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妖精の輪と時のロンド〜妖精たちのいるところ  作者: ゆずはらしの
囮になってみました。~Mが多くないですか。
23/45

1.

夏至までに終わらせたかったのですが、間に合いませんでした。残念。

 大気の中にある光。それがきらめきを増した気がした。




「来ないなあ」


 とりあえず、俺は一人でうろついた。離れた所にケルピーとアーサーがいる。トリスタンも、ちょっと離れた所から俺を見つめている。


「警戒されたのかもしれないね」

「もうちょっと離れた方が良いか?」


 甘く香る大気。顔を上げると、きらきらとした輝きが、俺の周囲を踊る。

 どれぐらい、ここにいる?

 あまり長くなると、人間の世界の時間との調整が難しくなる。こちらとあちらでは、時間の流れ方が違うのだ。下手をするとアーサーは行方不明扱いになる。何日も消えていたと、戻った時には騒ぎが起きるだろう。かつて、俺がそうなったように。


 ……。


 ちょっと暗い気分になった。最長は何ヶ月だったっけ。こっちでの時間の流れ方って、本当に良くわからないと言うか。

 まさかそんなに時が過ぎてるなんて思わなかったから、帰った途端、辻褄合わせに冷や汗をかいた。帰るのに苦労して、帰ってからも苦労して。母親が経験者だったので、フォローはしてくれたけれど。

 受験の日に何かあったら、浪人してたよな……。


 中間試験や期末試験の時は呼び出さないでくれと、知り合いの妖精全員に頼み込んだ。それでも何かの拍子に引っ張られる事があったので、普段の授業中、必死で集中した。試験勉強がまるまるできない事もあったからだ。記憶できるものはその場で記憶! が俺の勉強法になった。

 おかげで集中力や記憶力は鍛えられた。怪我の巧妙というやつだろう。しかし勉強する時間は、他の同級生たちより格段に少なかったはずだ。高校にも大学にも、良く受かれたなと思う。


 病弱で、健気系の美少年。


 自分がそういう評価を受けていたと後から知って、複雑な気分になった。どの辺りを突っ込めば良いのやら。

 最近は、一日で帰る! を目標にしている為、学業やバイトに支障が出る事はさほどない。妖精の友人たちからは不評だが、そうでもしておかないとこの先、就職に影響する。たぶん。


(でもある程度、時間に余裕のある職種じゃないと、問題起きるだろーなー……)


 予測できてしまう、自分が悲しい。


(それにしても、病弱……)


 ……。

 …………。

 ………………。


「タカシ? 顔色悪くなってますよ。気分でも?」

「ナンデモナイデス」


 アーサーの言葉に力なく答えた。瑠璃子の友人が書いている、トンデモ本の内容を思い出して、力が抜けそうになったのだ。恐ろしい事に俺が主人公だという(絶対嘘だ!)。ファンタジーなんだかSFなんだかオカルトなんだか、よくわからない内容の(現代物じゃない時点で主役が俺ってありえないだろう!)。思い出すな、俺。名前が同じでも、あれは別人。どこか別のとこに住んでる知らない人!


 俺はフツーの男の子です。うなじからフェロモン出したりしてないです。びらびらした服も着てないです。なぜかいつも満月の庭で薔薇喰ったり、霧の中でにやにや笑ってる趣味はないです。王子になった覚えも、姫になった覚えもないです。もちろん不治の病だったり、血を吐いたりもしてません。大体、どうして相手役が男なんですかーっ!


『人気あるからシリーズになってるよ!』


 笑顔で言った妹の言葉まで思い出した。シリーズ。あれが何冊も。


『一番人気は、家族を全て殺されて、孤独に生きているお兄ちゃんが、真実の愛に巡り合うまでを描いた『月光の中に咲く薔薇』シリーズなの!』

『家族を全て殺されてって……』


 書いているのはおまえの友人じゃないのか、瑠璃子。



 りん。

 りん。り、りん。

 り、り、りん……。



 小川のせせらぎが、銀色の音色を響かせる。鈴のように。ふと、そちらに意識が向いた。



 り、

 り、り、りん。

 りん、……。



 三拍子。螺旋。

 あれは、何の意味。それに、あの夢。



 ……りん……。



 俺に見えているものは……何。

 ふっ、と大気が重くなった。輝きが消えて、陰りが生じる。


「来る」


 トリスタンが少し離れた所でつぶやいた。音楽を産み出す妖精は、そうした声ですら、どこか心をとらえる。


「タカシ」

「アーサーの側にいてくれ」


 俺を呼んだケルピーにそう返して、俺は腹に力を入れて立った。生臭い風が吹いた。そして。

 じわり、と。

 滲み出る、闇。



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