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マキャベリズム


○理科教室にて


理科教室は美術室と違った透き通るような芸術性があるように思える。それは写真部という記録を貯めることにより、その芸術性を阻害する活動一派を内包していてもなお健在だった。

もとより、写真部はアルバムの如く写真を撮りはせども、ぶちまけることはない。


美術部のように強く主張するのではなく、強かに主張するのが写真部というものだと僕は認識している。


それは矢坂 未咲のような部員達も例外ではない。強かに思わぬところから切り込んでいく。

忍者や怪異のような陰険な部とも捉えられている節がある。


その陰険集団の最高峰。根暗にして陰湿、悲観的にして絶望的な部長はこれまた何の合縁奇縁か、ぼくの従兄弟にあたる人間だったりする。


情景描写をするならば、僕が座っている椅子の対岸にいそいそと折りたたみゲームに励んでいる前髪の長い男、ゲーム部とかではなく正真正銘の写真部部長である。理科室にはその他副部長殿しかいない。


部員達は今日も今日とて学内恋愛ーーいや、風紀の乱れを感じさせる被写体を曲がり角から家政婦の三田ばりに覗いて盗撮する。


犯罪すれすれの線、はとっくに踏み越え、アウトゾーンまっしぐらだ。顧問の先生はどこに行ったのか、どこかの海の底か、単に気付いていないのか、写真部のスパイ的行為を放逐している。


そんなことを命令している頭目の名は相良 遊(さがら ゆう)

現実をゲーム世界としか認識できない相良一族の多様な変態性、バラエティーに富んだ異常性を示す模範的な偏屈人間である。


それもこれも仕方ない。

相良家は代々血脈が濃い人間ほど変態性の異常度が上昇していく。

故に兄と妹の間に子供ができたり、祖父と孫の間に子供ができたり、愛人との間に子供ができたり、どこの子かわからない子を連れてきたりと時代の先取りをし過ぎたような恋愛関係を築き上げることが多かった。


その分、家族会議と勘当と不審死の絶えない家系でもあったが、生き残った相良はより異常性を高めたものが残るという負のダーウィン進化論。


天才と変態と馬鹿は紙一重。変態も多い中、天才もそれなりにいる相良家は存外裕福だったりする。

いや、変態と馬鹿が双肩に乗ってるだけか。


ともあれ相良家の人間は大体訳ありで下手に首でも指でも突っ込もうことなら、唐突に死亡するかもしれなかったりする。

相良家の内情を善意や悪意で覗こうとした人間の3割は相楽家特有の呪い、通称ダモクレスの剣によって死亡してしまう。

残りの7割は途中で虫の知らせでも発揮したか帰っていく。


僕の目の前にいる男、相良 遊も昔とある調査できた役所の人間をどこかの山に埋めてしまったとか何とか。

さすが陰険だ。


「……何故、ここにきた?」

「何故って言われてもですね……暇潰し?」

「それなら他所でやってくれ、面倒ごとが感染る」


まるで人を病を媒介する虫のように嫌ってくれる。

僕としてはまだ何もしてないつもりだったのだが、既に気に触るようなことをしてしまったのだろうか?

俗に言う、存在が邪魔的なやつなら打つ手なしだが。


「でも、暇つぶしの後にある本筋自体は君の部活に大いに関わりがあるんだよね。なんて言ったって君のところ部員が絡んでくるからね」

「……そうか。俺に迷惑がかからない範囲で好きにしろ」

「あれ?素っ気ないな。部員のことだからてっきり『部員に手を出したら、お前を殺す』くらいは言うのかと思ったけど、遊さんって簡単に切っちゃうんだ」

「部員を庇ってお前から貰い火するくらいなら、トカゲの尻尾切りだ。お前のような人間に目をつけられる奴が悪い。人間性云々で悪くなかったとしても、運が悪い。それだけの些末なこと」


僕は手助けしているだけなのに、ひどい言いようだ。現実とゲームの区別もつかずある日突然電源を切られることに怯える毎日を過ごしている人間が、僕如きの心配をするだなんて滑稽にも程がある。

NPCが世界をメタ的に終わらせる手段など持ち合わせていないと言うのに、彼の中での恐怖になり得る何かが僕のうちにあると言うのだろうか。


僕にはわからない。

僕には感じ取れない。


でも仕方ない、僕らは異常な人間だ。共感なんて必要としない。


「運も実力のうちだもんね。ラック値ってやつ?ゲームでよく出るとかいうけど、あれって結局どの辺に影響が出るんだろうね?」

「ドロップ、回避率、命中率、その他確率が関わるものだ。しかし、この世界にラックなんてものはない。極論運だけで全てが思い通りになるなぞ、クソゲーだ。運だけで全ての努力が否定されるのも、クソゲーだ。ゆえに俺はそんなシステムが組まれているゲームはしない」

「そうだねぇ。この世界明確な正否も勝ち負けもないからね。もしラック値なんて世界の制御力が働くものならそれこそクソゲー。僕はそんなものに横やりだとか、耳水だとか、有難迷惑だとかをされるのは非常に不愉快だもの」

「お前はすべてを笑うからな。だから、皆に嫌われるんだ」

「嫌われてません」

「....嫌われて」

「ません。親切心と愛情の塊と自負している僕に付け入る隙も、穴もないです」


特に不愉快ではないけれど、部長から向けられる視線は深海のように冷たい。


でも冷たさにくじける僕ではないんですけれど。

むしろ憐れみますよ。

人のことをそのようにしか見れないだなんて。

あぁ救ってあげたいな。

掬い上げたいな。


これほど冷たい深海のような心ならば、地球温暖化させるのもやぶさかではない気がしてくるほどに。

木々のすべてを燃やし尽くしてもいいほどに。


希望のない人間は珍しくないけど、どの人間も僕が関わると全員悲しいことになる。

いや最初から死ぬという選択しかなかった哀れな人間たちだけど。


もとより、ほとんどの人間に価値を付けれはしないけど、そういった人間はなおさら。

他人を気にかけれなくなるほど自分の闇に足を突っ込み、手いっぱいになってしまう悲しい人間。

懺悔も自棄もただみんなの迷惑にしかならなくて、皆から見えないふりをされる悲しい彼ら。

死ぬことすら彼らは忌み嫌われる。


そんな種類の彼らを最期は希望の笑顔とともに送り出すのも、中々琴線に触れるものがある。

最期に死にたくないと思わせるほどに甘く溶かしてそれでも現実に打ちひしがれて、その辛さに殺される彼らを見るとーーさすがに恥ずかしげもなく、達してしまったり。


よだれが口の端から出るほどに。

腰が抜けてしまうほどに。


あまりイニシアチブというのには興味はないけれど、自分の掌の上に命を転がせるというのはぞくぞくするものがある。


この人もいずれは苦しみから救ってあげたい。


×したい。


部類は愛川さんと同じなのだろうけど、そこしか彼女とは似ていない。


「お前....今、相当気持ち悪いことを考えていたな?燃やすぞ」

「いやそこまで変なことは考えてないよ。いずれ君の手伝いをしたいなって。揺り籠からとは行けなかったけど、墓場だけ見守るのもありがたいと思わない?」

「蛇ににらまれるのをありがたいと思うやつはいない、そして俺がお前に何かを頼ることはない。疾く去れ。消え去れ。苦しみながら死ね」

「手厳しい。されど大丈夫、いずれ全人類は僕の手と慈悲で救済すると決めているので。自発的に助けて、と言わせるまでワンセットの話なんだけれどね」

「ここで消しておくのが世界のためか?」

「悪いけど、それは先約いるんだ。邪魔するなら容赦しないよ?命までは取らないけど、アハハ」

「……蛇めが」


僕は理科室を去った。

時間が来るまで問答したかっただけだしね。

それにこの件に僕が関わっていると知ったらあの部長様もそう簡単に手を出そうとは思わないでしょうし。

不利なイベントは未然に防ぎたいタイプの人だけれど、起こってしまった事には首を突っ込まない人でもある。

これで今日くらいは手出しをしてこないはず。










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[良い点] 思考が指向で嗜好が至高ですね! いやぁ、面白いです!
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