37
♪
インタビュー、表彰式、記者会見等もろもろの行事を終えて、ようやく解放されたのが22時だった。
ホテルに帰ろうと裏口から外に出ると――そこに未央が仁王立ちしていた。
「なんだ、子供はもう寝る時間だぞ」
俺がそういうと、彼女は露骨にムッとした表情を浮かべた。
「オリンピックにも行けないチビに子供扱いされた……」
「――今オリンピックって言葉を聞くと、正直結構へこむんだけど」
でもまぁ、事実だから仕方がないか。恥じるような演技ではなかったと胸を張って言えるが、それでもオリンピックに行けなかったのは間違いない。
「情けない」
と、未央はハッキリとした口調でそう言った。
そしてその後、さらに続けた。
「情けない“コーチ”」
その言葉に、ハッとした。
彼女と交わした約束。
翔馬に勝ったら、未央のコーチになるという約束。
そう、俺は未央のコーチになるのだ。
「四年後はわたしはオリンピックの金メダルを取る」
突然、未央はそんなことを言い始めた。そして、俺の反応なんてうかがうことなく続ける。
「その時の、男子のチャンピオンは誰なんですか」
そんな挑戦的な問いかけをされる。
その問いに対する答えは、今さっき決めたばかりだ。
「俺は四年後――オリンピックで一番になる」
自然と、そう宣言していた。
前はそんなこと絶対に言えなかった。勢いでも言えなかった。
それが今は自然と口から出てきた。
それを聞いた未央は、そのまっすぐな瞳で俺を見上げる。
「じゃぁ、わたし、お母さんに言いますから――わたしのコーチは、四年後のオリンピックチャンピオンだって」
それでいいんだな。そんな問いかけを含んだ直視。俺はそれをしっかりと受け止めて、そしてうなずいたのだった。
♪




