勇者】になんかならないよ」


 少女は純粋な疑問を、いっそ不機嫌に見えるほどに歪ませた眉で表現した。

 少年は切り返される前にすぅぅぅぅっと息を吸い、めいっぱい声を裏返す。


「『はぁ? なにそれ意味あるの?』」


「……え、いきなりなによ……怖……」


 唐突な裏声は、声変わりを終えたばかりの少年にしては上出来な部類だと自画自賛したが、少女には普通にドン引かれた。ヒドイ。


「メグが【勇者】になってから言いそうな第一声。

 ――『はぁ? 勇者は孤独ぅ? バカ言ってんじゃないわよ。友達いっぱい、武器いっぱい。手数は力よ力!』……みたいな?」


「なんでちょっと疑問形なのよ?」


「僕、別にメグじゃないし」


「あっそ。――もしかしたら孤独を強いられるやむを得ない事情とかあるかもしれないんじゃないの? 【勇者】って」


「『いい? ルールってのはね。穴を見つけてからが勝負なのよ』……とか何とか言って結局なんとかするんじゃない? 知らんけど」


「ユウの中の私はどんなやつなのよ……」


「暴君。……知らんけど」


「アンタそれ付けたら許されると思ってるでしょ」


「付けなくても許されると思ってる」


「じゃあ許すわ。貸し三つね」


 そう言うと、少女は勢いを付けて前に跳んだ。座っていたブランコが慣性のままに揺れる。




「それで? 結局私がアンタの言う通りの【勇者】になったとして、ユウはどうするの? どうしてくれるのかしら?」




「そうだなぁ、僕は――」



 この時、いったい何を答えたのだったか。


 でも確か、最高にカッコつけて言ったのだ。

 少年は『それ』を言ってから無性に小っ恥ずかしくなったような。全身が痒くなってから帰路に着いたような。


 そんな気がする、昔々で、ついこの前のお話。




【忘れ去られるまで999日】

1000日やる言うてますけど、1000日もやりません。


1日目やって書いてますけど、次は2日目やありません。


次回は80日目。作品内時間をちょこちょこ空けながら書いていきます。よろしくです


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